第20話漢学者 君澤

文字数 1,228文字

午後3時半、白髪頭の男性が入って来た。
飛鳥は深く頭を下げた。
「これは、君澤教授、いらっしゃいませ」

君澤教授が飛鳥の前に座ると、温かい烏龍茶を置く。
君澤は、ほっこりとした笑顔。
「美味しいねえ・・・甘味が抜群だよ」
「本場より美味しい、魅惑の味」

飛鳥はココナッツ風味の焼き菓子を皿に乗せて出す。
「最近の調査はいかがです?」

君澤は、まずクッキーを少し食べ、またうれしそうな顔。
「これも・・・美味いなあ・・・丁寧に焼いていて」
「本場より丁寧、さすがだよ、ソフィア喫茶店」

そして烏龍茶を一口、話し出す。
「新しい発見も多いよ」
「吉備真備の書らしきものが、中国で発見されて」
「ワクワクするよ、そういうの」

ただ、そこまで言って、ため息をつく。
「吉備真備と言ってもね、歴史好きでないと、知らんでしょう」
「若い人だけでなくて、年輩の人もね」

飛鳥は珍しく長く話す。
「真備さんは、学識が抜群で」
「地方豪族出身で、出世は最高位には無理でしたけれど」
「軍事知識も高くて、藤原仲麻呂の乱にも多大な功績」
「中国に何度も渡り、あちらでも評価が高く」
「しかし、仲麻呂に妬まれて左遷」
「それでも、その仲麻呂を、打ち倒す」
「なかなか、興味のある人物です」

君澤は、うれしそうな顔。
「飛鳥君、伝記を書いたら?」
「飛鳥君の文なら、読むよ」
「学生にも斡旋する」
飛鳥は苦笑い。
「そんなことしたら、店ができません」

君澤は、「そうだよね」と笑い、また、ため息をついてボヤキ始める。
「我々は漢学者でね」
「どうしても、語釈好きでね」
「漢詩を和訳すると、ガチガチになって、読み物にならない」
「特に頭の古い、老人世代はさ、今時使わないような言葉を・・・」
「で、あるのだ・・・とか」
「で、あるぞよ・・・とか・・・」
「それを、若い男女の恋愛に使うんだからさ」
「そんな訳をするから、それで威張った顔をするから、ますます人気が出ない」

飛鳥は、手をヒラヒラさせて、君澤のボヤキを止めた。
「いや、日本の古典でも同じです」
「万葉集でも、古今でも、新古今でも」
「酷いのは、枕草子でも、源氏物語でも、平気で、そんな現代語訳をして、威張り返る、お偉い学者も多いです」
「話をしても、完全に、上から目線で」
「俺の解釈が絶対と、言い張ってね」

議論が盛り上がっていると、キッチンから香苗が顔を出した。
「はい、先生の好きな、クリームあんみつです」
君澤は、ここで満面の笑顔。
「これだよ、学生の頃からだもの」

飛鳥は話題を変えた。
「最近ね、動画サイトでダンスをしている女の子が来て」
「中国の宮殿みたいな所で、踊ってみたいなあと」
「行けなくても、スタジオで、そういう背景で動画を撮りたいとか」

香苗はクスッと笑う。
「どうです?たまには、可愛い少女と」

君澤は焦り顔。
「飛鳥君・・・俺ね、そういう若い娘さんって、ガチガチになる」
「助けてくれる?」

飛鳥は、美鈴を見た。
美鈴は頷いた。
「飛鳥さんの護衛に、私も付き添います」

君澤は、「女難の飛鳥様だからな」と笑っている。
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