2話 俺が、撫でてもいいのか……?(3/3)

文字数 1,551文字

「よしよし、まずはおむつから確認するか」
赤ちゃんは俺のイメージ不足なのか、この子の精神年齢的な物なのか、残念ながら一歳には満たない程の赤ちゃんらしさが残った姿をしていた。
おむつ、汗、体温をチェックして、ひとまず健康と清潔は確認できた。
「ママと離れるのは初めてって言ってたからな、寂しいのかもしれないな」
「……その子、寂しいの……?」
シェルカが可愛らしい声で尋ねる。
「歌でも歌ってみようか」
俺が言って、腕の子を縦に抱いて歌えば、シェルカも嬉しそうに紫色の瞳を輝かせて聞いている。
ライゴも、広げ始めたブロックをそのままにこちらを向いた。

赤ちゃんも次第に泣き方が落ち着いてくる。
ようやく泣き止んだ赤ちゃんに、俺は自己紹介をした。
「初めまして、リーバちゃん、突然いつもと違う場所で、違う体でびっくりしたよな。俺は洋平。今日は俺と一緒に、楽しくすごそうな」
リーバちゃんは俺の話を神妙な顔をして聞いた後、一つきりの目を細めて、キャッキャと声を上げて笑った。
おおお、可愛い……。

俺は久々のミルクと離乳食に悪戦苦闘しつつも、なんとか無事一日を乗り切った。
ああそうか、ママさんがミルクと離乳食の話をして行ったから、どうしてもそのくらいの歳の子を想像しちゃったのかも知れないなぁ。

ママさんは、一日目の結果に満足してくれたようで、明日からもお願いできないかと言った。
そんなわけで、俺はこの五日、リーバちゃんを預かっている……。のだが……。

この子は初日の一件から、すっかり俺の歌が気に入ってしまったらしく、寝入る時には歌ってやらないとぐずって寝てくれなくなっていた。

一日、二日なら良かったんだが、それも五日目ともなると……。
ゔ……喉が、もう痛い……。

腕も、久々の抱っこが続いてもうちぎれそうだった。
これ、重さはもうちょっと軽くならないんだろうか……。

リアルな重みを実感しつつ、俺はよろよろとソファのようなものに腰掛ける。
途端、リーバちゃんの泣き声が大きくなる。

あー、うん。立って欲しいんだよねぇ……。
わかってる、わかってるんだけど、ちょっとだけ、待っててな……?

心配したライゴが「リーバちゃーん」とおもちゃを見せに来てくれる。
けどリーバちゃんは見向きもしない。
「ありがとなー、ライゴはいいお兄ちゃんだなー」
と告げた声が詰まって咳に変わる。
「ヨーへー……、声、変だよ、大丈夫……?」
「んー。ちょっと、喉痛めたみたいだな。こんな時蜂蜜とかがあればなぁ……」
俺の言葉に反応したのは、シェルカだった。
「それって……、もしかして、これ?」
本棚から、虫の図鑑のような物を引っ張り出してくる。
虫が苦手なシェルカは、それが見たくないのか、薄目で嫌そうにページをめくっていたが、俺に見せてきたページに書かれていたのは、確かにミツバチっぽい生き物で、その下の絵には蜂の巣らしいものと蜜の絵も描かれていた。

いや……針が三本生えてるんだが……。
しかもなんか先が曲がってるんだが?
……こっちのハチ怖いな……。

「これがあったらいいの?」
シェルカが薄目のままで、蜂の巣を指差す。
キッチンで蜂蜜を見た事はなかったが、別のところに置いてあるんだろうか?
「ああ、あったら助かるな」
俺が答えたら、シェルカは「……分かった。頑張る」と意を決したように答えた。

んん?
待て待て、なんか、それは、もしかして……?

途端、俺が動きを止めてしまったことが不服だったらしいリーバちゃんがわあんとのけぞるように泣き出す。
俺が慌ててそれを宥めて、振り返った時には、シェルカはいなかった。
「ライゴ! シェルカは……っっ!」
声が途中から咳に変わる。
「え、どうしたの……?」
虫の図鑑を夢中で眺めていたライゴが、慌てて顔を上げる。
途端、ジリリンと聞いたこともないような音が巣全体に鳴り響いた。
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登場人物紹介

大木 洋平(おおき ようへい)男

     現役保育士だったが、保育中に寝落ち、気付けば異界に居た。

     身長178センチ。一人暮らしで料理上手、子ども好き。歌も好き。

     5話までほとんど触れられないものの、生い立ちは割と悲惨。

     暗くて狭いところに閉じ込められない限りは、明るく優しい青年。

ライゴ  ザルイルの息子、明るく素直な四歳くらいの少年。

     二つ眼のせいで保育園に入れず、二つ眼にコンプレックスがある。

     グルーグレーの体毛と羽と瞳、ツノは四本。

     アイコン絵は人型時。

シェルカ ザルイルの娘、引っ込み思案で心の優しい三歳くらいの幼女。

     虫が苦手で、虫のようなサイズの洋平を最初怖がっていた。

     パステルピンクの体毛と羽、目は紫二つ眼→成長後は四つ眼に。

     アイコン絵は人型時。

ザルイル ライゴ、シェルカの父、落ちていた洋平を子どもへの土産にと拾ってきた。

     紳士的で落ち着いた性格。子ども達をとても大切にしている。

     外見は紫の毛に覆われたモッフモフ生物。ふわふわの羽で飛ぶ。

     ツノは六本、琥珀色の眼が八つある。

     アイコン絵は人型時。

リーバ  最初は〇歳の赤ちゃんとして登場するが、途中で脱皮して二歳ほどの見た目になり、

     辿々しく喋るようになる。

     独占欲が強くて洋平に執着している。洋平の歌が好き。

     真っ白でぬめぬめな蛇っぽい生き物。血のような赤い眼。

     一見単眼に見えるが、実は単眼の中にも眼を持っている。

リリア  山ほどもあるサイズのリーバの母。サイズの割にしゃべりは軽い。

     超回復薬を提供してくれる(実は唾液)

     ぱっと見ヘビっぽい外見だけど、ヌメヌメしている。

     ザルイルとは幼なじみ。

ニディア 正統派ドラゴンであることを誇りに思っている誇り高きツンデレ娘。デレ多め。

     ボクっ娘。最初、洋平に男と間違えられていた。六歳。

     一般の保育園に通っていたが、力が強く牙を剥く度拘束されていたため、

     そうしない洋平のところへ押しかけてくるようになった。

     緑の鱗が艶々のドラゴン。金色の六つ眼。

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