there -1-
文字数 1,044文字
そう言ってため息を吐いたのは、金や碧玉をふんだんにあしらったアクセサリーで豪奢に着飾った、美しい娘であった。
背後に控えていた青年が、頭を垂れながら彼女に答える。
……まあ、構わないわ。立場というものもあるものね。
でも、やっぱりひどいわ。あの民――ヘブライ人が何をしたと言うので、父上はあんなに彼らをこき使っているのでしょう?
高貴なるエジプト人には劣るが、しかしやはり彼らは強い。
労働力として使うのに持ってこいですが、同時に脅威になり得ないともいいきれない。
しかし日々苦役を強いて疲弊させれば、我々に反旗を翻す力も残せまい。
こういった、ファラオ・アアケペルカラーの尊き御考えによるものです。
娘、すなわち王女ハトシェプスト・クヌムトアメンはグッと眉間に皺を寄せた。
青年、ネフェルジェセルの顔も険しい。
王女は拳を固く握りしめ、震える声で言った。
鋭い金属音が辺りにこだまする。
ネフェルジェセルはそれを拾い上げ、王女の前に差し出した。
ねえ、今日はいったい何人が死んだのかしら?
産声を上げる間もなく、お乳を飲むより先に大河の水をがぶ飲みして!
何人が死んだのかしら! 私、こればっかりは……こればっかりは、私、父上を赦せない……!
王女はネフェルジェセルにしがみつき、肩を震わせて泣いた。
ネフェルジェセルは王女の背中を撫でさすり答える。