【滝夜叉姫と妖魔の内裏編】第4話 方相氏はつらいよの巻(後編)

文字数 5,648文字

鬼っ子ハンターついなちゃん【滝夜叉姫と妖魔の内裏編】

第4話 方相氏はつらいよの巻(後編) 

   〈登場人物〉
役ついな(一四歳)……本名・如月ついな。方相氏(鬼退治師)。CV:門脇舞以。
前鬼(ぜんき)……ついなちゃんのお供その①(赤いぬいぐるみ)。セリフはピコピコ音。
後鬼(ごき)……ついなちゃんのお供その②(青いぬいぐるみ)。セリフは無し。
稲生 平太(九歳)……ゲストキャラ。広島在住の内気な少年。いじめられっ子。CV:門脇舞以。
近所のいじめっ子(十二歳)……いじめっ子その①。
ガヤ(いじめっ子)……いじめっ子その②。CV:相葉ゆきこ様(特別ゲスト)。

※「N」=ナレーション

▶︎【鬼っ子ハンターついなちゃん】ボイスドラマ 第4話(前半)ボイスドラマ
 https://fantia.jp/posts/4081
▶︎解説トークコーナー「門脇舞以と大辺璃紗季のドルルゥッのコーナー! 第4回(前半)」
 https://fantia.jp/posts/4192
 
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ついなN
『鬼っ子ハンターついなちゃん』、
「滝夜叉姫と妖魔の内裏編」第4話
方相氏はつらいよの巻!

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【嵐の夜。地方都市の郊外。人気のない和風の古屋敷】

(SE:ザーーーーッ……。ピカッ、ゴロゴロゴロ……)

ついな
「いやぁ、お腹空いたなぁ…。
この屋敷いくら探しても探し終わらんで! やったら広いっっ!
……平太、なんか食べ物持って来てへん〜?」

(SE:ぐうぅ……)

平太
「…………。
給食の余りで塩パン持ってきたから、これ半分あげる…」

ついな
「おおっ、これは助かるで! おおきにな♫ むしゃむしゃ!
ここ数日、まともなモン食べてへんかったから、ありがたいわぁ〜」

平太
「……ついなちゃんは、いっつもこんな風にしてるの?」

ついな
「こんな風? …まあ、ウチは流しの方相氏やからな!
街から街へ、さすらいの風来坊や。
宿に困ったら、神さん・仏さんに断って、
人のいない神社や祠や古寺にお世話になったりしとるで」

平太
「……そんな生活…、寂しくないの……?」

ついな
「……寂しくない…ゆーたら嘘になるけど、そういうモンやしな…。
それにウチには、相棒にこのディクソンと、前鬼と後鬼がおるし!」

前鬼
「ピコピコ!」

平太
「…はぁ……──」 【※ため息】

ついな
「んにゃっ!? な、何や、その友達おらんなコイツ、みたいな目は!?
ウ、ウチかて友達の一人や二人おるでっ……!!!
……あ、せや、平太とだって友達や!
さっきの塩パンのお礼に……コレあげるな!」

(SE:ごそごそ)

平太
「この紙の小袋、なに……?」

ついな
「これは魔除けの『遣豆(やりまめ)』や。もし平太が妖怪に襲われる事があったら、
その袋の表に書いてある呪文を読んで、中の豆を投げつけるんやで!」

平太
「あくやくじゃき…? 漢字がむずかしくて読めないよ……」

ついな
「『悪厄邪氣病魔退散(あくやくじゃきびょうまたいさん)』やで!
それから後もう一個、別なのもあげる。
こっちの小袋は……、こっちのは、後で開けるんやで!!
えへへ♡」

(SE:ザーー……)
 
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平太N
夜、お化け屋敷で合流した僕とついなちゃんは、人気(ひとけ)の無い暗闇の中、
二人肩を寄せ合って暖を取りながら、広い屋敷を探検していきました。
いるのかいないのか分からない、お化けの証拠を求めて、延々と……。

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(SE:ザーーーー、ゴロゴロゴロ……)

ついな
「そーいや、このお屋敷…、どんなお化けが出るん?
幽霊はでーへんやろな? ほんまにでーへん???
妖怪はええけど、幽霊は嫌やで。出ないって言うてや!!
嘘ついたら針千本(ハリセンボン)飲ますからな!
フグやから毒あるできっと!!!」

平太
「……僕にも詳しいことは分からないけど…、
僕がお父さんから聞いた話だと、『魔王』が出るって言うんだ……」

ついな
「──魔王?
何やそれ、平太のお父はん、大人の癖に厨二病やなぁ…?」

平太
「ついなちゃんに言われたくない……」

ついな
「お父はんお父はん、今そこに、魔王の娘が!」

平太
「お父さんの話だと、この屋敷には昔、
山ほど沢山のお化けが出たって言うんだ……。
その頭領が魔王だって」

ついな
「くぬぬっ、スルーされた!!
──山ほど沢山のお化け…?」

平太
「うん……、だから人が近寄らなくなったって……。
でもこの屋敷には、『魔王が遺した魔法の小槌』があるっていう話なんだ……」

ついな
「……ははーん、何となくカラクリが読めてきたで……。
ええか、平太、妖怪っちゅうのはな、『人々の想いの姿』なんや」

平太
「『想いの姿』?」

ついな
「せや。今の平太の話と似たような伝説を、以前ウチは聞いた事がある。
大昔の……江戸時代の頃のお話やけどな。
──その時代その時代で、妖怪の姿かたちは変わる。
妖怪は人が求める姿を取るものなんや。怖いと思えば怖くなる。
例えば、鵺(ぬえ)っちゅう正体不明のおっとろしい妖怪おるやろ?」

平太
「うん。ゲームの『物の怪ウォッチ』で見たことある……」

ついな
「最近、鵺の正体は、実はレッサーパンダやいう説が唱えられたんやで」

平太
「レッサーパンダ? 本当に!?

ついな
「平安時代の日本にレッサーパンダおる訳ないから、勿論冗談(ジョーク)やけどな。
怖くないと思えば、大概の事は本当は怖くないんや」

平太
「そんなものなの……?」

ついな
「そんなものやで! 相手に正面から向かっていける勇気があればな!
それで相手がほんまに強そうやったら、とっとと逃げればええんや!」

平太
「いい加減だなぁ……。ついなちゃんも逃げるの?」

ついな
「ウチは逃げんで! この世の正義と子供達を護る方相氏やからな!」

平太
「………………あ、幽霊!」

ついな
「うわっ!?よせやめqあwせdrftgyふじこlp!!!」

平太
「あはははは、ついなちゃん情けない!」

ついな
「アホ〜〜〜、ゆ、勇気ある心が大事なんや、心が!!
…って、あれ…?
なんかこの道……さっきも通ったような……? ……はっ!!!」

平太
「ん、ついなちゃん何そんな青い顔して? 怖がらせよたってダメだよ」

ついな
「……せやないっ! 平太……、危ないっ!!!」

(SE:どんッ! ついなちゃんが平太を突き飛ばす音)

(SE:ぶにゅっ!! 続いて、「壁」がついなちゃんに絡みつく音)

平太
「え…!? ついなちゃん、どうしたの!? 
懐中電灯が消えて、暗くて何も見えないよ…!」

ついな
「しもたわ…! 話に気を取られて……!!
こいつや…、こいつがこの屋敷の『正体』や……!!
灯りをつけるんや、平太!」

平太
「正体!? どこにも何もいないじゃない!!?

(SE:ぶにゅぶにゅっ!!)

平太N
落とした懐中電灯を手探りで拾い上げ、慌てて僕は辺りを照らしました。
そこで僕が見たのは…、目鼻のついた屋敷の土壁(つちかべ)に、半分以上身体が
埋まっているついなちゃんの姿だったのです……。

(SE:ぶにゅ!)

平太
「ついなちゃん⁉︎」

ついな
「ぬかったで……! この壁の怪異は……、妖怪『塗り壁』や!
……進もうとしても進もうとしても、道が前に進めない時、
こいつが悪さしてるという伝説の妖怪……。きっとこいつは、
この屋敷から他の妖怪たちが『去った』後、一人だけ残って、
ここを住まいと決めたんや。
古い屋敷に土壁があるのは当たり前、誰にも気づかれへんからな……」

平太
「ついなちゃん、僕っ……、僕どうしたらいいの…!?

ついな
「平太……、ウチはもうダメや……。すでに半分以上、
塗り壁に取り込まれとる…。
こうなるともうウチの術も効かん。
後はキミに任せたで……!
さっき渡した豆を……、豆をコイツに……投げつけるんや……」

平太
「……つ、ついなちゃんっ、ついなちゃんっっ──……!」

ついな
「頑張ってな……、平太なら…キミなら、きっとできるで……」

(SE:ぶにゅぶにゅぶにゅ……っ)

平太N
ついなちゃんはそう言い残して…、そして壁に取り込まれていきました…。
僕はそれを見て……、小袋を握りしめて、ただ震えているばかりで……。

平太
「ついなちゃん……。ついなちゃん、ついなちゃん……、
僕…、僕…怖いよ…。でも……! でも……!!!」


ついなN
『最初にあいつらに言い返したんは、少年、キミ自身やろ?』
『怖くないと思えば、大概の事は本当は怖くないんや』
『相手に正面から向かっていける勇気があればな!』

(SE:ぎゅっ、ガサガサごそ…。小袋を開ける音)


平太
「妖怪めっ……、ついなちゃんを放せぇ…!! 悪厄邪氣病魔退散!!」

(SE:ばーっ! 豆をまく音。ピカー!と閃光が走り、しばし無音)

ついな
「……よくやったで、平太……!」

(SE:ぶもおおぉ〜〜〜〜〜! 塗り壁の吠える声)

ついな
「厄難災禍悪疫即祓、邪気病魔凶鬼即滅……、方相閃・魔滅(まめ)!」

(SE:ドォォォォ〜〜!! 壁の吹っ飛ぶ音。ゴゴゴゴ……)

ついな
「はぁはぁはぁ……。やれば、できるやん、平太……!」

平太
「ついなちゃん……! ついなちゃーん!!!」

ついな
「えへへ、ウチも敵わない奴を……平太が倒したんやで…おおきにな!」

平太
「うん……、うん……ついなちゃんが無事で良かった…」

ついな
「……えへへ…。お、平太、アレ見てみぃ」

(SE:ぴょこん)

平太N
ついなちゃんが指差した先には小さなチワワの様な生き物が一匹いました。
ひっくり返って、目を白黒させています。これは……?

ついな
「……ふふっ、こいつが塗り壁の正体や。
幽霊の正体見たり枯れ尾花、つい最近、江戸時代の絵巻が発見されてな。

──もっとも、学者の偉い先生が言うには伝説の塗り壁と、
この屋敷の壁のお化けと、その絵巻の妖怪が同じものかは分からんらしい。

けど……、見る人々がそう思えば、そうなんや、妖怪ってのはな!」

平太・ついな
「怖くないと思えば、本当は怖くない!」

ついな
「せやで! あはははははははっ!!!」
 
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【エピローグ】

平太N
その後……、僕とついなちゃんは屋敷中を探し回りましたが、
結局「魔王が残した魔法の小槌」らしいものは見つかりませんでした──。
(聞いた話だとその小槌は広島県のとあるお寺に安置されているそうです)

次の日、僕はいじめっ子たちに、捕まえたチワワを見せましたが、
笑って誰もまともに取り合ってくれませんでした。
でも……、僕は、僕は、嘘は言ってないし、
それでいじめが急に止むということもなかったですが、
お父さんが嘘つきじゃなかったことを証明できたと思いましたし、それに…
ちょっとだけ……、ちょっとだけ勇気が持てるようになりました。
だから……、少しいじめも減りました。

ついなちゃんはその後、僕と一緒にお母さんにこってり叱られて、
うちで一晩寝て、お母さんに朝ごはんを作ってもらって満腹まで食べました。

それからついなちゃんは、
僕が家出少女に唆(そその)されたとカンカンのお母さんが百十番に連絡しようとしているのを見て、
慌てて、「それじゃまたな!」って、来た時と同じく風のように去っていきました。
すごくあっさりとした別れでした。
きっと……明日も会える。そんな感じで。

ついなちゃんがいなくなった後、僕は、ついなちゃんからもらった
もう一つの小袋の方を開けてみました。

中には、魔除けの『遣り豆(やりまめ)』と対になった『福豆(ふくまめ)』が入っていて、
袋の表には、「開運蓄財招福圓滿(えんまん)」と書いてありました。


僕は……、ついなちゃんと出逢ったことを一生忘れないと思います。
 
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【次回予告】

ついなN
いつの世も方相氏は、人々に追われる存在、
安住の地なんか無いんやなぁ……、辛いで!
良い子のみんなは、
豆ぶつけられとる鬼みたいな存在をもしどこかで見かけたら、
ぜひ親切にしたってな!

……ちゅー訳で!
『鬼っ子ハンターついなちゃん』次のお話は──

滝夜叉姫の足跡を追い、気持ちも新たに関東へ向かうウチ!
荒れ狂う吹雪の中、キリタンポ鍋をつつきつつ、
かまくらで暖を取っていると、
悪り子はいねがー!と弱いものいぢめする赤鬼が現れた!!
豆ぶつけたる!!!…とそこへ、青き衣を纏いし謎の少女が現れて──!?

次回「滝夜叉姫と妖魔の内裏編」第5話、
秋田県東由利(ひがしゆり)の奇跡!の巻で
しーゆーねくすと鬼やらーい! やで❤

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※この脚本を用いた、門脇舞以さんらプロの声優の方々によるボイスドラマも配信しております。
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登場人物紹介

ついなちゃん 

役ついなこと、ついなちゃん(本名:如月ついな)は、現代に生きる鬼退治師「方相氏」(ほうそうし)の末裔の女の子。

「方相氏」とは、古代節分の儀式「追儺式」(ついなしき)に登場する、鬼を退治する鬼神。ついなちゃんは方相氏の証である黄金四つ目のお面を被り、矛と盾を手に、お供の前鬼・後鬼を引き連れて、日夜わるい妖怪退治に奔走しています☆

どんなに挫けそうになっても負けじと頑張る、14歳の女の子ついなちゃんをぜひ応援してあげてね!

前鬼(ぜんき)・後鬼(ごき)

今から1300年前、修験道の開祖・役小角(えんのおづぬ)に仕えたという夫婦の鬼赤い方が前鬼で旦那青い方が後鬼で奥さん)。

ついなちゃんのお伴の鬼で、初代前鬼・後鬼の魂がぬいぐるみに取り憑いたもの。

日々ついなちゃんにセクハラをしつつ、何かとサポートしています。

修験道大本山・吉祥草寺公認の前鬼・後鬼です♫

ディクソン

ついなちゃんが被っているお面(方相面)。黄金四つ目で正当なる方相氏の証。

昔は、ついなちゃんのおじーちゃん(先代の方相氏)が被っていました。

ついなちゃんの守り神的な存在で、ついなちゃんが方相氏の技を使う際、いつも霊力的に補佐しています。無口だけど、気のいいナイスガイ!

滝夜叉姫

千年の眠りから甦った鬼姫。かつて朝廷に反逆し討伐された平将門の第三女であり、自らも名にし負う大怨霊。七十年ほど前、将門復活に合わせ、自らも復活しようとしたところを、ついなちゃんの祖父・如月宝庵により京都・丑寅の某所に封印されましたが、現代に至り、ついなちゃんによって解放されてしまいます。

ついなちゃんの霊力の大半と「声」を奪い、「妖魔の内裏」建造を目論む、『滝夜叉姫と妖魔の内裏』編の強力な大ボス……なのですが、実はファザコンおバカ幼女でもあったり。

ハンザキ

滝夜叉姫配下オオサンショウウオの妖怪。ぬめぬめした巨大な体躯と伸びる舌が武器。

身体を半分に裂かれても生きているという強靭な生命力が名前の由来。

意外と苦労人という噂も……!?

イラスト&キャラクター原案・紅音屋本舗様。

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