第六話第 次なる目的地の選定とユウタ

文字数 2,045文字

 シャーロッテと入れ違いに、真剣な顔のユウタが戻ってきた。
 ユウタがキルアの向かいの席に座り、真剣な顔で宣言する。
「キルア、次の行き先は、ノーズルデスだ。ノーズルデスで一儲けするぞ」

(おや、ユウタにしては珍しく、自発的だこと。何か、哲学的に閃くことでもあるのか? だが、ユウタは、狂人的な閃きを時折するから、要注意だ。狂人と天才は紙一重の言葉もある)
「おい、本当に戦争で儲けようと考えているのか。哲学者らしくないな」

 ユウタはこともなげに語る。
「戦争で儲ける気は一切ない。むしろ、ノーズルデスを戦火に(さら)さない展開で儲けるつもりだ。むろん、戦争回避にも哲学は大いに役立つ。いいや、哲学なしでは戦禍(せんか)は避けられないと断言していいだろう」
(哲学がどうこういうが、ノーズルデスに何か守りたいものでもあるのか。だとしたら、協力してやってもいい。ユウタが哲学以外に守りたいものがあるのなら、興味がある)

「何だ? ノーズルデスに何か思い入れでもあるのか? 可愛い古書店の看板娘と知り合いか。だったら、協力してやってもいいぞ。男は誰でも、気になるあの娘の前だと格好つけたいものだ」

 ユウタが難しい顔で語る。
「思い入れか? あるといえば、ある。ないといえば、ない」
「外国料理屋のメニューのように、わかり難いな。それは、どっちだ?」

 ユウタが理知的な顔で、すらすらと語る。
「ノーズルデスの人間に思い入れは、ない。だが、ノーズルデスの悪魔に、思い入れがある。人も悪魔も、街を構成する一部だ。だから、あるとも、ないとも答えられる」
 キルアは悪態を()いた。
「面倒臭い理論だな。なら、ある、でいいだろう。パンがいいか、ライスがいいか、と聞かれたなら、パンと答える、でいいだろう。ライスでもいいけどな。とにかく、どちらかだ」

 ユウタが気にした様子もなく答える。
「哲学とは、理解されがたい学問だ。ちなみに、俺はライス派だ」
 気になったので確認しておく。
「そうでした。哲学にはライスでしたね。そんで、ノーズルデスに行く決断はいい。ユウタはレベル・アップをしたのか?」

 ユウタは澄ました顔で、現状を語った。
「レベル・アップはした。だから、金がない。新しい魔法を魔法屋から買うのに金が必要だ。そのためにも、ノーズルデスで一稼ぎしたい」
「要は、哲学ではなく、経済学の問題だろう。お金がありません、儲けたいです、でいいだろうが。学のない俺には、金がないって答えが、よりよくわかるよ。料理屋の何とか風ナンとか、みたいな料理は駄目だ。わかりづらくて、出てきた品によっては、がっかりする」

 ユウタは聡明な態度で、反論を展開する。
「悪魔にとって、金貨が絡む問題は、レベル・アップが関連する。レベル・アップとは、即ち、存在の問題だ。つまりは、哲学だ。経済学ではない」
「そうか。俺には、金ほしさに戦争に介入しようとしているとしか、思えないがな。もっとも、どこかの強欲商人や快楽殺人者のお姫様よりは、ずっと尊い意見だとは思う。客観的に見て、な」

 ユウタが、むっとした顔で異論を唱える。
「戦争も一種の学問だ。学問である以上は哲学とは無縁ではないぞ。僕がやろうとしている行いは、全て哲学だ」
(始まったよ。全ての現象は哲学に行き着く、無茶振り理論が)
「哲学者先生にとっては、そういうもんですかね」

 ユウタが元気の良い態度で言い返す。
「よし、じゃあ、大義を換えよう。俺たちは、戦争に行くのではない。ノーバルデスの海の自由を守るために行くんだ。自由のために戦うのなら、キルアは問題ないんだろう」
(言い方を変えたか。でも、自由を守る戦いなら、拒否感は薄いな。生のオクラは嫌いだが揚げれば喰うほうだ。天国行き片道切符だと称して、免罪符を年末ジャンボ宝籤(たからくじ)のように売りまくる坊主も、言っている。嘘も方便だと)

 キルアは簡潔に意見を述べる。
「俺も船を操縦して海を渡る。だから、海の自由のためなら、悪い気はしないな。俺は、きちんと説明があれば、サービス料も文句なく払う悪魔だ」
「なら、それでいい。海の自由も、突き詰めれば、哲学に行き着く」

 キルアは正直な心境を語る。
「俺は悪魔がいいのかね。何か、騙されているような気もするがな」
 ユウタが真顔で説く。
「背理法を知っているか? 騙されていると思うんなら、騙されていないと、逆の命題を設定して検証するといい。それで、否定されたなら、騙されていたんだ」

 当然の疑問を口にする。
「騙されていたとわかったら、どうすればいい? 俺はユウタと殴りと合わなきゃならんのか」
 ユウタは素知らぬ顔で言ってのけた。
「それは、知らん。哲学の範囲外だ。殺人狂お姫様の領域だ」

「何か、お前の哲学って、都合が良いよな。初めて行く料理屋で頼むシェフのお任せ料理みたいだよ」
「それもまた、哲学だ」
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