第48話 『死と乙女』③
文字数 1,543文字
重そうな鉄製の観音扉が勢いよく開き、中から現れたのは正語 の父親だった。
正思 は身長は187センチと正語と変わらないが、体重は倍以上ある。巨漢だ。
勝手に車を使ったと正語に文句を言った後、正思 はスッと黙った。
「……何しに、来たんだよ」と正語。饒舌な父親が黙ると不気味だ。
「正語くん、ラッコ鍋食べた?」と正思 は疑わしそうな顔をする。
「なんだ、それ」
「君、どこかでエロいことしたでしょ! 僕そういうの、すぐわかるんだよ!」
正思 は突然、怒り出した。
めんどくさい男だなと、正語はうんざりした。
本気で放っておいて欲しい。
「事件の捜査もしないで、何やってんだよ!」
正思 は悔しそうに頭をかきむしる。
「君みたいにチートなスペックの男は、ノンケの高校生に片思いでもしとけばいいのに、どうしてたまたま訪れた田舎町で、おいしいコトができちゃうわけ? 僕はここに何度も来てるけど、色っぽい思い出なんかまだ一つもないよ!」
夫婦で来てたんだから当たり前だろと言いたいが、正語は黙った。
一つ言ったら何十倍も返してくる父親だった。
「相手は男か女か知らないけどさ、気をつけなよ! 刑事と関係した者はたいてい殺されるか、真犯人だからね——」
その時、遠くの方で悲鳴が上がった。
正思 はさっと、声のした方に顔を向ける。
「正語くん、事件だ! 行くよ!」
正思 は家の中に入った。
正語も続く。
ものすごい勢いで走る父親の後を追う。
「うおおおおおっ!」
雄叫びを上げながら廊下を走っていた正思 は、ガラス扉の前で止まった。
「この向こうから聞こえた!」
ガラス扉には鍵がかかっている。
正思 は扉に体当たりをした。
「おりゃあああっ!」
ガラス扉を破壊した。
(おいおい、人の家だぞ……)
扉の向こうは中庭だった。
プールがあり、外灯の灯りで水面がきらめいている。
だが人の姿は見えなかった。
「どうかしましたかああーっ!」
正思 が大声で呼ばわると、「九我 さん、テニスコートにいます! 来てください!」と男の声がした。
「智和さん! 今、行きます!」
正思 はまた雄叫びを上げて走った。
やれやれと、正語も続く。

前を走る正思 は、低い垣根を身軽に飛び越えた。
「おりゃあっ!」
正語は垣根のすぐ横に造られた小道を抜けた。
(こっち通ればいいのに、なんでわざわざ飛びたがるんだ……)
テニスコートに着いて、正語がまず目にしたのは、座り込んでいる女とその肩を抱いている智和だった。
「……向こうに、冴島 町長が倒れてます……背中から、すごい血が出てるんです……」
智和に言われるまでもない。
コートのセンターマーク辺りに、人がうつ伏せに倒れているのが見えた。
二人の親子は急いで駆け寄った。
「救急車、呼んでください!」走りながら正語が智和に向かって叫んだ。
「ダメです! 僕は野々花さんの側についてあげないと!」と智和は、自分にしなだれかかる女の肩を強く抱いた。
「だめだ、こんなド田舎、救急車なんかいつくるかわからない。僕の車で行こう」と、正思 はテニスコートに張ってあるネットを力任せに引き剥がした。
「これを担架がわりに使って!」と正語にネットを渡すと「車、とってくる」と正思 はまた走った。
「親父! 鍵!」
正語は父親に車の鍵を投げた。
ムダに華麗なジャンピングキャッチで鍵を受け取ると、正思 は雄叫びをあげて走り去った。
正語は倒れている男を調べた。
シャツの背中が血で濡れている。
——何かで刺されたのか……。
現場の保全をしなければと考えていたら、男が呻いた。
「……あのこだ……あのこがやった……」
「誰です? 誰にやられたんですか?」
「……親切にしてやったのに……仇で返された……」
——正語が冴島から聞き出せたのは、そこまでだった。
勝手に車を使ったと正語に文句を言った後、
「……何しに、来たんだよ」と正語。饒舌な父親が黙ると不気味だ。
「正語くん、ラッコ鍋食べた?」と
「なんだ、それ」
「君、どこかでエロいことしたでしょ! 僕そういうの、すぐわかるんだよ!」
めんどくさい男だなと、正語はうんざりした。
本気で放っておいて欲しい。
「事件の捜査もしないで、何やってんだよ!」
「君みたいにチートなスペックの男は、ノンケの高校生に片思いでもしとけばいいのに、どうしてたまたま訪れた田舎町で、おいしいコトができちゃうわけ? 僕はここに何度も来てるけど、色っぽい思い出なんかまだ一つもないよ!」
夫婦で来てたんだから当たり前だろと言いたいが、正語は黙った。
一つ言ったら何十倍も返してくる父親だった。
「相手は男か女か知らないけどさ、気をつけなよ! 刑事と関係した者はたいてい殺されるか、真犯人だからね——」
その時、遠くの方で悲鳴が上がった。
「正語くん、事件だ! 行くよ!」
正語も続く。
ものすごい勢いで走る父親の後を追う。
「うおおおおおっ!」
雄叫びを上げながら廊下を走っていた
「この向こうから聞こえた!」
ガラス扉には鍵がかかっている。
「おりゃあああっ!」
ガラス扉を破壊した。
(おいおい、人の家だぞ……)
扉の向こうは中庭だった。
プールがあり、外灯の灯りで水面がきらめいている。
だが人の姿は見えなかった。
「どうかしましたかああーっ!」
「智和さん! 今、行きます!」
やれやれと、正語も続く。

前を走る
「おりゃあっ!」
正語は垣根のすぐ横に造られた小道を抜けた。
(こっち通ればいいのに、なんでわざわざ飛びたがるんだ……)
テニスコートに着いて、正語がまず目にしたのは、座り込んでいる女とその肩を抱いている智和だった。
「……向こうに、
智和に言われるまでもない。
コートのセンターマーク辺りに、人がうつ伏せに倒れているのが見えた。
二人の親子は急いで駆け寄った。
「救急車、呼んでください!」走りながら正語が智和に向かって叫んだ。
「ダメです! 僕は野々花さんの側についてあげないと!」と智和は、自分にしなだれかかる女の肩を強く抱いた。
「だめだ、こんなド田舎、救急車なんかいつくるかわからない。僕の車で行こう」と、
「これを担架がわりに使って!」と正語にネットを渡すと「車、とってくる」と
「親父! 鍵!」
正語は父親に車の鍵を投げた。
ムダに華麗なジャンピングキャッチで鍵を受け取ると、
正語は倒れている男を調べた。
シャツの背中が血で濡れている。
——何かで刺されたのか……。
現場の保全をしなければと考えていたら、男が呻いた。
「……あのこだ……あのこがやった……」
「誰です? 誰にやられたんですか?」
「……親切にしてやったのに……仇で返された……」
——正語が冴島から聞き出せたのは、そこまでだった。