第23話 デッド・オア・アライブ
文字数 3,246文字
ここは軍と協力関係にある生物兵器研究所。ハンニバルはこの研究所で人間兵器として生み出された。
ハンニバルは自分を生み出した研究所を快く思っていないが、今はどうしてもマティアスの命を助けたい一心で研究所に駆け込んだ。
例えマティアスが改造手術の影響で性格が変わってしまっても、生きてさえいてくれれば良い……と。
ハンニバルは気を失ったマティアスを抱えて研究所の中に入り、研究員達に医者を紹介してもらった。
医者の名はオスカー。医師免許を持たない闇医者だが、負傷した兵士の治療から肉体改造手術まで幅広く手掛けている名医であり博士だ。
ハンニバルはオスカーがいる部屋の扉を乱暴に開けて入る。そこは広々とした手術室となっており、奥には医者と思われる男が患者の治療をしているのが見える。
「俺はここの研究所で生まれた人間兵器のハンニバルだ。ここに急患がいる! 今すぐ助けてくれ!」
ハンニバルはマティアスを抱えながらオスカーに近づき、必死に頼み込む。
「お前、あの最高傑作の人間兵器のハンニバルか!? だが今は他の患者 を手術中なんだ! 手を離したらこいつが死んじまうよ!」
オスカーは医者とは思えない乱暴な口調で却下した。今は他の患者の治療で手が回らないようだ。
「あぁ? ふざけんな! こっちは今にも死にそうな患者を連れて来たんだぞ! お前が今すぐこいつの命を助けてくれるってんなら、ここにある人狼 の血をくれてやるぜ! えーっと……そいつの名前はウルリッヒって言ったかな」
ハンニバルは片手でマティアスを抱き抱え、もう片方の手でウルリッヒの血液が入ったボトルを差し出した。
「これは……!? あの悪名高いウェアウルフ隊の隊長ウルリッヒの血か!? こいつは世にも珍しい人狼 の遺伝子を持っているから、丁度欲しいと思っていたんだ! よし、引き受けよう!」
オスカーはウルリッヒの血液を見るとあっさり引き受けてくれた。
彼は金目の物や貴重な実験材料に目が無い。良くも悪くも闇医者だ。
オスカーはさっきまで手術中だった患者の治療を中断し、空いている手術台にマティアスを寝かせるように呼び掛けた。
ハンニバルはゆっくりとマティアスを手術台に寝かせる。
オスカーはマティアスの上半身に身に着けているものを全て脱がせ、傷口を物色する。
「これは心臓やられちゃってるな。元の状態に戻すことは出来ないが、身体能力が向上した改造人間として復活させることは可能だ。このドクター・オスカー様は手術成功率53%を誇るぜ!」
「微妙な成功率だな、おい! ウルリッヒの血を使えば助けられるって本人から聞いたんだけどよ、実際はどうなんだよ?」
「人狼 の血は大幅な身体能力の向上に加え、損傷した臓器や欠損した体を自力で再生する能力を得られる。だが、投与された人間によっては人格が大きく変貌してしまったり、最悪の場合は理性を失ってしまう可能性があるんだ。それでも構わないならこの男を助けてやるぞ」
オスカーは人狼 の血を投与することのリスクをハンニバルに説明した。どちらにしろ、人狼 の血を使わなければマティアスを助ける方法は無い。
ハンニバルはマティアスを助けられるなら何をしても構わないと思い、承諾をした。
オスカーは早速手術の準備を始めるが、肝心なものが無いことに気付く。
「ちぃっ! こんな時に麻酔を切らしてやがる! まぁ安心しろ。麻酔が無くてもこの男は既に気を失っているし、手術成功率が50%程度下がるだけだ。俺の手術のモットーは、デッド・オア・アライブ!」
「ふざけんな! 何がデッド・オア・アライブだ! 成功率3%じゃ安心できる要素無ぇじゃねーか!」
ふざけた返事をするオスカーに、ハンニバルは怒り狂ってオスカーの胸倉を掴んだ。
「良いか、何が何でもマティアスを助けろ! 手術失敗したらぶっ殺すからな!」
「あー、分かったよ。お前も大事なお友達が死にかけて焦っているのは分かるけど、一旦軍事基地に帰って頭を冷やして来い。彼はきっと助けてあげるからさ」
「……そうだな、頭に血が上りすぎた。もしお前がマティアスを助けることが出来たら、俺はお前の欲しいものを可能な限りくれてやる。それじゃ、マティアスを頼むぜ」
ハンニバルは我に返り、掴んでいたオスカーの胸倉を離す。
ハンニバルはオスカーにマティアスの身を託した後、手術室と研究所を後にし、軍用車で軍事基地へ帰って行った。
軍地基地に到着後、ハンニバルは司令室へ向かい、ウィリアム司令官に任務の報告と今までの出来事を報告した。
「通常の兵士では歯が立たないウェアウルフ隊をよくぞ倒してくれた。これで戦争は終結し、平和に向かっていくだろう。マティアスのことは気の毒だが、彼のことはオスカー博士に委ねよう。その様子ではお前も相当疲れているだろう? 今日はゆっくり休むのだ」
「わかったぜ、ウィリアム司令官。明日また研究所に行ってくるぜ」
ハンニバルは報告を終えると司令室を後にする。その夜、彼は自分の部屋に戻った後、マティアスの回復を願いながら一夜を過ごした。
翌日、ハンニバルは朝の支度を終えると再び生物兵器研究所へ向かった。
研究所の手術室に入ると、そこにはオスカーと、ベッドに寝かされているマティアスの姿があった。
ハンニバルは真っ先にマティアスの元へ駆けつけ、マティアスの身体を触ってみる。
体温は正常で、体の傷も無くなっているのが分かる。
きっと手術は成功したのだと、ハンニバルは希望に溢れた表情を見せた。
「これって助かったってことだよな? マティアス、聞こえるか? 目を開けてくれ!」
ハンニバルが呼びかけると、マティアスはゆっくり目を開ける。
マティアスの目の色は青色から赤色に変化していた。人狼 の血を投与され、改造人間になった影響なのだろう。
「……ハンニバル、私は助かった……のか?」
マティアスは擦れた声で返事をする。彼は昨日の戦いの後からずっと意識を失っており、自分の体に何が起こったのか理解していなかった。
「マティアス! 無事に生き返ったんだな! なんだか目が赤くなってるみてぇだけど……とにかく死ななくて良かったぜ!」
ハンニバルは泣きながらマティアスに抱きつく。
少し前のマティアスなら、ハンニバルに強く抱きしめられたら痛みを感じていただろう。
改造人間となったマティアスは、以前とは比べ物にならない程打たれ強い身体になっていた。
「ハンニバル、心配かけてすまなかった。お前のおかげで私は生き返ることが出来たよ。本当にありがとう」
マティアスもハンニバルに礼を言い、微笑みながらそっと抱きしめる。
「おお、手術は無事成功したようだな! しかも、かなり薄めたとはいえ、人狼 の血を投与されても精神に弊害が及んでいないとは、珍しいこともあるもんだな!」
オスカーもマティアスの復活、そして2人の再会を祝福していた。
実は麻酔を切らしていたというのは冗談で、ハンニバルをからかう為の演出だったようだ。冗談にしては質が悪すぎるが。
本来、改造人間は少なからず精神部分に弊害が及んでいることが多い。
ハンニバルの敵に対する残虐性も、ウルリッヒの凶暴性や人肉嗜食も肉体改造によって目覚めたものだ。
荒々しいウルリッヒの血を受け継いでもなお、マティアスの人格の変化がほとんど見られないのは奇跡だ。
「オスカー、お前はムカつく奴だと思ってたが、マティアスを助けてくれて本当に感謝するぜ」
「私からも礼を言わせてくれ。あなたの助けが無ければ私は確実に死んでいた。感謝してもしきれないよ」
2人はオスカーに感謝の言葉を伝える。
「俺もマティアスの手術で良い実験結果を見ることが出来たし、人狼 の血まで手に入って満足しているよ。また珍しそうな材料があったら持ってきてくれ。報酬は渡すからさ」
オスカーも趣味の人体実験が成功してご満悦だ。
2人も今後役に立ちそうなものを見つけたら持ってくることを約束し、研究所を後にした。
ハンニバルは自分を生み出した研究所を快く思っていないが、今はどうしてもマティアスの命を助けたい一心で研究所に駆け込んだ。
例えマティアスが改造手術の影響で性格が変わってしまっても、生きてさえいてくれれば良い……と。
ハンニバルは気を失ったマティアスを抱えて研究所の中に入り、研究員達に医者を紹介してもらった。
医者の名はオスカー。医師免許を持たない闇医者だが、負傷した兵士の治療から肉体改造手術まで幅広く手掛けている名医であり博士だ。
ハンニバルはオスカーがいる部屋の扉を乱暴に開けて入る。そこは広々とした手術室となっており、奥には医者と思われる男が患者の治療をしているのが見える。
「俺はここの研究所で生まれた人間兵器のハンニバルだ。ここに急患がいる! 今すぐ助けてくれ!」
ハンニバルはマティアスを抱えながらオスカーに近づき、必死に頼み込む。
「お前、あの最高傑作の人間兵器のハンニバルか!? だが今は他の
オスカーは医者とは思えない乱暴な口調で却下した。今は他の患者の治療で手が回らないようだ。
「あぁ? ふざけんな! こっちは今にも死にそうな患者を連れて来たんだぞ! お前が今すぐこいつの命を助けてくれるってんなら、ここにある
ハンニバルは片手でマティアスを抱き抱え、もう片方の手でウルリッヒの血液が入ったボトルを差し出した。
「これは……!? あの悪名高いウェアウルフ隊の隊長ウルリッヒの血か!? こいつは世にも珍しい
オスカーはウルリッヒの血液を見るとあっさり引き受けてくれた。
彼は金目の物や貴重な実験材料に目が無い。良くも悪くも闇医者だ。
オスカーはさっきまで手術中だった患者の治療を中断し、空いている手術台にマティアスを寝かせるように呼び掛けた。
ハンニバルはゆっくりとマティアスを手術台に寝かせる。
オスカーはマティアスの上半身に身に着けているものを全て脱がせ、傷口を物色する。
「これは心臓やられちゃってるな。元の状態に戻すことは出来ないが、身体能力が向上した改造人間として復活させることは可能だ。このドクター・オスカー様は手術成功率53%を誇るぜ!」
「微妙な成功率だな、おい! ウルリッヒの血を使えば助けられるって本人から聞いたんだけどよ、実際はどうなんだよ?」
「
オスカーは
ハンニバルはマティアスを助けられるなら何をしても構わないと思い、承諾をした。
オスカーは早速手術の準備を始めるが、肝心なものが無いことに気付く。
「ちぃっ! こんな時に麻酔を切らしてやがる! まぁ安心しろ。麻酔が無くてもこの男は既に気を失っているし、手術成功率が50%程度下がるだけだ。俺の手術のモットーは、デッド・オア・アライブ!」
「ふざけんな! 何がデッド・オア・アライブだ! 成功率3%じゃ安心できる要素無ぇじゃねーか!」
ふざけた返事をするオスカーに、ハンニバルは怒り狂ってオスカーの胸倉を掴んだ。
「良いか、何が何でもマティアスを助けろ! 手術失敗したらぶっ殺すからな!」
「あー、分かったよ。お前も大事なお友達が死にかけて焦っているのは分かるけど、一旦軍事基地に帰って頭を冷やして来い。彼はきっと助けてあげるからさ」
「……そうだな、頭に血が上りすぎた。もしお前がマティアスを助けることが出来たら、俺はお前の欲しいものを可能な限りくれてやる。それじゃ、マティアスを頼むぜ」
ハンニバルは我に返り、掴んでいたオスカーの胸倉を離す。
ハンニバルはオスカーにマティアスの身を託した後、手術室と研究所を後にし、軍用車で軍事基地へ帰って行った。
軍地基地に到着後、ハンニバルは司令室へ向かい、ウィリアム司令官に任務の報告と今までの出来事を報告した。
「通常の兵士では歯が立たないウェアウルフ隊をよくぞ倒してくれた。これで戦争は終結し、平和に向かっていくだろう。マティアスのことは気の毒だが、彼のことはオスカー博士に委ねよう。その様子ではお前も相当疲れているだろう? 今日はゆっくり休むのだ」
「わかったぜ、ウィリアム司令官。明日また研究所に行ってくるぜ」
ハンニバルは報告を終えると司令室を後にする。その夜、彼は自分の部屋に戻った後、マティアスの回復を願いながら一夜を過ごした。
翌日、ハンニバルは朝の支度を終えると再び生物兵器研究所へ向かった。
研究所の手術室に入ると、そこにはオスカーと、ベッドに寝かされているマティアスの姿があった。
ハンニバルは真っ先にマティアスの元へ駆けつけ、マティアスの身体を触ってみる。
体温は正常で、体の傷も無くなっているのが分かる。
きっと手術は成功したのだと、ハンニバルは希望に溢れた表情を見せた。
「これって助かったってことだよな? マティアス、聞こえるか? 目を開けてくれ!」
ハンニバルが呼びかけると、マティアスはゆっくり目を開ける。
マティアスの目の色は青色から赤色に変化していた。
「……ハンニバル、私は助かった……のか?」
マティアスは擦れた声で返事をする。彼は昨日の戦いの後からずっと意識を失っており、自分の体に何が起こったのか理解していなかった。
「マティアス! 無事に生き返ったんだな! なんだか目が赤くなってるみてぇだけど……とにかく死ななくて良かったぜ!」
ハンニバルは泣きながらマティアスに抱きつく。
少し前のマティアスなら、ハンニバルに強く抱きしめられたら痛みを感じていただろう。
改造人間となったマティアスは、以前とは比べ物にならない程打たれ強い身体になっていた。
「ハンニバル、心配かけてすまなかった。お前のおかげで私は生き返ることが出来たよ。本当にありがとう」
マティアスもハンニバルに礼を言い、微笑みながらそっと抱きしめる。
「おお、手術は無事成功したようだな! しかも、かなり薄めたとはいえ、
オスカーもマティアスの復活、そして2人の再会を祝福していた。
実は麻酔を切らしていたというのは冗談で、ハンニバルをからかう為の演出だったようだ。冗談にしては質が悪すぎるが。
本来、改造人間は少なからず精神部分に弊害が及んでいることが多い。
ハンニバルの敵に対する残虐性も、ウルリッヒの凶暴性や人肉嗜食も肉体改造によって目覚めたものだ。
荒々しいウルリッヒの血を受け継いでもなお、マティアスの人格の変化がほとんど見られないのは奇跡だ。
「オスカー、お前はムカつく奴だと思ってたが、マティアスを助けてくれて本当に感謝するぜ」
「私からも礼を言わせてくれ。あなたの助けが無ければ私は確実に死んでいた。感謝してもしきれないよ」
2人はオスカーに感謝の言葉を伝える。
「俺もマティアスの手術で良い実験結果を見ることが出来たし、
オスカーも趣味の人体実験が成功してご満悦だ。
2人も今後役に立ちそうなものを見つけたら持ってくることを約束し、研究所を後にした。