人を呪うなら穴は二つどころじゃないからな
文字数 4,368文字
”田之上の試練”を無事乗り切った部長は、足が床から3センチくらい浮いてるみたいな感じ。
「諸君、よく生き残った!明日からもこの調子でいこうな。んで、来週から恒例の夏合宿だけど、パンフの注意事項、ちゃんと読んだか?それの……」
「ヨースケ、なんでケース膝の上?」
トランペットケースの上にパンフレットを広げた俺を、隣のリョータが不思議そうに見上げてくる。
「窮屈じゃね?」
「いや、まあうん」
もちろん、いつもは床に置いておくけど、今日はそんな無防備なことはできない。
なぜならば、さっきからずっと、俺の背中にビシバシと邪気が放たれているからだ。
俺の宝物である、萌黄 さんからもらったトランペットに何かされてはたまらない。
「どれも大切にしていない気がする」って田之上先生は言ってたけれど、それは違う。
手紙と、手紙とトランペット。
これまで、俺をずっと支えてくれていたこの三つは何にも代えがたい宝物だ。
でも、諦めきれなかった人に奇跡みたいに会えたから、今日から俺の「大切なもの」は四つ。
もちろん、そのなかでの第一位が、萌黄 さんであることは言うまでもない。
ふと隣を見ると、萌黄 さんも自分のケースをおなかに抱 え込むようにして座っている。
それがお気に入りのボールをくわえ込んでいるラッキーみたいで、思わずクスっと笑ってしまった。
「なあに?」
萌黄 さんが体をこっちに傾けて囁 くから、俺も同じように肩を寄せる。
「ラッキーにボール投げるとさ、そんな感じになる」
「えぇ、ホント?……ラッキーは元気?」
「元気だよ。今度、一緒に散歩しない?」
「いいね、楽しみ」
「……てな感じだけど、ほかに質問はあるか?なければ解散!OBのみなさん、今日はありがとうございました!しばらくご指導、よろしくお願いいたします。合宿にもご参加くださるOBの方は、城田のところにちょっとお集まりください」
サエちゃん部長の丁寧な挨拶をもって、本日の部活がすべて終了となった。
よし、これからどうやって萌黄 さんを誘おうかと考えていると、帰り支度を終えたリョータが肩をぶつけてくる。
「ヨースケ、合宿の用意した?」
「いや、まだ」
「おせーし。オレなんかとっくに終わってるし」
「どんだけ楽しみよ」
「だぁーって、1日中ペット吹いてていいんだぜ!天国かよ」
目に星を浮かべているリョータは、ホントにトランペットを愛してるんだと思う。
でも。
「田之上先生一緒だぞ。顧問なんだから」
「……地獄だった……」
がっくりと落とされたリョータの肩をぽんぽんと叩くと、ぐったりとした顔が上がる。
「オレ、タノカミ―甘く見てたよ。お飾り顧問じゃなかったんだな」
「いつもは存在消してるのにな」
「ラスボス顧問……」
リョータは俺と顔を見合わせて、情けないような苦笑いを浮かべる。
「最終日の余興で、タノカミ―だけ別枠って聞いたときはなんで?って思ったけど、今は納得。あんだけ飛ばすヒトがさ、どんな演奏するか楽しみだよな」
「ああ、ミニライブコンテストな。どのグループになるかは、合宿始まってから発表だっけ」
「ヨースケとは一緒じゃないんだろーなー。知ってた?今年の優勝賞品、チョー豪華なんだって」
「え~、あたしも同じグループがよかったなぁ」
「学年もパートもバラけるって話だから、諦めな、モリー。毎年5グループくらいだって。うちら、ちょうど5人だし」
森本をいさめてくれた1年女子に感謝して、そろそろ同学年の部員くらい、名前を覚えようかなと考えていたとき。
「?」
手に下げたトランペットケースに衝撃を感じて振り返ると、アイツがのっそりと立っている。
……まさか、蹴りやがったのか?
「そのトランペット、どうしたんだよ」
これだけ近づかれるとよくわかる。
アイツより、俺のほうが5センチくらい背が高いって。
いい機会だから、見下 してくれたお礼に見下 ろしてやる。
「俺のです」
「そういうこと聞いてんじゃねぇよ。頭悪ぃのか」
凶悪に眇 められた目も懐かしいもんだけど、さっきの先輩面はどこいった?
「答えたくないんですよ、察しが悪いですね。そんなんで社会人やっていけるんですか?それとも年下には配慮しない主義?後輩を大切にしないなんて、先輩という地位と名を返上したほうがいいんじゃないの?OB訪問は義務じゃないし、お忙しいなら来なきゃいいじゃん。アンタが来なくても俺はちっとも困らないし。多分、誰も困らないし」
たたみかけも絶好調。
二度と来んなと思う気持ちを存分にぶつけてやる。
「おまえ、どんだけ失礼なんだよ!」
「相手に礼儀を求めるなら、まず自分がそれに足る存在じゃないとね。無礼に返す礼儀なんてあるかよっ。トランペット吹きがトランペットケースを蹴っとばすなんて、ホント信じらんねぇ。バンドやってるんだっけ?でも、トランペットをリスペクトしない人間が組んでるバンドなんか、たかが知れてるよな」
「んだとっ!……くっ」
ヒクつく唇を引き結んだアイツの顔に、さっと怒りが走った。
「くぁははははっ!」
アイ子さん、ナニその変な笑い方。
美人が台無しですよ。
「すごいなメーちゃん、市島が黙ったよ」
怒りの形相のまま振り返ったアイツをものともしないで、アイ子さんが微笑み返している。
「アタシらはこれからお茶するから、メーちゃんもおいでよ」
「……オレも行く」
「市島さまはお忙しいでしょう?明日のご都合に差し支えるのでは?」
「いや、酒の席なら遠慮するけど、お子さまが一緒ならファミレス程度だろ」
「ほぅほぅ。じゃあ来るんだね?」
「行くっつってんだろ」
アイツが断言したのと同時に送られたアイ子さんのアイコンタクトに、萌黄 さんが首を横に振った。
「ごめん、私は行かない。また次のとき誘って、アイ子」
「俺も遠慮します」
「そーかそーか、ゆっきーとメーちゃんは不参加ね」
俺たちの反応は計算済みだったようで、アイ子さんはしてやったりと笑っている。
「OK、了解。わざわざ意思表示をした市島は来なよ。おーい、OBは場所を移動するよ」
「じゃあオレも行かな」
「あらまあ、日本を背負 って立とうっていう総合職さまが、ずいぶんコロコロ態度変えるじゃない。しかも、誘われてもいないのに来ると言ったくせに。カッコワルっ」
アイ子さんは口に手を当てて、「ぷーくすくす」と笑う真似をした。
「……鬼龍院」
「なーんてね。冗談だよ、イッチー。お疲れさま。とっととお帰り」
ひらひら手を振るアイ子さんをにらんだあと、アイツは俺に背を向けて、副部長と話をしている萌黄 さんに向かっていく。
アイ子さんの目が油断なくアイツを追って、俺は何かあったらすぐ萌黄 さんを守れるように、荷物全部を机の上に置いた。
「おい、雪下 」
「なに」
「話がある」
「私にはない」
「スマホ、連絡取れるようにしておいて」
「お断り」
「謝罪くらいさせろよ」
「今すれば」
「プライベートなことだ。他人の目がないほうがいいだろ」
「人に聞かせられないような話なの?」
「それはおまえのほうじゃねぇの?……バラされても、かまわねぇのかよ」
「バラす?なにを?」
怪訝 な顔をする萌黄 さんに向かって、アイツは口の片方を歪 めて笑う。
「あのトランペットの1年、お前のショタコン趣味の相手だろ。ずいぶんとデカくなったけど面影あるわ」
「ショタコン」というパワーワードに、音楽室がザワリと揺れた。
「アイツの持ってるトランペット、おまえが貯金叩 いて買ったヤツじゃねぇか。そんな大事なもんやるとか、ほんとに
ざわざわとヒソヒソが音楽室に蔓延していくなか、萌黄 さんの顔色が白くなっていく。
あのヤロウ……!
萌黄 さんを悪意に晒 すようなマネしやがって!
「誤解されるような単語をワザと使わないでくださいよ。あいっかわらず性格悪いですねぇ。萌黄 先輩は、俺の先生だっただけですよ」
地を這 うような俺の声に、教室中の目が集まる。
「勉強はできない、かといって運動も苦手だった俺をここまでにしてくれたのが萌黄 先輩です。ゲスイこと言ってんじゃねぇよ!!!」
俺は大きく息を吸って、バンっ!と机を平手で叩いた。
「確かに俺は小学生だったよ。でも、ボッチだった小学生に手を差し伸べることがショタコンだってんなら、今のテメェを選ぶようなヤツはフケセンだよっ。やり方が姑息で汚ねぇんだよ、因業ジジィかよっっ!!」
ガダ、ガダン!
俺が蹴り飛ばした机が派手な音を立てて、ざわめいていた音楽室は、今や水を打ったように静まり返っている。
「萌黄 先輩に後ろ暗いところなんか、ひとっつもねぇよ!でっち上げで相手を貶 めて、脅して言うこときかそうっての?相変わらずだな、このモラハラダメンズ!!」
「ガキだったくせに、知ったふうな口を利くなよ。そっちこそでっち上げだろ。脅したことなんかねぇし」
「ウソつけ。さっきだって、連絡先教えないならバラすって脅迫してたろ。昔だって大声出して、物に当たって黙らせてたクセに」
「物に当たって?ブーメラン刺さるんじゃねぇの。学校の備品は大事にしろよ、現役」
「テメェを殴る代わりだよっ!!」
机に拳 を叩きつけようかと思ったけれど、それはギリで堪 えた。
手を痛めて演奏できなくなったら、萌黄 さんを悲しませると思うから。
「殴ってみろよ。喚 くだけで、ホントはなんにもできねぇガキンチョなんだろ?ついこないだまで、中坊だったんだもんなあ」
「っ!」
「殴る必要なんてないよ、そんな価値もない」
カッとなって振り上げかけた俺の拳 を、萌黄 さんの穏やかな声が止めてくれた。
「譲ったトランペットはね、花束のお礼なの。やましい気持ちは何もない。……バラされてもかわまないのか、か。市島くん、私はね」
隣に立つアイツには目もくれず、ゆっくりと萌黄 さんが歩いてくる。
「あのころの私たちは、お互いに自分勝手な未熟者同士だった。許すも許さないもないって思ってた。でもね」
萌黄 さんがその背に俺をかばうようにして、アイツと向き合った。
……全然隠れてないけど、泣きたいくらい嬉しい。
「羊介 くんを傷つけるなら話は別。この子がくれた手紙を無理やり奪って、破って、燃やすだけじゃ足りないの?」
背中しか見えない俺にはわからないけど、見守るみんなの度肝を抜かれたような表情で、なんとなく察することができた。
萌黄 さんは今、すっごく怒っているらしい。
「謝罪するなら私にじゃなくて、羊介 くんにでしょう。しかも」
「ふふっ」と萌黄 さんが短く笑う。
「許されたいのって、自分のためなんじゃないの?……官庁訪問で、私の父にでも会った?」
その一言で、傲岸不遜だったアイツの表情が見る間に抜け落ち、その体が硬直していった。
「諸君、よく生き残った!明日からもこの調子でいこうな。んで、来週から恒例の夏合宿だけど、パンフの注意事項、ちゃんと読んだか?それの……」
「ヨースケ、なんでケース膝の上?」
トランペットケースの上にパンフレットを広げた俺を、隣のリョータが不思議そうに見上げてくる。
「窮屈じゃね?」
「いや、まあうん」
もちろん、いつもは床に置いておくけど、今日はそんな無防備なことはできない。
なぜならば、さっきからずっと、俺の背中にビシバシと邪気が放たれているからだ。
俺の宝物である、
「どれも大切にしていない気がする」って田之上先生は言ってたけれど、それは違う。
手紙と、手紙とトランペット。
これまで、俺をずっと支えてくれていたこの三つは何にも代えがたい宝物だ。
でも、諦めきれなかった人に奇跡みたいに会えたから、今日から俺の「大切なもの」は四つ。
もちろん、そのなかでの第一位が、
ふと隣を見ると、
それがお気に入りのボールをくわえ込んでいるラッキーみたいで、思わずクスっと笑ってしまった。
「なあに?」
「ラッキーにボール投げるとさ、そんな感じになる」
「えぇ、ホント?……ラッキーは元気?」
「元気だよ。今度、一緒に散歩しない?」
「いいね、楽しみ」
「……てな感じだけど、ほかに質問はあるか?なければ解散!OBのみなさん、今日はありがとうございました!しばらくご指導、よろしくお願いいたします。合宿にもご参加くださるOBの方は、城田のところにちょっとお集まりください」
サエちゃん部長の丁寧な挨拶をもって、本日の部活がすべて終了となった。
よし、これからどうやって
「ヨースケ、合宿の用意した?」
「いや、まだ」
「おせーし。オレなんかとっくに終わってるし」
「どんだけ楽しみよ」
「だぁーって、1日中ペット吹いてていいんだぜ!天国かよ」
目に星を浮かべているリョータは、ホントにトランペットを愛してるんだと思う。
でも。
「田之上先生一緒だぞ。顧問なんだから」
「……地獄だった……」
がっくりと落とされたリョータの肩をぽんぽんと叩くと、ぐったりとした顔が上がる。
「オレ、タノカミ―甘く見てたよ。お飾り顧問じゃなかったんだな」
「いつもは存在消してるのにな」
「ラスボス顧問……」
リョータは俺と顔を見合わせて、情けないような苦笑いを浮かべる。
「最終日の余興で、タノカミ―だけ別枠って聞いたときはなんで?って思ったけど、今は納得。あんだけ飛ばすヒトがさ、どんな演奏するか楽しみだよな」
「ああ、ミニライブコンテストな。どのグループになるかは、合宿始まってから発表だっけ」
「ヨースケとは一緒じゃないんだろーなー。知ってた?今年の優勝賞品、チョー豪華なんだって」
「え~、あたしも同じグループがよかったなぁ」
「学年もパートもバラけるって話だから、諦めな、モリー。毎年5グループくらいだって。うちら、ちょうど5人だし」
森本をいさめてくれた1年女子に感謝して、そろそろ同学年の部員くらい、名前を覚えようかなと考えていたとき。
「?」
手に下げたトランペットケースに衝撃を感じて振り返ると、アイツがのっそりと立っている。
……まさか、蹴りやがったのか?
「そのトランペット、どうしたんだよ」
これだけ近づかれるとよくわかる。
アイツより、俺のほうが5センチくらい背が高いって。
いい機会だから、
あの
夏の日に「俺のです」
「そういうこと聞いてんじゃねぇよ。頭悪ぃのか」
凶悪に
「答えたくないんですよ、察しが悪いですね。そんなんで社会人やっていけるんですか?それとも年下には配慮しない主義?後輩を大切にしないなんて、先輩という地位と名を返上したほうがいいんじゃないの?OB訪問は義務じゃないし、お忙しいなら来なきゃいいじゃん。アンタが来なくても俺はちっとも困らないし。多分、誰も困らないし」
たたみかけも絶好調。
二度と来んなと思う気持ちを存分にぶつけてやる。
「おまえ、どんだけ失礼なんだよ!」
「相手に礼儀を求めるなら、まず自分がそれに足る存在じゃないとね。無礼に返す礼儀なんてあるかよっ。トランペット吹きがトランペットケースを蹴っとばすなんて、ホント信じらんねぇ。バンドやってるんだっけ?でも、トランペットをリスペクトしない人間が組んでるバンドなんか、たかが知れてるよな」
「んだとっ!……くっ」
ヒクつく唇を引き結んだアイツの顔に、さっと怒りが走った。
「くぁははははっ!」
アイ子さん、ナニその変な笑い方。
美人が台無しですよ。
「すごいなメーちゃん、市島が黙ったよ」
怒りの形相のまま振り返ったアイツをものともしないで、アイ子さんが微笑み返している。
「アタシらはこれからお茶するから、メーちゃんもおいでよ」
「……オレも行く」
「市島さまはお忙しいでしょう?明日のご都合に差し支えるのでは?」
「いや、酒の席なら遠慮するけど、お子さまが一緒ならファミレス程度だろ」
「ほぅほぅ。じゃあ来るんだね?」
「行くっつってんだろ」
アイツが断言したのと同時に送られたアイ子さんのアイコンタクトに、
「ごめん、私は行かない。また次のとき誘って、アイ子」
「俺も遠慮します」
「そーかそーか、ゆっきーとメーちゃんは不参加ね」
俺たちの反応は計算済みだったようで、アイ子さんはしてやったりと笑っている。
「OK、了解。わざわざ意思表示をした市島は来なよ。おーい、OBは場所を移動するよ」
「じゃあオレも行かな」
「あらまあ、日本を
アイ子さんは口に手を当てて、「ぷーくすくす」と笑う真似をした。
「……鬼龍院」
「なーんてね。冗談だよ、イッチー。お疲れさま。とっととお帰り」
ひらひら手を振るアイ子さんをにらんだあと、アイツは俺に背を向けて、副部長と話をしている
アイ子さんの目が油断なくアイツを追って、俺は何かあったらすぐ
「おい、
「なに」
「話がある」
「私にはない」
「スマホ、連絡取れるようにしておいて」
「お断り」
「謝罪くらいさせろよ」
「今すれば」
「プライベートなことだ。他人の目がないほうがいいだろ」
「人に聞かせられないような話なの?」
「それはおまえのほうじゃねぇの?……バラされても、かまわねぇのかよ」
「バラす?なにを?」
「あのトランペットの1年、お前のショタコン趣味の相手だろ。ずいぶんとデカくなったけど面影あるわ」
「ショタコン」というパワーワードに、音楽室がザワリと揺れた。
「アイツの持ってるトランペット、おまえが貯金
トクベツ
な相手だったんだな。あんとき、あいつは小学生だったろ。子供に手ぇ出したのかよ、おまえ」ざわざわとヒソヒソが音楽室に蔓延していくなか、
あのヤロウ……!
「誤解されるような単語をワザと使わないでくださいよ。あいっかわらず性格悪いですねぇ。
地を
「勉強はできない、かといって運動も苦手だった俺をここまでにしてくれたのが
俺は大きく息を吸って、バンっ!と机を平手で叩いた。
「確かに俺は小学生だったよ。でも、ボッチだった小学生に手を差し伸べることがショタコンだってんなら、今のテメェを選ぶようなヤツはフケセンだよっ。やり方が姑息で汚ねぇんだよ、因業ジジィかよっっ!!」
ガダ、ガダン!
俺が蹴り飛ばした机が派手な音を立てて、ざわめいていた音楽室は、今や水を打ったように静まり返っている。
「
「ガキだったくせに、知ったふうな口を利くなよ。そっちこそでっち上げだろ。脅したことなんかねぇし」
「ウソつけ。さっきだって、連絡先教えないならバラすって脅迫してたろ。昔だって大声出して、物に当たって黙らせてたクセに」
「物に当たって?ブーメラン刺さるんじゃねぇの。学校の備品は大事にしろよ、現役」
「テメェを殴る代わりだよっ!!」
机に
手を痛めて演奏できなくなったら、
「殴ってみろよ。
「っ!」
「殴る必要なんてないよ、そんな価値もない」
カッとなって振り上げかけた俺の
「譲ったトランペットはね、花束のお礼なの。やましい気持ちは何もない。……バラされてもかわまないのか、か。市島くん、私はね」
隣に立つアイツには目もくれず、ゆっくりと
「あのころの私たちは、お互いに自分勝手な未熟者同士だった。許すも許さないもないって思ってた。でもね」
……全然隠れてないけど、泣きたいくらい嬉しい。
「
背中しか見えない俺にはわからないけど、見守るみんなの度肝を抜かれたような表情で、なんとなく察することができた。
「謝罪するなら私にじゃなくて、
「ふふっ」と
「許されたいのって、自分のためなんじゃないの?……官庁訪問で、私の父にでも会った?」
その一言で、傲岸不遜だったアイツの表情が見る間に抜け落ち、その体が硬直していった。