第39話  自覚がない。

エピソード文字数 4,184文字

良かったぁ……これでちょっとはマシになりそう
ですね。私も体力に自信ある方だとは思ってましたが、キツかったですもん

 既に閉店時間。

 面接を受けに来た女性は、じいじと白竹ママと一緒に休憩室で話している最中だ。


 機嫌の戻った白竹さんと一緒に掃除をしていると、魔樹も厨房での掃除を終えてこちらにやってきた。

僕。あの人見た事あるよ~。

きっと同じ高校の上級生さんだと思うのです

 そうなのか。俺は知らないな。

 自分のクラスにばかり集中してるので、千人以上いる高校生の顔まで覚えてない。

楓蓮さんにも後輩ができましたね

いえいえ。私なんてまだ全然です。

レジスキルを覚えたての、初心者に毛が生えた程度のレベルですから

 まだ後輩を持つには早すぎます。

 それに喫茶店では十九歳と名乗っていますが、高校の上級生なら、実際は彼女の方が年上になりますし。

とにかく。すぐ辞めないようにソフトな仕事をやってもらいましょう
私も賛成ですね。あまりにもハードで辞めてしまったら元も子もありませんから
うにゅうにゅ。まずは無理の無いお仕事からやってもらいましょう

 などと三人で勝手に教育方針を決めていると、更衣室からじいじと白竹ママが出てきた。そして新人さんもメイド姿となって、俺達の前に登場する。



 おぉ~~! 全然イケてますよ。

 普通に可愛いし、ぱっつん頭はカチューシャとお似合いで。

みんなっ! 新しいアルバイトの百済紫苑(くだら しおん)さんよ。喜びなさいっ!

 自己紹介をした瞬間、クルクル回る白竹ママだったが、その場にいた全員がノーリアクションだった。

 

 なるほど。

 ママがクルクル回っても無視でいいんですね。分かりました。

 


 みんなそんな事より新人さんに興味津々である。


百済紫苑です。よ、よろしゅ~です

 少し顔を赤らめながらの自己紹介に、俺達三人は拍手喝采の大喜びだった。

 白竹さんに続き、俺も自己紹介を済ませ、魔樹も笑顔で歓迎した。

紫苑ちゃんはな。接客経験あるらしくての。レジとか一通り出来るそうじゃ
即戦力よっ! ベテランよっ! エキスパートなのだわっ!

 更にテンションが上がる三人組。

 経験があるのなら、即戦力として期待できるだけに、俺達のテンションは天を突く勢いとなっていた。

ちょ、ちょーまって下さい。や、やってみーへんと分からんし。

その……あんま期待せんとってください

 そういえばさっきから気になっていたが、関西弁?

 その喋り方と見た目にギャップがあって、やたら可愛く思えてしまうのであった。


 

 紫苑さんは俺と同じく週二でのシフトとなった。


 龍子さんと同じく、彼女と重なるのは土曜日のみだが、一緒の場所で働く者同士、仲良くやりたいものである。


 喫茶店での掃除も終わりバイトが終了すると、あとは普通に帰るだけだ。白竹家に挨拶して紫苑さんと一緒に帰ることとなった。


 どうやら家の方向が一緒らしく、大きい国道も一緒に歩いていた。

紫苑さんの家ってもうすぐ? 私はこの先ちょっと行った場所なんですよ

いや、まだ結構歩く……歩きますけど、


それやったら白峰さんの家が先につきそうですね

 なんだか関西弁が変に感じたので「敬語なんていいですよ」と伝えると、慌てて拒否する紫苑さん。
いえいえ。出来ませんって

いいですから、本当に。私もバイト初めてまだ四日くらいですし。

普通に喋ってくださって結構ですからね

でも……その。悪いって。悪いですよ。目上の人に……

いいんですって。ね。気を遣われる方が、気を遣っちゃいますし。

それに……白峰じゃなくて楓蓮でいいですよ。

いえいえ。いくらなんでもそれわ……

 結局紫苑さんは俺の猛プッシュに屈した。

 中々「分かりました」とは言わなかったが、それが逆に俺に気を使ってくれている。そう感じましたから。

ありがとぉ。じゃあ、か、楓蓮さん。ほな普通でいかせてもらいます。


うわっ、なんか恥ずかしっ

いえいえ。これから同じ場所で働く者同士、仲良くやりましょうね

 そこまで言うと、俺の家であるマンションに近づいてきた。


 出来れば楓蓮の住処は誰であってもバレたくないのだが……

じゃあ私ここなんで。また喫茶店で逢いま……あれ?
さっきまで横にいた紫苑さんは、固まったまま動かなかったので、すぐ傍まで戻る。
どうしました?

あ、ちゃう……ていうか……あの……


楓蓮さんってめちゃ優しいなって思ったんやけど……

やけど? なに?

さっき、喫茶店で見かけた時も思っててんけど……


めっちゃ美人すぎて……ビビってます!

え?
楓蓮さんって。普通に歩いててスカウトされるんちゃいます?

それはありませんよ。

今まで一度もありませんし……ちょっと前まで田舎で住んでましたから。

そ~なんや。

ほなあれやで。芸能人やらアイドルにならへん? ってスカウト絶対来るわ。


いえいえ。それは無いですって。

さっきから持ち上げすぎですって。

いやいやいや……

楓蓮さんは美人やって、百人中百人の人間がそーいうやろ。


一緒に歩いてて、こっちが恥ずかしくなるレベルやってほんま

あ、ここですか? ウチの家こっちなんで。


じゃあまた喫茶店で。ご教授願いますっ!

 そういい残してダッシュで消えた紫苑さん。

 とりあえずは、彼女とも仲良く出来そうだな。


 あと、関西弁っぽい喋りが素敵すぎる。

 女の子がそういう喋り方すると、あんなに可愛く聞こえるだなんて思わなかった。

 さぁ帰るか。

 俺は足早に家路に付こうとすると、後ろからうるさいバイク音がする。


 こんな夜中に近所迷惑だろ。

 そう思いながら道を開けると、そのバイクは俺を通り過ぎた直後、急ブレーキをしたと思えば――

あっ! か、楓蓮さんっ! ごんば、うおぉおお~~~!

 男の叫び声が聞こえた瞬間、バイクはガードレールに激しく衝突した。

 後ろに乗ってた男が歩道にダイブすると、前に乗ってたヤツはバイクの下敷きになってしまった。

ちょ。おい。だ、大丈夫か?

 俺の知り合いかどうか分からんが。楓蓮と叫んで事故ったからな。

 

 とりあえず。バイクの下敷きになった男を救出する為、バイクをどけてやる。

 すると大声で「あざ~~っす」と吠えた男はフルフェイスを取った。



 なんとな~く。予想してたが……お前らかよ。
助かりました。楓蓮さんっ! マジで死ぬかと思いました。

流石ヴァルハラチームの特攻隊長だ。

自分より重いバイクをこうもあっさりと……

 分かったから……さっさと帰ろう。

 こんな奴らに構うなんて時間の無駄だ。


 だけど。俺を見つけてガードレールに突っ込んだのは悪い気がするし……

あの……楓蓮さん。今日はまたいつにも増して……き。綺麗っすね。


マジぱねぇっす! シャレになんねーっすっ!

分かったから落ち着け。

足をひきづってるのにそんな元気な声出すなって。


控えめに言っても。女神っしょ。

事故っても仕方がねー美しさだって

分かった分かった。じゃあ帰るから。


気をつけて帰れよ。

 逃げるように帰ろうとすると、俺の進行方向から現れたのはまた違うバイクだった。

 そして俺達を発見するなり、バイクを止めて駆け寄ってくる。


 何だか見たことのある男達。こいつらも虎ちゃん率いるヴァルハラメンバーで間違いない。

 しかも俺の目の前で「押忍」と叫ぶと、九十度のお辞儀を見せてくれた。

楓蓮さん。こ、神々しすぎる。

最早人間とは思えねぇ……

バカかお前は! 楓蓮さんは本物の女神だっつってんだろ!

ヴァルハラ宮殿に連れて帰るエインフェリャルを探してるって……聞いてなかったのかよ!

 また。変な話になってきやがった。

 このやりとりがさ、冗談じゃなくてマジ顔で展開されるから、素直に笑えないんだよ

やっぱりでけーおっぱいだ。

しかも以前よりも2㎜ほど大きくなってるだと? 

まだ成長するのか? どれだけ伸びしろがあるっつーんだ!

分かったから。帰らせてくれ。じゃあな
あっ。急ぎでしたか? すみませんでしたっ!
バイク。なんか……悪かったな。

いえいえ。俺が勝手に事故っちまっただけで。大丈夫っす。

こんなの。すぐに直せますんで。

そっか。わかった……


じゃあお前らも早く帰れよ。

 その瞬間「押忍」と大音量で叫ぶメンバー達。

 心なしか、全員の目が……キラキラ輝いているようにもみえた。


 こりゃまた新たなパターンだな。

 不思議とそのキラ目を見てると、男特有の苦手意識があまり感じられない。


 

 とはいえ。こんな奴らに住居がバレるのはイヤなんで……


 遠回りして帰ろう。

 ※


 家に帰ると十時半。変な奴らを相手してたので遅くなっちまった。


 リビングにいる華凛に声を掛ける。

 今日は珍しく、学校の教科書を開いていた。勉強してたのか?

おかえりお姉ちゃ……わぁっ! どしたの?
え? 何が?
 華凛は勉強を止め、マジマジと俺の顔を見ながら、

お姉ちゃん。すっごい綺麗になってる。


大人の女の人みたい!

あぁ~これ。白竹さん家のお母さんにやってもらったんだ

 まさかの華凛まで驚く始末。

 お前まで……ちょっと髪型変わっただけでそんな驚くなよ。



 まぁでも……そう言われるのは悪くないけどさ。

 何だか。知り合い全員に言われてる気がするぞ。

聖奈お姉ちゃんにも見せてあげよ

 勝手にパシャっと一枚撮られるが、別にいい。

 わりと汗かいちまったんで、ささっとシャワーを浴びに風呂に入る。




 喫茶店で走り回ってると、あっという間に汗だくになっちまうからな。

 これが夏になると、もっとヤバそうだ。

さよなら。綺麗な俺
 そう言いながらシャワーを顔面から浴びる。

 今の俺のレベルでは到底出来ない髪型に別れを告げる。



 さて、身体を洗いながらふと考える。



 喫茶店では新しいバイトである紫苑さんとも、なんとか上手くやれそうだな。

 これで白竹さん達の負担が少しでも軽くなればいいんだが。などと思っていると――

おね~ちゃ~~ん! 聖奈お姉ちゃんから電話

 おいおいなんつータイミングだ。髪の毛が泡だらけだって。

 どうせ華凛が送った写メに反応したんだろう。

もうすぐ出るって言っておいてくれ

は~~い!


うん。うん。もうすぐ出るって言ってる

 俺はささっと泡を洗い流し、身体を洗うと、バスタオル姿で自分の部屋のベッドに転がり込む。

 天井を見ながら聖奈に折り返し連絡していた。



 どうせ、何を言われるかなんて。大体予想は出来る。

――――――――――――


次回。楓蓮と友達なのは聖奈だけ。

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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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