第10話 戦前の名作時代小説に挑戦してみたの巻(中里介山『大菩薩峠』篇1)

文字数 1,607文字

 現代日本文学――それも芥川賞受賞作家の作品を取り上げてきたこの連載ですが、今回はがらりと趣向を変えまして、なな、なんと……! 

「戦前の名作時代小説に挑戦してみた!」の巻です。

 一時期、山本周五郎や藤沢周平の時代小説にはまったことのあるわたし、このふたりの作家を幹として、そこから派生する枝葉を辿るように、他の作家の時代小説も少しは読みました。

 そのうちに、時代小説の偉大なる源流――と称される超大作があることを知ったのです。それは……

 中里(なかざと)介山(かいざん)大菩薩峠(だいぼさつとうげ)!!

 です。

 この作品のどこが有名なのかと申しますと――

 第一に、何と言っても主人公(つくえ)竜之助(りゅうのすけ)のキャラクター。
 時代小説には、故田村正和さんの当たり役だった眠狂四郎に代表される、ニヒルな主人公の系譜というのがある(らしい)のですが、その元祖が机竜之助だと言われています。
 机竜之助は、謂わばダークヒーローなのですが、どんなふうにダークなのかは後ほど詳しくご紹介します。

 次に、この物語のとーんでもない長さ!
 驚くなかれ、全41巻! 数巻を一冊にまとめたちくま文庫版でも全20冊! しかも、未完……!!

 文庫版で20冊読んで未完って、それはないでしょうと言いたくなりますが、あまりの長さに最初から最後まで読んだ人はほとんどいないんだそうです。

 ――どうせ最後まで読まないんじゃ、未完でもいいのかしら?

 と思わないこともありませんが、完結していないと知ったとたん、モチベーションがダダ下がりするのもまた事実。

 世の中には、「最後まで読んだ」というだけで人に褒めてもらえるながーい名作というのがありますよね?

 トルストイの『戦争と平和』や『アンナ・カレーニナ』、ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』、日本古典文学では『源氏物語』とか……。

 でも、『大菩薩峠』を全部読んでも、どうもあまり褒められそうな気がしません。

「ねえねえ、聞いて聞いて! わたし、『大菩薩峠』全41巻読破したよ‼」
 小鼻をうごめかしつつ自慢しても、
「へえ……」
 という曖昧な笑顔の一言で片づけられそうな予感がひしひし。

 もちろん、他人から褒められるために読書するわけではないですが、なんとも微妙なこの感じ。

 そんな『大菩薩峠』を、いったいどんな風の吹き回しで読んでみることにしたのかと申しますと――

 私事で恐縮なのですが、最近kindleを購入したんです。
 本というのは紙で読むのが本当だと思っていましたし、その考えは今でも変わらないのですが、動かしがたい事実として、海外居住者が日本の本を購入するのはやっぱり不便だ、というのがあります。
 本が手元に届くまでに通常一週間ほどかかるし、輸送費が加算されるので当然その分割高になります。

 あと、これは海外も日本国内も関係ないですが、紙の本は嵩張(かさば)るから置き場所に困るという問題もあります。
 
 そんなこんなで、この度ついに節を屈して、電子書籍に手を伸ばしたわけですが……。

 一応紙本派を自認していたわたし、電子書籍で読むことに、最初はなんとなく背徳感に近いものがありました。でも、いざ使ってみるとけっこう読み易く、何より全く待つことなくワンクリックですぐ読めるというのは一種感動的ですらあります。更に――

 電子書籍って、絶版になっていた名作が、すごく安価に手に入ることも、ある……?!

 FUJISHOBOの日本文学歴史時代小説文庫版『大菩薩峠』、全41巻セットで440円⁈(元が青空文庫になっている版を一巻ずつダウンロードする方法もあり、これなら無料!)

 で、「いっちょ戦前の名作時代小説に挑戦してみよう!」という今回の企画(?)になったのです。

 さて、『大菩薩峠』。
 さすが名作と言うべきでしょうか、「序文」からしてすごいんです。
 
 中里介山はこの超大作の「序文」に、いったい何を書いたのか?
 気になる内容については、次回ご紹介したいと思います。
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