第13話 結婚式と初夜

文字数 2,147文字

結婚式の日が来た。僕は2日前に帰省してきていた。昨日は母親の家を訪ねて、最後の打ち合わせをしてきた。紗耶香ちゃんは元気で嬉しそうだった。ここでもちょっと手を握り合っただけだった。

結婚式を挙げないカップルもいるが、挙式と披露宴はやるべきというのが僕の持論だ。両家の家族や友人の前で、二人で仲良く生活していくことを誓うことは大事なことだと思っている。

結婚式が始まった。紗耶香ちゃんのウエディングドレス姿はきれいとしかいいようがない。また、お色直しのドレス姿もとてもきれいで見とれてしまった。こんなきれいな可愛い娘を嫁にもらってもよいのかと信じられない気分であった。型どおりの結婚式と披露宴が順調に進んでいく。

紗耶香ちゃんの思いどおりにしてよいと言っておいたけど、内容にはあまりこだわらなかった。先生との結婚を許してもらっただけでもう十分なので、式と披露宴は両家の親の希望に沿えればよいと思っていたからと後で聞いた。親思いの優しい娘だ。

披露宴が終わり、会場の出口でお客様を見送って、3時半過ぎにはすべて終了した。

疲れた。紗耶香ちゃんはもっと疲れただろう。母親と着替えに行っている。僕はすでにラフなスタイルに着替えていて、ロビーのソファーで紗耶香ちゃんを待っている。

紗耶香ちゃんが母親と二人で下りてきた。少し疲れているように見える。ピンクのワンピースを着て、小さめのスーツケースを引いている。9月でも金沢はまだかなり暑い。

母親からちょっと話があるというので席を外して行くと、お願いごとなどを耳打ちされた。分かりましたとソファーへ戻る。

それから二人で新婚旅行に出発した。会場が駅前のホテルなので歩いて駅へ向かい列車に乗った。

時間的に特急列車が無くて普通列車だが、この時間はすいている。二人並んで座る。動き出すとすぐに紗耶香ちゃんが体を持たれかけてくる。疲れて眠ったみたい。手を握って身体を支えてやる。

和倉温泉までは1時間半位かかるが、ウトウトしていると思ったよりも早く駅についた。タクシーでホテルに到着して、これで一安心。まだ、6時過ぎで辺りもまだ明るい。

今日はレストランでの夕食を頼んである。部屋へ荷物を運んでもらうことにして、そのままレストランへ向かう。

席に着くと、二人同時に「疲れたね」と顔を見合わせる。

「列車で少しは眠れた?」

「すぐに眠ってしまってごめんなさい」

「疲れているようだけど大丈夫?」

「眠ったから少し元気が出てきた」

「本当?」

「大丈夫、あとは食べて寝るだけになったから」

その寝るのが大変だよと口に出しかけたが、思いとどまった。

「披露宴ではあまり食べられなかったから、お腹がすいた。ゆっくり食べよう」

フランス料理のフルコース。評判のよいレストランと聞いていたが、おいしい。

紗耶香ちゃんはやはり全部は食べられないみたいで、出てくる料理の半分くらいはこちらの皿に移してくれた。僕はそれもすべて完食した。

式と披露宴を思い出しながら話をした。会話が楽しい。ただ、会話がぎこちなくなるときがある。お互い今夜のことを考えてしまうからかもしれない。アルコールは控えめにしてワインをグラス1杯に止めた。

紗耶香ちゃんには、お酒に弱いことはわかっているけど、ワインを少し飲むと疲れと緊張が取れるからと勧めた。グラスの1/3くらいは飲んだみたいで、頬が少し赤くなっている。

8時を過ぎたころ、食事を終えて腕を組んで部屋に向かう。少し酔っているのか寄りかかってくる。ドアを開けると入口に二人の荷物が置かれている。

そのまま部屋に入ると、部屋の奥にはもう布団が敷かれている。二つ並べて置かれた枕が目に入る。紗耶香ちゃんもすぐに目がいったみたい。緊張する。

枕をじっと見つめている紗耶香ちゃんを後ろから抱きしめる。紗耶香ちゃんが震えているのが分かった。

緊張を解こうとすぐに体をはなして「荷物を開いて、お風呂に入ろう」と話しかける。その言葉で二人は荷物を部屋に入れてお風呂に入る準備をする。

部屋には温泉かけ流しのお風呂がついている。先に入って下さいというので、先に入る。お風呂から外が見える。お湯につかると気持ちがいい。紗耶香ちゃんが待っているから、身体が温まると早めに出る。

紗耶香ちゃんは窓際のソファーに座って待っていた。どうぞというと、着替えをもってお風呂に入っていった。

窓の外は真っ暗で、遠くに光がいくつか見える。部屋が明るいので、照明を落として、枕もとの明かりだけにした。目が慣れてくるとこれでも随分明るい。

布団で横になって紗耶香ちゃんがお風呂から上がって来るのを待つ。結構時間がかかっている。彼女は今、何を考えているのだろうと思っていたら、ウトウトしていた。

気が付いて時間を確認すると、もう小一時間位になる。お風呂で倒れているのではと心配になって起上ろうとすると同時に紗耶香ちゃんが出てきた。「お風呂で眠りそうになった」といって身づくろいをしてこちらに来る。

ちょこんと座って「不束者ですがよろしくお願いします」と頭を下げる。慌てて起上ったところへ紗耶香ちゃんが抱きついてくる。

身体が暖かくて、湯上りの温泉の匂いがする。強く抱きしめてやるが、やはり少し震えている。「大丈夫だから楽にしてじっとしていて」と耳元で囁く。
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