肝試し
文字数 1,588文字
肝試しをしようと言いだしたのは彼女のほうだった――。
心霊スポットと呼ばれる場所は何処の土地にもひとつやふたつはあると聞く。
僕の住んでいる街の郊外にも、過去に忌まわしい事件が起来た場所だと、まことしやかにささやかれている〝いわくつき〟家屋がある。
興味本位も手伝ってか、暇潰しとドライブデートを兼ねた軽い気持ちで、僕たちはその場所へと向かった。
曲がりくねった暗い山道を一時間ほど車を走らせた。
「このあたりが噂の心霊スポットよ。気のせいか何だか薄気味悪くてゾクッとするわ」
そう言いながらも車中での彼女は何処となく楽しそうだった。
鬱蒼 と茂った木々を抜けたところにその場所はあった。
月の光が、朦朧 とその全景を映し出す。
目の前にはひっそりと静まりかえった湖が広がり、その滸 にぽつんと建てられた一件家。
車のライトに照らし出された二階建てのその廃墟は、元々は何処かの資産家が所有していたコテージなのだといわれている物件だ。
朽ち果てているとはいえ原型が保たれた、全盛期はさぞかし立派であったことを窺わせる建物であった。
「凄いわね。入ってみようよ」
「えっ? 大丈夫かい?」
「怖いんでしょう?」
「こ、怖くなんかないよ」
「じゃあ、先に入ってよ」
仕方がなく僕は、車のグローブボックスから懐中電灯を取り出し、それを持って彼女を先導することになった。車のライトは点けたままにしておいた。
鍵が壊されているらしく、玄関のドアは意外とすんなりと開いた。
入り口付近までは月あかりと車のライトで視野は確保できていたが、一歩家の中に入るとそこは漆黒の闇であった。
窓は、外から板が打ち付けられて、ライトの照明も月の光も届かない。
懐中電灯が照らし出す先の世界は、独特的な恐怖が広がる。
一階を一通り見て回ったが、これといって何もない。
彼女は後ろから、息を殺してついてくる。
玄関ホールに戻って、違う場所を照らしてみる。
ホールの右側の角に、二階へと繋がる階段があった。
「よし、次は二階だ!」
僕は空元気を装って、声を出した。
二階への階段は漆黒よりも深い暗黒の闇の中へと続いているように思われた。
懐中電灯が照らし出す物しか目に入らない中、僕は彼女の手を握った。
二人で恐る恐る階段をのぼる。
ギシギシと階段が軋む。
二階には廊下を挟んで両方に部屋が二つずつ並んであった。
それぞれの部屋の扉は内側に開かれ、静まりかえっている。
僕は男らしさを見せつけるように先を進む。
彼女は一言も発せずに僕のあとをついてくる。
もちろん僕も、ただ黙って息を殺しながら彼女を誘導する。
このような状況では当たり前のことだが、先程から異様な気配を感じている。
しっかりと彼女の手を握りしめたまま、僕達は手前の部屋から一部屋ずつ確認してまわる。
どの部屋の中も、あらゆる物が散乱していて進む度に足の裏に異物を感じる。
不良グループか誰かが、明るいときにでも書いたのか壁にペンキで書かれた落書きもある。
床にはビールやジュースの空き缶が転がる。
懐中電灯を反対側の壁に向けると、その瞬間知らない少女と目が合った。
「うわあぁ!」
一瞬飛び跳ねるように後退 りしたが、よく見るとそれは、壁に掛けられた少女の肖像画のようだ。
「何だ。驚かしやがって……」
自分の生唾を呑み込む音が、異常に大きく聞こえた。
すべての部屋を探索し、何事もなく一階へと戻る。
階段を降りたところで彼女の手を放し、玄関を目差す。
玄関から出ると車のヘッドライトが眩しく僕を包む。
急いで車に乗り込んで、一息つく。
「どう、怖かったでしょう?」
安心したのか、彼女が言葉を発した。
「思ったほど怖くなかったよ。何ごともなかったしね!」
「へぇー、私なんか途中で怖くなって二階には行かずに、そのままずっと車の中で貴方が出てくるのを待っていたのに――」
心霊スポットと呼ばれる場所は何処の土地にもひとつやふたつはあると聞く。
僕の住んでいる街の郊外にも、過去に忌まわしい事件が起来た場所だと、まことしやかにささやかれている〝いわくつき〟家屋がある。
興味本位も手伝ってか、暇潰しとドライブデートを兼ねた軽い気持ちで、僕たちはその場所へと向かった。
曲がりくねった暗い山道を一時間ほど車を走らせた。
「このあたりが噂の心霊スポットよ。気のせいか何だか薄気味悪くてゾクッとするわ」
そう言いながらも車中での彼女は何処となく楽しそうだった。
月の光が、
目の前にはひっそりと静まりかえった湖が広がり、その
車のライトに照らし出された二階建てのその廃墟は、元々は何処かの資産家が所有していたコテージなのだといわれている物件だ。
朽ち果てているとはいえ原型が保たれた、全盛期はさぞかし立派であったことを窺わせる建物であった。
「凄いわね。入ってみようよ」
「えっ? 大丈夫かい?」
「怖いんでしょう?」
「こ、怖くなんかないよ」
「じゃあ、先に入ってよ」
仕方がなく僕は、車のグローブボックスから懐中電灯を取り出し、それを持って彼女を先導することになった。車のライトは点けたままにしておいた。
鍵が壊されているらしく、玄関のドアは意外とすんなりと開いた。
入り口付近までは月あかりと車のライトで視野は確保できていたが、一歩家の中に入るとそこは漆黒の闇であった。
窓は、外から板が打ち付けられて、ライトの照明も月の光も届かない。
懐中電灯が照らし出す先の世界は、独特的な恐怖が広がる。
一階を一通り見て回ったが、これといって何もない。
彼女は後ろから、息を殺してついてくる。
玄関ホールに戻って、違う場所を照らしてみる。
ホールの右側の角に、二階へと繋がる階段があった。
「よし、次は二階だ!」
僕は空元気を装って、声を出した。
二階への階段は漆黒よりも深い暗黒の闇の中へと続いているように思われた。
懐中電灯が照らし出す物しか目に入らない中、僕は彼女の手を握った。
二人で恐る恐る階段をのぼる。
ギシギシと階段が軋む。
二階には廊下を挟んで両方に部屋が二つずつ並んであった。
それぞれの部屋の扉は内側に開かれ、静まりかえっている。
僕は男らしさを見せつけるように先を進む。
彼女は一言も発せずに僕のあとをついてくる。
もちろん僕も、ただ黙って息を殺しながら彼女を誘導する。
このような状況では当たり前のことだが、先程から異様な気配を感じている。
しっかりと彼女の手を握りしめたまま、僕達は手前の部屋から一部屋ずつ確認してまわる。
どの部屋の中も、あらゆる物が散乱していて進む度に足の裏に異物を感じる。
不良グループか誰かが、明るいときにでも書いたのか壁にペンキで書かれた落書きもある。
床にはビールやジュースの空き缶が転がる。
懐中電灯を反対側の壁に向けると、その瞬間知らない少女と目が合った。
「うわあぁ!」
一瞬飛び跳ねるように
「何だ。驚かしやがって……」
自分の生唾を呑み込む音が、異常に大きく聞こえた。
すべての部屋を探索し、何事もなく一階へと戻る。
階段を降りたところで彼女の手を放し、玄関を目差す。
玄関から出ると車のヘッドライトが眩しく僕を包む。
急いで車に乗り込んで、一息つく。
「どう、怖かったでしょう?」
安心したのか、彼女が言葉を発した。
「思ったほど怖くなかったよ。何ごともなかったしね!」
「へぇー、私なんか途中で怖くなって二階には行かずに、そのままずっと車の中で貴方が出てくるのを待っていたのに――」