第18話 町を歩く仲間たち

エピソード文字数 1,204文字

 その頃、長屋の仲間たちは、町の中を歩いていた。すでに文明開化の波は、ここにも押し寄せていた。町には街灯もあったし、馬車も走っていた。同時に、足袋で走る郵便屋もいた。巡査がじろじろ、こっちを眺めている。へたに絡むとややこしくなるので、一同は素知らぬ顔を決め込んだ。
「あやかしがいるとしたら、人混みのなかではないだろう」
 小鳥遊は、ほとんど口を動かしていない。どうやって話しているのか、八っつあんはふしぎでならなかった。

「物陰や建物の影、飲み屋街。いかがわしいところなら脈がある」
「飲み屋なら、知り合いはたくさんいますぜ。おやじたちに聞いてみやしょうか」
「なるほど、あやかしを見ましたか、とでも聞くのかね?」

 八っつあんは、穴があったら入りたくなった。ご隠居が、ポンポン肩をたたいている。
「もめごとは避けたい。チンピラの出入りするような荒れたところは入らないことにしよう」
 小鳥遊は、先に立って歩き始める。八っつあんも、あとをついていく。
「やっぱりアレですか、刀が竹光だから……」
 八っつあんが言うと、小鳥遊は淡々と、

「剣の道とは、抜かないでものごとをおさめることだ。ほんとうの武士とは、争わない人間のことなのだよ」
「へー」
 肝心なときには、役に立たないんだな、と八っつあんはこっそり思った。さっきも包丁を持ったご隠居から吹っ飛ばされていたっけ。武士の気骨がどうだか知らねーが、刀をぬかねえで争いが収まるものか。

 内心の反発も見せず、八っつあんは角を曲がって駄菓子屋に出た。すでに木戸が閉まっている。子どもたちの姿も見えなかった。
「腹へったなぁ」
 八っつあんがこぼすと、
「そば屋の屋台がありますぞ。食べますか?」
 ご隠居まで、食欲の塊である。
「腹が減っては戦はできぬ。軽く食べやしょうや、お武家さま」
「そうだな」

 ということで、みなが屋台に群がった。そばはすぐできあがり、一同が食べていると、最新式のガス燈――街灯がチラチラまたたいた。そばで子猫二匹が、ガス燈にじゃれついている。八っつあんの胸に抱いている子猫が躍り上がった。じゃれている猫に合流する。するとガス燈のチラチラが、いっそう激しくなった。

「ふーむ、あれはどうやら、なにかの合図のように見える」
 小鳥遊は、屋台から離れてシゲシゲと見つめた。
「合図? どういうこと?」
「わたしの父の友が忍者でな。その間で通じる合図を教えてくれたことがある。それは、狼煙を使うのだが、その合図にこの信号は似ておる」
「――ふーん。で、なんて言ってるんで?」

「わたしは忍者ではない、わたしには読めない」
「お武家さま、使えねえ」
 八っつあんは、憮然としてつぶやいた。

 子猫の合図が終わるのを待って、一行は先に進んだ。子猫あやかしたちは、いまは八っつあんと小鳥遊の手の中におさまっている。大切な仲間だ。
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