ホットミルク

文字数 687文字

気持ちを落ち着かせたい時はホットミルクを飲む。私のホットミルクははちみつをたっぷり入れて、舌がおかしくなるくらい甘くする。はちみつと温かいミルクの混ざる優しい香り。
今一番ほしいもの。
ふと目線を下にむける。真っ赤な私のブラウス。ところどころぼんやりと白い。つんと鉄のにおいが鼻の奥を突いた。思わず鼻を手で塞いだけれど、その手もベタベタで鉄臭くて思わずえずいた。
心にホットミルクを思い描く。
例えホットミルクがあったとしても、目の前に広がる真っ赤な血溜まりを前にして安らぎなど得られる気がしない。
血溜まりの真ん中に浮かぶ体を眺めた。髪の毛が血でぺっとり顔に張り付いてる。
ミルクと血、それぞれどのくらいの割合で割ったらいちごミルクみたいになるでしょう。
小学生の算数でそんな質問がよく出たような、出なかったような。
こんな時ほどどうでも良いことを考えてしまう。
私、数ヶ月前まで普通に仕事して、仕事終わりには友達とご飯行ったりして、家に帰ったらお風呂にゆったり浸かって…、そんな普通の生活してたよね?
どうして短期間でこんなことになったんだろう。
擦り切れて色褪せた畳に目を向けた。
決して金銭面で余裕のある暮らしではなかったけど、私には十分だった。
屋根があって、雨風から自分を守ってくれる空間があるだけで心地よかった。
身に余ることなど望んでなかったのに。
どこでこんな縁を拾ってしまったんだろう。
コンコン。
玄関に体を向けた。こんな時間に訪問者。
このドアを開けたら次はどんなことが起こるんだろう。ドアを開けようとするその手には一切迷いがなかった。これ以上悪いことなど起こらないだろうと思ったから。

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