ビターチョコレート

文字数 1,088文字

ぼくは異世界に来たわけではない。世界がファンタジー化したのだ。

エルフやらドワーフやらが、人間世界に突如やってきたら、そりゃー戦争になるよね。
文明の衝突って奴だ。
エルフやドワーフは、北極圏から南下を始めた。
ゲルマン人の大移動を越える規模だ。

そして魔法対科学の戦いが始まった。

世界は、そんな状況なのだが、ぼくはめっちゃ可愛いエルフに出会ってしまった。
最前線の街で。

         ☆彡


「この人間め!良くもわたしの裸を!」
その声でぼくは目覚めた。
そこには半裸のエルフが弓を引いていた。
エルフは躊躇することなく矢を放った。

それはまるで、かなり凶暴な目覚まし時計だ。

放たれた矢をぼくは素手で掴んでしまった。
ぼくにそう言った能力があったとは思えない。

それは1億年に1度起こるかも知れない、奇跡だったのかも知れない。

何故ならぼくは、世界がこんな状況にも関わらず、ゲームに熱中できるレベルのダメ人間なのだ。
そして矢を素手で捕まえる人間に、半裸のエルフは恐怖したと思う。
恐怖、そう吊り橋効果って奴?

ぼくらは恋に落ちた(自称)
現時点では、かなり危険な恋だ(自称)


「なんで半裸なの?」
今のこの空間では、きっと猛者のぼくは聞いた。
半裸のエルフは、微かに良い香りを漂わせていた。
「良い部屋だし、お風呂にでも入ろうかなって、そしたら貴殿が」


要するに定住先なのか?
主要幹線道路から外れたこの地域だし、地形的に重要ではないこの辺りは、戦場からかなり外れていた。

そして、ぼくが住んでる家は、元は赤煉瓦のカフェでかなりお洒落だ。
センスの良いエルフなら、気に入りそうな物件ではある。
なのに、その物件に猛者っぽい奴が住んでいる。

エルフは相当邪魔な生き物を見る目で、ぼくを見た。
あれ恋に落ちたはずでは。

さらにぼくの飼い猫の猫は、エルフにすりすりしていた。
エルフの良い香りが気に入ったのだろう。そんな顔だ。

お前!裏切るの早すぎないか?

「貴殿は戦わないの?人類の為に」
「人類の為に?」
「同族の為よ」

ぼくはため息をついて、
「残念ながら、もう人類は、ほとんど残っていないよ。
人類文明を引き継いだのは、アンドロイド。機械だよ。
政府と呼ばれている物も、ほぼアンドロイドが支配していると言っても良い」
「・・・」
エルフは哀しげな顔をしただけで、その件について何も言わなかった。
そしてテーブルに置いてある銀紙に包まれた物を見つけて、
「これは?」
「ビターチョコレート、人間の食べ物だよ」
「食べて良い?」
「ちょっと苦いよ」

「苦いね」
「うん」


この後、幾つかの人種がエルフと合流したらしい。
      
         
         完 




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登場人物紹介

エルフの女子。良い家を探し中。

人間の男子。かなりダメ人間。

猫。良い香りが好き。

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