第10話

文字数 883文字

「堀木さん、もう夜遅いことですし、今日のところはもうシャワー浴びて寝ましょうよ。ずっと泣いてると、一緒にいられる時間が短くなりますよ」

たかひろは床でふてくされたままの堀木の目を見つめながら、彼の両手を自分の手に取った。

「さあ、立って、風呂場まで行きますよ」

たかひろは堀木の手を引いて立ち上がらせると、そのまま脱衣所まで連れて行った。

泣き疲れてぐったりしていた堀木は、たかひろに導かれるままフラフラとついていく。

「なあ、たかひろ…お前は俺のこと愛してる?」

堀木はうつむいて、自分が着ているパジャマのボタンがぷちぷちと外されていく様子を眺めながらたかひろに尋ねた。

たかひろは黙ったまま、真剣な面持ちで堀木の衣服を一枚一枚、脱がしていく。

なんだか、ぎこちない。

お互い裸を見せるのは初めてではないはずなのに。

堀木はたかひろの肉体を直視することが出来ずにいた。

二人は黙って浴室に入った。

たかひろがシャワーの蛇口をひねると、サーッと柔らかく、温かい音が浴室に広がり、二人を包み込んでいく。

「無視しないでよたかひろ…俺のこと愛していないの?」

たかひろはシャワーで髪を濡らしながらずっと黙っていた。



お前はこの15年間、一度も愛してるって言ってくれたことがない。

大野くんは言ってくれたのに…。

堀木は大野と初めて寝た時に、彼に好きだと言われたことを思い出していた。

彼に好意の言葉をかけてもらって、嬉しかった。

でも、本当にその言葉が欲しいのは、お前だけなんだ…。

堀木は大野に後ろめたい気持ちになるのと同時に、少しも愛の言葉をかけてくれたことがないたかひろに怒りが湧いてきた。

「ねえってば!!愛してるって言えよ!!」

堀木が腹立ちまぎれに大声を上げた瞬間、たかひろは堀木の顎を掴んで半ば強引にキスをした。

二人は舌を絡め合い、お互いに口内を貪り合う。

入り混じる二人の唾液。

たかひろとキスしながら、堀木はこの上ない幸福と快感を覚えた。

「ねえ…抱いて、たかひろ…」

堀木はたかひろのほっそりとした肉体にしなだれかかりながら懇願した。

たかひろは何も言わず、微笑んで、彼のもっちりとした身体を抱き寄せた。



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