証拠の動画
文字数 1,256文字
[こんな感じでいいの?]
インカメラに2人が収まるように飴井が腕を前方に伸ばしている。
[写ってる?入り切ってる?]
玲奈は飴井の後ろに回って顔だけ写っている。
[はい!録画スタート!]
[もうしてるよ]
[ちょ!言ってよ!]
何とも楽し気なやりとりである。
[ええーまず…、私は酔ってます]
[だいぶね…]
[ちょっとだまってて]
[朝、記憶がないかもなので証拠を残します]
そして玲奈は飴井の頭を後ろから抱きしめながら言った。
[私たち、つきあうことにしましたー!ほら迅!]
「ギャアアアアーーーーーーーー!!!」
玲奈は断末魔のような叫びをあげ頭を掻きむしった。
思わず放り投げたスマホはベッドに弾んだ。
これ以上見ていたら羞恥のあまり気を失いそうである。
――何なにナニこれ!なんなのコレいつのまに!
動画はまだ続いてるらしく、音声だけがまだ聞こえる…。
[私より先に寝ない]
[うん]
[私より後に起きない]
[おお、いいよ]
[料理は上手につくって]
[俺は料理しない]
[いつもカッコいい迅でいて]
[あ!今元ネタわかったぞ]
[絶対浮気はしない]
[おお]
[したらすりつぶすからね]
[出た名台詞!]
[じゃ今日からここが迅の家ね]
[いいのか、サンキュー!]
[それでは9月30日3時9分30秒をもって永井玲奈と飴井迅の交際がスタート致しました!カンパーイ]
――そうか!そうだった…。
玲奈は計画を立てるのが好きだ。
殊更、恋の獲物を狩る戦略となれば、手を抜いたことなど一度もない。
”アルコール”は男女の媚薬、そして毒薬。
玲奈がそれを雑に扱う訳がない。
そういう状況のための行動マニュアルを、作っていないハズがないのだ。
完全に判断力を失う前に、相手の言質をとる。可能ならばその証拠を残す。
昨晩の玲奈は泥酔していたにも関わらずそれを順守したのだ。
確かに小机のハイボールで乾杯した後の記憶は、どんなに絞りだしても出てこない。
だとすると、昨晩の玲奈が、
――じゃあさ…うち来る?
と言った時点では、正常な判断力があり、この段階で飴井を”獲物認定した”と考える事は出来ないだろうか…。
玲奈は改めて飴井を見た。
後悔や羞恥や後ろめたさを一旦度外視し、ひとつの素材のように、出来るだけ無感情にその男を眺めた。
彼はそろそろコーヒーを飲み終える。
ひとまず0点の男が目の前にいる、とする。
昨夜の一連のやりとりを思い出し、ちょっと胸がキュンとした出来事にポイントを加算していく。
玲奈を覚えていたこと 20pt
気持ちの良い豪快な食べっぷり 15pt
玲奈の話を丁寧に聞いてくれたこと 25pt
酔った玲奈を気遣ってお冷を注文してくれたこと 15pt
合計 75pt
悪くない。
悪くないが玲奈はこの程度のポイントで男を自宅にあげたりはしない。
だが実際は、昨日ほぼ初めて出会った男が目の前でモーニングコーヒーを飲んでいる。
こうなる決め手になった理由があったに違いない。
昨夜の自分は直感したのだ。
”この人にしよう”
と。
あまりにもまじまじと見つめ過ぎたのだろうか、
「…何?」
と飴井が居心地悪そうに玲奈に尋ねた。
インカメラに2人が収まるように飴井が腕を前方に伸ばしている。
[写ってる?入り切ってる?]
玲奈は飴井の後ろに回って顔だけ写っている。
[はい!録画スタート!]
[もうしてるよ]
[ちょ!言ってよ!]
何とも楽し気なやりとりである。
[ええーまず…、私は酔ってます]
[だいぶね…]
[ちょっとだまってて]
[朝、記憶がないかもなので証拠を残します]
そして玲奈は飴井の頭を後ろから抱きしめながら言った。
[私たち、つきあうことにしましたー!ほら迅!]
「ギャアアアアーーーーーーーー!!!」
玲奈は断末魔のような叫びをあげ頭を掻きむしった。
思わず放り投げたスマホはベッドに弾んだ。
これ以上見ていたら羞恥のあまり気を失いそうである。
――何なにナニこれ!なんなのコレいつのまに!
動画はまだ続いてるらしく、音声だけがまだ聞こえる…。
[私より先に寝ない]
[うん]
[私より後に起きない]
[おお、いいよ]
[料理は上手につくって]
[俺は料理しない]
[いつもカッコいい迅でいて]
[あ!今元ネタわかったぞ]
[絶対浮気はしない]
[おお]
[したらすりつぶすからね]
[出た名台詞!]
[じゃ今日からここが迅の家ね]
[いいのか、サンキュー!]
[それでは9月30日3時9分30秒をもって永井玲奈と飴井迅の交際がスタート致しました!カンパーイ]
――そうか!そうだった…。
玲奈は計画を立てるのが好きだ。
殊更、恋の獲物を狩る戦略となれば、手を抜いたことなど一度もない。
”アルコール”は男女の媚薬、そして毒薬。
玲奈がそれを雑に扱う訳がない。
そういう状況のための行動マニュアルを、作っていないハズがないのだ。
完全に判断力を失う前に、相手の言質をとる。可能ならばその証拠を残す。
昨晩の玲奈は泥酔していたにも関わらずそれを順守したのだ。
確かに小机のハイボールで乾杯した後の記憶は、どんなに絞りだしても出てこない。
だとすると、昨晩の玲奈が、
――じゃあさ…うち来る?
と言った時点では、正常な判断力があり、この段階で飴井を”獲物認定した”と考える事は出来ないだろうか…。
玲奈は改めて飴井を見た。
後悔や羞恥や後ろめたさを一旦度外視し、ひとつの素材のように、出来るだけ無感情にその男を眺めた。
彼はそろそろコーヒーを飲み終える。
ひとまず0点の男が目の前にいる、とする。
昨夜の一連のやりとりを思い出し、ちょっと胸がキュンとした出来事にポイントを加算していく。
玲奈を覚えていたこと 20pt
気持ちの良い豪快な食べっぷり 15pt
玲奈の話を丁寧に聞いてくれたこと 25pt
酔った玲奈を気遣ってお冷を注文してくれたこと 15pt
合計 75pt
悪くない。
悪くないが玲奈はこの程度のポイントで男を自宅にあげたりはしない。
だが実際は、昨日ほぼ初めて出会った男が目の前でモーニングコーヒーを飲んでいる。
こうなる決め手になった理由があったに違いない。
昨夜の自分は直感したのだ。
”この人にしよう”
と。
あまりにもまじまじと見つめ過ぎたのだろうか、
「…何?」
と飴井が居心地悪そうに玲奈に尋ねた。