つながる
文字数 2,907文字
するりとした何かが、末端の神経から中枢神経に向かって入ってきたような、そんな感覚を味わった。
遠慮がちに、問うように。
嫌な感じはしない。
自分という存在を敬い、尊重している。
そういう思いが強く伝わってくるから。
『不快ではないですか』
『なんじゃ、こりゃ』
「今の、すっごいわかっちゃった」
「お得意のええかっこしいが通じへんねんな」
「ああ゛?!」
『玄武様のアーユスはお強いので、波長を正すだけでは、辺りに漏れ伝わってしまうのです』
「……キミのは?」
不服だと顔に書いてある
『わたしのアーユスは調整をしておりますので。触れている玄武様にしか伝わりません』
『ふーん?でもキミの手、っていうか、そのバングルか。今は光ってないよね。湖では光ってたじゃん』
太陽の下でもはっきりと、蛍のようにその手が明滅していたのを覚えている。
そして、ふたりが同じような
会話
をしようとしてると気づいたのも、少女の銀のバングルが光を帯びたからこそだ。『それは……』
表情は変わっていないのに、少女の照れが伝わってきて。
『ふーん。これが
『ええ、そうです……。先ほどは懐かしい気持ちが強くて、
『気持ちが強いと光るのかよ。でも、強すぎるって言われた俺は、光ってないよな。そのバングルがないから?そういやあ、
心の声(つまり、それがアーユスとやらなのだろうけれど)が途切れれば、目の前にいる少女は、よくできた人形のようだ。
『聡いことです』
『玄武の推察は、ほぼ当たっています。私たちの腕輪は
『……あー、えーと、なんだ、ごめんな』
一瞬だけ感じた少女の照れと、
今ここで、これ以上追及しないほうがいいと
相変わらずアーユスを封印している、少女の能面顔が横に振られる。
「いえ、こちらこそ。うまく説明できずに、申し訳ございませんでした」
あえて声を使いながら、少女は大きな深呼吸を繰り返した。
『
『うん、そうだな。えーと、パドマと
すっかりトゲが抜けた
『なんだ、笑うとかわいいじゃん』
『ありがとうございます』
「え」
ならば、もしかしてと
「……あっちにもバレてんのか。ほほぅ」
冷え冷えとした半眼の赤目に、
『へーぇ、アイツでもヤキモチとかやくんだ。面白れぇ』
『ああ、そんな
少女が立ち上がって
「ヤメロって!」
「神の
「我が息は神の
『白虎』
『
たしなめる
『……わかった。
相変わらずの仏頂面だというのに、そのアーユスからは、すねていることが伝わってくる。
『さあ、玄武様、
少女は両手を
「オーム・ナマ・シヴァーヤ」※2
シャン!と
「オン・マカシリエイ・ソワカ」※3
『なんだ、これ……。あっつ!』
「オーム・ナモー・バガヴァテー・ルドラーヤ」」※4
少女の唱えとともに
熱いのに、穏やかで。
鼓動を打つごとに、体の血が入れ替わっていくようだ。
戸惑い。
怒り。
怖れと苛立ち。
絡み合ったさまざまな感情がほぐれて、自分の内にある、濁った”思いの
――トゲのある言葉で殴られているようだ――
情動を”何かのカタチ”としてとらえる能力のある相手には、確かに”キツイ”ものだったに違いない。
『わかったよ、
初めて名を呼ばれた少女、
『その
『内緒話?……そんなことをしてもいいのかよ』
ちらりと
『もしかして、もうアイツにも聞こえてないわけ?』
『パドマを閉じましたし、距離もありますから』
『内緒話……、ないしょ……、ナイショ』
声を
『キミは、
『お上手です。この短時間に会得するとは、さすが玄武様。でも、カノジョとは?』
「まあ!」
「カノジョ」の意味を知ったらしい
「そのような、つまらない存在ではありませんよ、
『それ、アイツと同じ答えだけど。示し合わせた、』
「ワケじゃねぇんだな。……だから、そのドヤ顔がムカつくんだよっ」
目が合った
『原理はわかんねぇけど、やり方はわかった。んでさ』
『順序がございます。少しお待ちなさい』
幼さの残る少女から、姉のように諭されても。
※1 伊吹法祓い
※2 シヴァ神マントラ 光り輝く意識に敬礼し、私の“内なる神”を信じます
※3 マハーシュリ(吉祥天)マントラ さまざまな災難から逃れるように導く
※4 シヴァの怒りの側面を表した神格であるルドラのマントラ 心の束縛から解放され、かつてない吉兆と光輝をもたらす