バレンタイン(ふんどしの日)SS

文字数 2,556文字

※2月14日は何の日?
 思い付いてツイッターで書いてみたら意外と長くなったので
 ユエ視点に直しました。
 甘くないバレンタインはユエらしいと思う。


「というわけで! バレンタインのプレゼントを用意してみました!」

 じゃんっ、と目の前に人数分の包みを置いた。
 
「ばれんたいん?」

 知らないよねー、と、頷きながら一応説明する。

「私の周りでは好きな人とか友達とかお世話になった人にチョコをあげる日だったの」

 ちょっと自分でもテンション上がってるの分かってるけど、カエルはそんな私を見て警戒態勢に入った。
 なんだよ、もう。失礼だなっ。

「チョコはこっちじゃまだ高価だからね。ロレットさんに頼んで、その日に纏わる物をプレゼントに選んでみました!」
「ロレット……じゃあ、身に着ける物なのか?」
「そう! これはお爺さんでぇ……えっと、こっちがジョットさん。カエルはこれで……これがビヒトさん!」

 少しずつ大きさの違う袋をそれぞれに手渡す。
 
「カエル君が一番大きいんじゃないの?」

 一番大きな袋をもらったお爺さんとカエルの手元を見比べて、ジョットさんは首を傾げた。
 
「布面積の違いです。でも、身に着けた見た目はあんまり違いはないですよ」
「ほぅ? って、こりゃなんじゃい」

 お爺さんの手元から、ずるずると細長い真っ赤な布が出てくる。
 
「襟巻きか?」
「ぶっぶー! 『バレンタイン』は『ふんどしの日』ですからね! みんなに似合いそうなふんどしを選んでみました!」
「フンドシ……」
「下着! 下ばき、でっす!」

 えへんと腰に手を当てて胸を逸らすと、カエルの目が冷たく細められた。そんな視線に負けていられない。気付かない振りをしながら、お爺さんの手の赤フンに手をさし出す。そのまま服の上から着付け指南を始めた。
 
「まず股に潜らせてですねぇ……いや、もう! 絶対! お爺さんには六尺だと思うんですよ!」
「ユエ……」
「ちょっと待ってね! カエルのは簡単だから! ……ぐりぐり捻って……こう……自分でする時は、きっちりいい感じに引っ張って下さいね!」

 身体を捻って確認しながら、お爺さんは興味深そうに布が形を変えていくのを眺めている。
 
「面積って、長さが違うの?」

 代書屋さんが苦笑しながら紐のついた四角い布を取り出したので、駆け寄っていく。
 
「あ、ジョットさんのは後ろに回して、まず前で結ぶんです! で、股の間から持ってきた布をそこに潜らせて前に垂らすだけ! 『越中ふんどし』って言うんですよ。カエルのは……い、いひゃひゃ。いひゃい! いひゃいっ!」

 カエルに親指が口の中に入るくらいがっつりと頬をつままれた。
 口元は笑ってるけど、額に青筋?!

「ひ と ま え で、嬉々としてする説明じゃないだろ!」
「ふへ? ひろりずつ、こひつれしろっれ?」
「もっと駄目だ!」
「えー。もう。みんな、絶対似合うのに。便利らしいよ? お祭りの時は正装なんだから」

 信じられないという目で睨まれながら、離してくれた頬を涙目でさすりつつ、ビヒトさんの方に視線を向ける。
 
「カエルとビヒトさんのは片足入れて、横で結ぶだけですから。試してみて下さいね」
「はい。ありがとうございます。ご披露したいところですが、カエル様に叱られそうなので部屋でゆっくり試させていただきます」

 包みを覗き込んで、くすくす笑いながら、ビヒトさんは片目を瞑った。
「カエルのは『もっこ』、ビヒトさんのは『黒猫』ですから、気に入ったらロレットさんにお願いすればまた作ってくれますよ!」
「もういいから! 爺さんも! しまえ!」

 その場で屈伸なんてしてみていたお爺さんも、カエルの剣幕に渋々元通りにしまった。

「わからんくなったら、嬢ちゃん手伝ってくれんのか?」
「いいですよ。いつでも言って下さい!」
「ユエ!!」

 カエルの声に肩をすくめる。
 お爺さんもにやにやしてるけど、口だけで本当に手伝わせようなんて思ってないよ。わかってるくせに。
 さらしも用意してお揃いの法被なんて作ったら、本当にお祭りみたいだろうなぁ。
 みんな、いい体してるから、きっとカッコいいのに。

 なーんて、妄想逞しく楽しんでいた数日後。
 酒場で戦場のようなお昼が過ぎて、ようやく一息つけるようになった時間。お爺さんと代書屋さんとカウンターで雑談をしていた。

「嬢ちゃん、アレ、いいな。わしは気に入ったぞ。動きやすい」
「あ! でしょーでしょー? だと思ったんですよ! ジョットさんは?」
「え? あー。僕はちょっと恥ずかしいかな。着け心地は、いいんだけど」

 代書屋さんにしてはやけに控えめに、小さな声で返事をしてくる。恥ずかしがられると、さすがにこちらも恥ずかしくなっちゃう。もしかして、ちょっと、やり過ぎた……?

「贈り物の話ですか?」

 耳心地のいい声が降ってきて、はっとする。顔を上げると神官服に銀の髪が見えた。

「私も、欲しかったですね」
「……へ?!」

 にこにこと、カウンターにやってきて腰を下ろした神官サマに、さすがにちょっと狼狽える。
 
「ジョットさんに自慢されましたから。それぞれに似合うものを、なんて。羨ましいですね」
「え。いや。神官サマには……ちょっと……」

 なんで話しちゃうかな?!
 私は代書屋さんを一睨みする。
 代書屋さんは視線を逸らして、そっと席をひとつずれた。
 
「下さいとおねだりするのも、はしたないですしね」

 いや、もうそれ、おねだりですから!
 小さな溜息と、哀しげに少し伏せられた瞳は完全に狙ってやってる。
 分かってても気まずい。
 だって、神官サマにはふんどしは似合わないじゃん?!
 とはいえ、こうなると何かあげずには収まらないんだろうなぁ……
 
「うぅ。ちょっと、考えてみます……」
「本当ですか? ユエは優しいですね」

 えぇい。わざとらしい!
 でも、嬉しそうな笑顔は作ってないんだよなぁ。くそぅ。
 あの中だとカエルとお揃いのが一番無難なんだけど、絶対カエルが嫌な顔するし。
 ロレットさん、ビキニパンツなんて作れるかなぁ……



 さすがに、ちょっと反省するユエであった。

 おわり



※(当日夜に絶対カエルに着付けてるし、後日カエルはビヒトさんに渡したのも見せてもらって正座で説教コースだと思う。反省はもうちょっと早くした方がいいぞ。ユエw)
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