プロローグ

文字数 270文字

 途中下船して小舟にのりかえた。
 苦楽を共にしてきた家族との旅路が胸に去来し、たった一人、遠ざかる船影を見送りながら、切なさと寂しさに(さいな)まれた。
 家族をのせた船は、沖へ沖へと次第に小さくなり、やがて視界から消失した。
「全身全霊で娘を守ってやりたい!」
 嘆き、叫んでも声は届かない。
 やるせない刹那を、取り残された小舟の上で耐えなければならない。小舟で大海原をゆかねばならない。
 死出(しで)道行(みちゆき)を嗚咽しながら、娘の無事を私は祈った。祈ることだけが、せめてものはなむけなのだ。残された者へのせめてもの……。
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