十朱さん、佐藤くんと出会う
文字数 1,967文字
悪魔の十朱さんと、人間の佐藤くんの出会いです。
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彼こそが『佐藤くん』でございます。
お気に入りの漫画の発売日だというのに、駅の本屋に立ち寄るのを忘れ、
引き返そうか悩んでいる、至って平凡な青年でございます。
電柱の陰に馴染んでいる、渋い顔をした黒猫でございます。
その黒猫に声をかけた、
彼女こそ、悪魔の『十朱さん』でございます。コソコソと物陰に隠れながら、ペットの『クロ』に尋ねます。
表情までも、石のようです。
十朱さんが真っ赤にした顔で見下ろします。
その声に我に返った十朱さんは、クロから佐藤くんに視線を移します。
佐藤くんはと言えば、腰を抜かし口を震わせ、失禁寸前のみっともない姿ですが、
十朱さんの目には、この世で一番のイケメンに映っているようでございます。
そしてそのまま二人の距離が近づいてゆき――。
どこへともなく歩き出します。
佐藤くんも家に帰り、一夜明けるころには
「あれは夢だったのか?」と思い始めたのでございました。
すぐに思い知ることになるのです。
巫女のような袴に身を包んだ、十朱さんでございました。
佐藤くんは呆然と見つめます。
こうして、十朱さんの恋物語は幕を開けたのでございました。