第6話 緑の瞳 6

文字数 853文字

 カナタの反応を追跡したら最上階の展望室に行き当たった。
 カナタは出窓で膝をかかえていた。
 わたしがそばまで行くと、顔を隠す髪の間から、潤んだ緑色の瞳が見えた。
 カナタには涙腺がついているのかしら……。
 小さく鼻を鳴らすとカナタはわたしを見た。
 カナタは無言でわたしを抱き上げ自分の隣に座らせると、そのまま視線は樹海へ向けた。
 カナタの目は樹海を見すぎて緑に染まってしまったのかも知れない。
「ごめんなさい」
 カナタは何も言わない。
「あなたが嫌がること言ってしまって……」
 静けさだけが場を支配したかに思えた、その時。
『!!!!』
 またあの信号が飛んできた。
「カナタ、わたしが……わたしが変になっちゃったの? どうして聞こえるの? あなたに聞こえない信号が」
 そうなんだ、変になったのはわたしなんだ。
 どうしよう、どうしよう、直るの?
「あれは幻だよ」
 うろたえるわたしをカナタがそっと撫でた。
「幻? カナタにも分かる?」
 うん、とカナタはうなずいた。
「大丈夫、ソラは変じゃない」
 カナタはわたしを膝に抱いた。
「小川博士に何か聞いた?」
「……カナタのきょうだいの話」
 そう、とだけカナタは返事をした。
「ハルカとカナタ、売れないコメディアンの名前みたいだよね」
 カナタは自嘲ぎみに笑った。でもどこか悲しげにも見えた。
「二人一組で活動していた。お互いの記録をバックアップするのが毎日の作業だった。ぼくらは二人分の記録を共有していた」
 あの日……と小さく呟いた。
「あの日、ぼくは修理中だった。両足がつぶれて片腕しかなかったけど、行かせて貰えばよかった」
 カナタは外を見たままで話した。
「あの日からぼくの記録は一人ぶんだけ」
「あの信号は?」
「……回収できなかったボディから……時々発生するんだ」
 カナタは眉を曇らせた。
 信号はカナタのきょうだいからのもの。まだあの現場に残されたままだなんて。
 カナタはわたしを抱いた。ただ二人で黙って外を眺めていた。
「今夜もあなたといていい?」
「一緒にいて」
 カナタが優しく微笑んだ。
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