第77話 回想:2024年1月

文字数 1,527文字

(南山洋子が、今までの経過を回想する)


2024年1月。東京。ユニバーサル・ジェンダー党オフィス。
洋子は、ふっと、ユニバーサル・ジェンダー党を作った時のことを思い起こした。
洋子は、もとは、G社で働いていたIT技術者だった。政治の経験は全くない。それどころが、政治をするためには、政治の経験が必要だと思っていない。マスコミは、ユニバーサル・ジェンダー党が、選挙に圧勝したのは、時流に乗った偶然だと書き立てているが、そうではない。洋子には、勝算があった。
過去に、選挙にITが使われた例では、ツイッターの利用や、ケンブリッジ・アナリティカの選挙介入が知られていた。しかし、それらは、ITが、選挙結果に介入して、公正な結果をゆがめているという印象を有権者に与えていた。つまり、有権者からみれば、ITは悪者だった。これは、IT企業の社会的な印象を悪くする。場合によっては、企業存続が困難になる。実際に、ケンブリッジ・アナリティカは廃業に追い込まれた。G社は、ケンブリッジ・アナリティカのように選挙に深入りしている訳ではないので、企業存続が困難にはならない。しかし、長期的にみれば、IT企業の政治イメージは、考えておくべき問題だった。洋子は、社内で「IT技術を使った健全な政治システムの構築とサポート」のプロポーザルを書いた。「ITは、政治に積極的に健全に関与出来るはずだ。その手法がわかり、システム構築ができれば、大きなビジネスチャンスになるから、社内で検討すべきだ」と。このプロポーザルは、採択され、政治プロセス分析チームが作られた。洋子は、チームのトップになった。だから、政治経験はゼロだが、政治プロセスについては、玄人なのである。
この政治プロセス分析チームの実績が求められて、洋子は、アマゾネス・ウーマンズ・パートナー社の社長に抜擢された。それから、選挙の話が出てきて、洋子は、アマゾネス・ウーマンズ・パートナー社を休職して、ユニバーサル・ジェンダー党を立ち上げた。
ユニバーサル・ジェンダー党は、普通の政党ではない。正確に言えば、政治プロセス分析から、既存の政党のスタイルの問題点を修正した組織である。旧来の政党は、まず人が集まって政党を作り、それから問題を集約して、公約を作成する。その過程で、意見の集約が困難になると、多数決で押し切って意見を1本にまとめる。しかし、洋子は、かねがね、この手続きは不合理だと考えていた。多数決の手続きを経てしまえば、政策は、全国画一の金太郎飴になってしまう。政策は、中央指導の補助金が主流だ。その補助金の配分を巡って、政治家が暗躍する。そして、全国の画一的な金太郎飴のようなハコモノが建設される。一方で、地方の個別事情は切り捨てられ、本来の問題は、少しも解決しない。金太郎飴を生み出す政治システムを作っておきながら、地方が画一的なハコモノを作るのは、工夫が足りないと非難する。非難されるべきは、地方の行政ではなく、政治システムの問題だ。もちろん、紙と鉛筆で投票した時代なら、他に方法がなかったかもしれない。しかし、現在は、IT技術を使えば、他の方法はいくらでもある。問題は、まともな政治を支援するITシステムを構築しないことだ。洋子は、こう考えて、ユニバーサル・ジェンダー党を立ち上げた。つまり、ユニバーサル・ジェンダー党には、アマゾネス・ウーマンズ・パートナー社流のユニバーサル・ジェンダー計画を支援するという側面と、政治プロセス分析チームで行っていた民意を政治に反映させるというIT利用の側面がある。ユニバーサル・ジェンダー党は単なる女性差別対策政党ではない。このことが、多くの男性の政党支持者を生み出す原動力になった。
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