番外編 バグモタ開発余話とそれにまつわるウメコのエピソード

文字数 1,389文字


 バグモーティヴは、スカラボウルを覆い尽くす虫に備わっている破裂(クラック)性質を燃料として駆動させるエンジンの総称だ。

 開発当時は、クラック値100(ヴァリュー)の原種のクラック虫(クラッカーバグ)でしか利用できなかった。その頃のものは、それをバグモーティヴとは呼ばず、開発した<出虫産業>(のちのイデムシクラックワークス)は、そのエンジン全般を<クラックワーカー>と呼んでいた。そののち<エクスクラム!!!>社の主導により、クラックワーカー搭載の乗用人型二足歩行機が開発されると、それは<クラックウォーカー>と名付けられる。

 しかしその当時は貴重ではあったが、稀少とまではいかない程度に探せば見つかった原種のクラック虫が、<クラックワーカー>の増産とともに減り始め、ただでさえ貴重な虫が、いよいよ稀少となり供給がおぼつかなくなってくると、<エントモービル>社により新たに開発された、低クラック値の虫でも駆動するエンジンが登場し、それは<クラックバンカー>と名付けられる。
(※bunker・・・燃料庫)

 昔気質のクラックウォーカー乗りなどからは「雑甲虫(ザコムシ)なんぞを使って、そんなモタモタ動くことしかできないくらいなら乗らない方がマシだ」などと揶揄(やゆ)され、<クラックハンカー>だとか<クラックハンガー>などと侮蔑的な呼称まで(たまわ)った。
(※hunker・・・鈍重) (※hanger・・・飢え、空腹、hungar・・・車庫)

 ただ、純正クラックワーカーに比べ、機動性が格段に落ちるのだからそれも仕方なかった。しかし虫のクラック値の質を選ばず駆動する優れた性能を持ったそれは、<イデムシ>との協力などによって、さらなる改良の結果、いまにつながる、低クラック虫でも、それなりの駆動能力が引き出せる<バグモーティヴ>へとやがて発展し、その頃にはもうほとんど見なくなった原種のクラック虫でしか動かない<クラックワーカー>に取って代わる存在へと発展していく。

 しかし主流にはなったものの、<クラックバンカー>の名称はいつの間にか消え、<バグモーティヴ>の呼称が定着した。捕虫圏居住民なら、車やバイク、乗用人型二足歩行機も家電全般でさえも、クラック虫を燃料とし、また発電するものはみな一緒くたに<バグモタ>と呼ぶが、乗り物系、特に乗用人型二足歩行機のことを差して、そう呼ぶことが多かった。また正式には、乗用人型二足歩行機は<クラックウォーカー>の名称が引き継がれていた。

 ちなみにバグモーティヴを<バグモタ>と略して呼ぶようになった契機が、もともと「モタモタ」しか進まなかった、という蔑称から、という説は誤りである。

 けれどいまだに古い人間はバグモタのことをバンカーと呼んでいたりするし、ウメコの学んだ南西學所、通称「なやこ(789)学所」の、バグモタ操縦科のある教労から教えられた捕虫要員なら誰しもが、クラックワーカーのことを間違えて「バグモーティヴ」などと答えて、厳しく訂正されたことが一度はあった。

 ウメコは逆に通ぶって、生半可な知識でバグモーティヴのことをクラックワーカーなどと呼んで、「ワーカーじゃねぇ、こいつはバンカーっつうんだ!このバンガー娘が!」などと、怒鳴られたことがあった。こんなふうに昔気質の愛好家から、一喝されたことがあるのは、生意気なバグモタ操縦科女子でもまれで、さすがにウメコくらいなものだった。
(※banger・・・爆裂)
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