すずちゃんとまほうのすてっき
文字数 1,635文字
ほっとけーきいろのやねのおうちから、きょうもすずちゃんのげんきなこえがします。
「ちちんぷいぷいの、えい!」
すずちゃんは、あしのとれたくまのぬいぐるみにむかって、ぴんくのすてっきをふります。
「あれれ? ぜんぜんくっつかない」
すずちゃんはなんどもじゅもんをとなえて、すてっきをふります。だけど、くまのあしはとれたまま。
「このすてっきじゃだめなんだ」
すずちゃんはがっかりして、すてっきをぽいっとなげすてました。
「あら……」
それをみたすずちゃんのおかあさんは、なんだかかなしそう。
じつはこのすてっきは、おかあさんがおりがみでつくってくれたものだったのです。
「おかあさん! ほんもののすてっきをかって!」
すずちゃんは、おかあさんになきつきます。
「あらあら……。まほうは、れんしゅうしないとつかえないのよ」
おかあさんはそういって、ちいさなはりをとりだしました。
それはまるで、ようせいのけんのようにきらきらかがやいています。
「なあに、それ?」
すずちゃんはきょうみしんしん。おかあさんはくすりとわらって、ういんくします。
「これは、おかあさんのすてっき。あぶないから、さわっちゃだめよ」
そういって、そのすてっきをくまのあしにぶすり!
「きゃ!」
すずちゃんはびっくりしました。
「だいじょうぶ。ちちんぷいぷいのえい!」
おかあさんはそういいながら、くまのあしをちくちくちく。
みるみるうちに、くまのあしがくっつきました。
「すごい! おかあさん、まほうつかいだったんだ!」
すずちゃんのめは、ほうせきみたいにきらきらひかりました。
「そろそろおやつのじかんね」
おかあさんはれいぞうこからたまごをとりだして、ぱかりとわってぼーるにいれました。
「すずちゃんもまほう、つかってみる?」
「え? わたしにもできるの?」
ふあんそうなすずちゃんに、おかあさんはあわだてきをわたしました。
「これがすずちゃんのすてっき! ちちんぷいぷい、かきまぜて」
「うん!」
すずちゃんはいわれたとおり、「ちちんぷいぷい」といいながら、あわだてきでたまごをまぜまぜ。おかあさんがぎゅうにゅうをいれて、まぜまぜ。こなをいれて、まぜまぜ。
なんだか、まほうつかいがおくすりをつくっているみたいです。
「じゃあこれを、やきます!」
おかあさんが、ぼーるのなかみをふらいぱんにいれます。
じゅうじゅうとおいしそうなおとをして、おつきさまのようにまんまるなきじができました。
「つぎはひっくりかえすまほう」
おかあさんは、すずちゃんにふらいがえしをわたしました。
「ちちんぷいぷいの、えいで、ひっくりかえしてね。やけどするから、ふらいぱんにさわっちゃだめよ」
「うん! ちちんぷいぷいの……」
すずちゃんは、ふらいがえしできじをそっともちあげます。
どきどき、しんぞうがおおきなおとをたてます。
「えい!」
ふらいがえしをくるんとまわすと、きじがひっくりかえりました。
なんとすてきなきつねいろ! すずちゃんのおうちのやねといっしょです。
うらもこんがりやけたら、ほっとけーきの完成。
つくえにならべて、いただきまーす!
「おいしい!」
ふたりとも、おおよろこびです。
「すずちゃんも、まほうがつかえたね」
おかあさんのことばに、すずちゃんもまんぞくがお。
「うん! まほうって、すてっきだけじゃだめなのね」
ごちそうさまのあと、すずちゃんはおかあさんおてせいのすてっきをひろいあげました。
「おかあさん、ごめんなさい。まほうがつかえないのを、すてっきのせいにしていたの。これからは、たくさんたくさん、いろんなことをれんしゅうするね」
すずちゃんはすてっきをぎゅっとだきしめました。
おかあさんは、そんなすずちゃんをもっとつよくだきしめます。
「ちちんぷいぷいの、えい!」
きょうも、すずちゃんのおうちでは、げんきなこえがひびいています。
きっといつか、すずちゃんのつかういろんなまほうで、たくさんのひとがしあわせになるでしょう。