第2話

文字数 1,992文字



 廃墟と化しているお化けマンションの入り口には立ち入り禁止の立て看板が立っている。道路に面した敷地の入り口にも立っていたが、金属製の立て看板はボロボロに錆びて辛うじて大きな文字が読める程度だ。もはや細かい文字は錆に埋もれて読むことは出来ない。
 立て看板に繋がれた薄汚れた黄色と黒のトラロープは風化により擦り切れ、千切れてだらんと垂れ下がっている。

 このお化けマンションは今から五十年以上も前に建てられた物だ。元々はこの辺り一帯の森林の緩やかな斜面は、大規模な土地開発によって住宅地になる予定だったらしいが、土地の所有者や建設会社や役所やら何やらで大もめにもめて結局開発は中止になったらしい。
 いち早く建設が始まっていたこのマンションは外壁も作られないままに工事が途中で中断され、その後建築基準法違反の手抜き工事の欠陥マンションだという事実が発覚し、業者も倒産して夜逃げしたために現在まで放置されているのだとか。
 そのために山中の鬱蒼とした森の中にこの廃墟のマンションだけがポツンと一棟佇んでいて、不気味さをより一層掻き立てている。
 その不気味さゆえに、かつてはTVドラマや映画のロケ地として度々使用されたようだ。俺も古いレンタルDVDで何度か観た事がある。最近は倒壊の恐れが有るために外観の撮影だけで内部での撮影は無いようだが。


 上空から見るとちょっと開いたカタカナの『コ』の字って言うか、えーと何だっけ? 亀甲括弧(きっこうかっこ)『〔 』とか言う括弧に似た形の地上六階建ての建物にいよいよ突入だ。地下室も有るらしいが、地下は恐ろしすぎて行きたくない!
 そういえば俺の小学校時代のクラスで、ここの地下深くに秘密結社の基地が有るとかいう噂が立っていたな。黒尽くめの全身タイツ姿の集団がこの建物の地下に入って行くのを見たとかいう話がまことしやかに話されていた。そんな事実は今考えてみればまかり間違っても無いとは思うがな。女子二人が地下室に行きたいーっとか言い出さないといいんだけど。

 建物内の剥き出しのコンクリートの壁には『夜露死苦』とか『○○参上』とかがスプレーで書いてある。暴走族の皆さんとかヤンキーの皆さんがここを利用しているのかな?
 その他にも缶スプレーで壁一面にグラマラスな全裸の美女の絵が描いてある。グラフィティとか言うんだったかな? これは中々見事な絵だ。
「ねえーっ、バツバツーっ、見て見てーっ、凄くおっきいおっぱいだよー。お姉ちゃんとどっちがおっきいかなーっ」
 こら、小学生よ、そんな恥ずかしい質問をするでない! 思わず見比べてしまったではないか!
 そうだなー、大きさでは壁の美女のほうがやや有利だが、形としては多恵子のほうが圧倒的に有利だな、なんて事は絶対口に出して言えやしないっ!

 相合傘に名前が書いてあったりもする。よくこんなお化けマンションに書けるよな。呪われても知らんぞ! それとも呪うために書いてあるのかな?
「えーと、アイアイガサー」
 ササラがしゃがみ込んでコンクリートの欠片で壁に相合傘を描いている!
「こら待てっ、誰の名前を書こうとしてる?」
「んー? バツだよ」
「やめてくれよっ、呪われたらどーすんだっ」
 書くならもっとまともな場所に書けっ! で、俺と誰の名前?

 別の部屋に移動すると、コンクリートブロックを並べて簡単なかまどが作られていて網が乗っている。こんな場所で焚火をしてバーベキューとかやったみたいだ。そいつらの神経を疑うぜ。
「あら、お肉を持って来ればよかったわね」
 多恵子……お前の神経を疑うぜ……。

 誰がやったのか知らないが、壁に大穴が空いて破片が散らばっている部屋も有る。ストレス発散のためにやったのだろうか。
 ふとその部屋の片隅を見てみると、大量のエロ本が散乱している。よくあるんだよな、こういうの。山の中とか河川敷とかにエロ本が捨ててあるってやつ。不法投棄だからやめた方がいいと思うが、古雑誌の回収日には出しにくいからこういった人目に付かない場所に捨ててるんだろうな。
 女子二人がいなければ俺もちょっと見たい気もする。多分見るだろな。絶対見るだろな。
「ねえー、バツバツー、見てごらんよー。この本の金髪の女の人ちょっとお姉ちゃんに似ているよー」
 小学生が床のエロ写真集をパラパラとめくっている。
「あら、ホントだ。ちょっとわたしに似てるわね」
「あーもうっ二人共、そういう写真集は十八禁だから見ちゃダメだっ!」
 俺は二人の手を引っ張って部屋の外へと連れ出す。本当は俺も無茶苦茶の滅茶苦茶にその写真集が見たいっ!! 多恵子似のヌードモデルか……日中に一人で来て持って帰ろうかな……。
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