第五章七話 大きな手と大切な言葉
文字数 4,284文字
リサは少し思考と感情を整理したくて、恵美さんとタカシから離れて、一人寝室に向かった。
ここでマコが攫 われた。すぐ横で寝ていたのに、あたしは気づきもしなかった。どうすることもできなかった。
ナミさんはあたしに力があるって言っていた。お婆ちゃんはあたしに能力があるかもしれないって言っていた。どんな力?どんな能力?あたしのことなのに、あたしは何も知らない、なぜ?あたしがちゃんと考えていないから?あたしがぼおっと生きているから?でも、できることはしてきたはず。勉強だってちゃんとしてるし、大人から言われたことは漏れなくしてる。常識から外れるようなことは今まで一度もしてないし、ひとから妬まれ恨まれないように、目立たないように気をつけてきた。例え寂しくても我慢してきた。それなのに……。
何がいけないの、何が間違っていたの、答えは何なの……。
ヒザを折って、その場に座りこんだ。風が部屋の中を通り過ぎていく音、虫の声。穏やかな音がリサの身体を包んでいた。しばらく彼女は目を閉じた。再び目を開いた時、彼女の瞳に一冊の図鑑が映っていた。無造作に畳の上に置かれている。
ちょうど東の空に朝陽が顔をのぞかせた。窓から入り込む陽光がその表紙をきらめかせた。たくさんの鳥の絵がその光の中で踊るように輝いていた。
この図鑑を初めて見たのもこの部屋だった。その時も夏休みだった。伯母さんが持ってきた。ショウタ兄ちゃんに見せるために。でも、ショウタ兄ちゃんは特に興味をそそられなかったようで、放置されていた。あたしはきらびやかな表紙に興味を掻き立てられ、誰もいない時を見計らって、その図鑑をそっと開いた。
とても分厚い図鑑だった。色とりどりの鳥たちの写真や絵が数えきれないくらい載っていた。クジャクやフウチョウみたいな羽色のきれいな鳥たちに目を奪われた。それまで生き物に対して特に興味を持ったことがなかった。だから自分でもとても意外に思うほど、その図鑑にのめり込んだ。時間を忘れて読みふけった。
覚えきれない鳥たちの中、特に興味を惹かれた二羽の鳥。それは特段目立たない二羽の鳥。
イカルとツグミ。
イカル?怒る?いつも怒って黄色いくちばしから愚痴を漏らしてそう、そう思うと何だかとても面白い鳥に思えた。図鑑の説明では群れをつくる、とのことだった。みんな怒っているのに仲良く暮らせるんだ、と思うとおかしかった。
ツグミ、口を噤 んで鳴かない鳥、だからツグミ。あたしも意識して口をツグんできた。何かすごく親近感を抱いた。もし、あたしが生まれ変わって鳥になったら、きっとツグミになるんだろうな、と思った。
「リサちゃん、その本好きなの?じゃ、あげるわ。本当はショウタに買ってあげたんだけど、あの子、全然興味ないみたいだから。虫は好きなのにね。鳥の方が見た目も鳴き声もきれいだし、面白いと思うんだけどね」
ある日、図鑑を盗み見ているところを見つかって伯母さんに、そう言われた。本当に?お母さんはこんな高そうな本はきっと買ってくれない。この家を離れる時に、この図鑑ともお別れすることになると思っていた。だから正直、嬉しかった。でも本当に貰っていいの?
次の日、伯母さんとショウタ兄ちゃんは帰っていった。あたしのもとに図鑑を残して。
なぜ、ここにこの図鑑があるんだろう?家に持って帰ったはずなのに。あんなに好きだった図鑑。好きだったけど、いつしか読まなくなった図鑑。今はどこにあるのかも分からなくなった図鑑。あたしの記憶に残っている図鑑。
分からない。図鑑だけじゃない。伯母さんやショウタ兄ちゃんはどこにいるの?もうずっと会ってない気がする。昨日、帰った?それまで一緒にいたの?……とても大切なことを忘れている気がする。
リサは心許 ない記憶を自覚した。あたしはたくさんのことを忘れている。自分が一気に空虚になった気がした。そう思うととたんに怖気 が身体中に流れ込んできた。あたしはいったいどうなってしまうの?思考が混乱した。あたしはすべてを忘れてしまうの?自分がなくなってしまうの?泣き出してしまいたいほどの不安、恐怖、寂寥感。どうすればいいの?
リサ……
タカシはリサのことが心配でそっと様子を見にきていた。そこには小さな身体にたくさんの思いを抱え込んでいる少女の姿。どうにかしてあげたい。その苦しみの一端でも自分が担えるのならそうしたい、その思いがあふれて、思わず声を掛けていた。
リサの身体がビクリと波打った。その拍子に頬 を一筋流れ落ちていくものがあった。
「君は何でも自分で抱え込もうとする。自分さえ我慢すればいいと思っている。どれだけつらくても。それは小さい時から変わらないんだね。俺は君のことをすべて受け入れるつもりだ。でも、その何でも自分だけで抱え込もうとするところは治してほしいかな。何でも思っていることを言ってほしい」
そんなことを言われても、とリサは思った。彼女にとって自分の思いは自分の心の中だけのもの。外に放出して他人と共有するものではなかった。だから外に出すための言葉が思い当たらない。時にはもどかしさを感じないでもなかったが、結局は、他の人を巻き込んで物事が大きくなってしまうことを嫌って思いを自分の中にしまい込むばかり。
「俺に対して気を使う必要はないよ。俺がどう思うか、どうするかなんて考えなくていい。君が何を言おうが、何をしようが、俺はいつでも君の味方だ。だから、君の胸の中にある思いをそのまま声にすればいい。君の思いを君の声でそのまま言えばいい」タカシは柔らかく微笑んでいた。「君が本当はすごくおしゃべりだってことを知ってる。声に出さなくても心の中でいつもたくさん話してる。ただ、それを声にすればいい。それだけだよ」
あたしの思い?何を言えばいいの?そんなこと考える余裕がない。今、あたしはとても苦しい。自分がなくなってしまいそうで、恐い、苦しい、つらい……あれ、これがあたしの思い?
「こ、こわ……い」
リサはうつむいたまま口を開いた。タカシは黙って聴いていた。
「大切なものがなくなってる。覚えてない。自分が消えてしまう。怖い。どうすればいいの?」
リサは自分の中に渦巻く感情に抗いたくて声を出した。タカシはただ黙って聴いていた。
「あたしに何ができるの?あたしができることがあるの?マコはどうしたら助けられるの?」
恥ずかしい、何を言っているんだろう、あたし。タカシはまだ黙って聴いていた。
「分からない。イヤになる。何であたしはいつもこうなんだろう。どうしたらいいのか、その答えを見つけることができない。いつも、いつも悩んでばかり」
リサは独り言のようにぼそぼそとしゃべり続けた。とても不思議な感覚だった。この人の声を聞いたら自然と話したくなってきた。とても安心してしゃべれる。心を拘束していたいろんな気持ちがごく簡単に解れて消えていく。タカシはやっぱり黙って聴いていた。
「あたしは、あたしは、どうしたらいいの?自分のことなのに自分で分からない」
リサはひとしきりしゃべり終えると一息長く吐いた。自分の胸の内で溜まっていた澱 のようなものを外に出して少し身体が軽くなったような気がした。タカシがやっと口を開いた。
「君はどうしたい?君がしたいと思うことを教えてくれないか」
少しの間が空いた。リサは自分に問い掛けていた。とてもぼんやりとした思い。それを言葉にすることが難しく感じられた。でも、試してみたい。自分の思いを人に話してみたい。
「あたしは、マコを、助けにいきたい。何もできずに、ただ、時が経つのを、待つのは、いや」
ゆっくりタカシを見た。そこにはとても穏やかな微笑みがあった。微かに頷いていた。
「じゃ、行こう。マコちゃんを助けに行こう」
リサは自分の方へ差し出された手に視線を移した。どこかに連れていってくれそうな手。大きくて傷だらけの手。その差し出した右手首は白かった。ほんのり光っているようにも見える。リサはその白い部分に指先で触れた。その光が、大丈夫、その手を掴みなさい、と言っているような気がした。きっと大丈夫、そう思う。だからその手をタカシの手に重ねた。どこか懐かしいあたたかさが感じられた。
玄関の土間で恵美さんと別れた。
恵美さんは昨晩の残りのお米で手ずから握った塩むすびとお茶の入った水筒を持たせてくれた。
「マコが見つかるように、そしてあなたの捜しているものが見つかるように祈ってる」恵美さんはリサの頬に優しく触れながら声を掛けた。
「うん、ありがとう、お婆ちゃん」リサが微笑みながら答えた。
「リサ、一つだけ言葉を覚えて。これは我が家の女たちがまだ依 り代 だった頃の唱え言葉。神様をお招きする言葉。自分に神様を降ろすための言葉」
恵美さんが屈み込んで真正面からリサと視線を重ねた。これはとても大切な話だと察してリサは全身を緊張させた。
「あ・も・り・ま・せ」恵美さんはゆっくりと一語ずつ発音した。
「あもりませ?」リサが復唱した。
「そう、あもりませ。天降 って来てください、って意味。これを神様のお名前に続けて唱えるの。でもただ唱えるだけじゃない。気持ちを込めてね。最大限に集中して唱えるの。そうすれば、神様に声が届くの。どんなに離れていても、どんな場所にいても」恵美さんはまだジッとリサの瞳を見つめていた。そしてリサの目に、自分の言葉が呑み込めた色が表れるとニコリと笑った。
「あなたは賢い子。きっと大丈夫。自分を信じて」
「うん」リサは軽く頷いた。
「じゃ、凪瀬 さん、リサのこと、よろしくお願いします」恵美さんは急に立ち上がると今度はタカシに向かって深々と頭を下げた。
「分かりました。きっとリサさんを助け、マコさんを見つけ出してきます」
二人は連れ立って旅立った。
その背中を見つめながら恵美さんの胸裏は締めつけられるような思いで満たされていた。自分が行く、その選択肢はない。自分では役に立たない。足手まといになるだけ。そのことを痛いほど感じていた。依り代になるためには若い身体が必要だった。まだ男を知らない幼い身体が。マコとこの世界を救えるのはリサだけ。自分の中に流れる血がそう言っている。私がついて行けば、きっとリサが苦痛を味わう姿に耐えられない。きっと自分が代わりになろうとする。でも自分では役に相応 しくない。私が行っても邪魔になるだけ。
朝靄 の立ち込める中、二人は砂利道をしっかり踏みしめながら歩いてく。その姿が見えなくなるまで、恵美さんはジッと見送っていた。
ここでマコが
ナミさんはあたしに力があるって言っていた。お婆ちゃんはあたしに能力があるかもしれないって言っていた。どんな力?どんな能力?あたしのことなのに、あたしは何も知らない、なぜ?あたしがちゃんと考えていないから?あたしがぼおっと生きているから?でも、できることはしてきたはず。勉強だってちゃんとしてるし、大人から言われたことは漏れなくしてる。常識から外れるようなことは今まで一度もしてないし、ひとから妬まれ恨まれないように、目立たないように気をつけてきた。例え寂しくても我慢してきた。それなのに……。
何がいけないの、何が間違っていたの、答えは何なの……。
ヒザを折って、その場に座りこんだ。風が部屋の中を通り過ぎていく音、虫の声。穏やかな音がリサの身体を包んでいた。しばらく彼女は目を閉じた。再び目を開いた時、彼女の瞳に一冊の図鑑が映っていた。無造作に畳の上に置かれている。
ちょうど東の空に朝陽が顔をのぞかせた。窓から入り込む陽光がその表紙をきらめかせた。たくさんの鳥の絵がその光の中で踊るように輝いていた。
この図鑑を初めて見たのもこの部屋だった。その時も夏休みだった。伯母さんが持ってきた。ショウタ兄ちゃんに見せるために。でも、ショウタ兄ちゃんは特に興味をそそられなかったようで、放置されていた。あたしはきらびやかな表紙に興味を掻き立てられ、誰もいない時を見計らって、その図鑑をそっと開いた。
とても分厚い図鑑だった。色とりどりの鳥たちの写真や絵が数えきれないくらい載っていた。クジャクやフウチョウみたいな羽色のきれいな鳥たちに目を奪われた。それまで生き物に対して特に興味を持ったことがなかった。だから自分でもとても意外に思うほど、その図鑑にのめり込んだ。時間を忘れて読みふけった。
覚えきれない鳥たちの中、特に興味を惹かれた二羽の鳥。それは特段目立たない二羽の鳥。
イカルとツグミ。
イカル?怒る?いつも怒って黄色いくちばしから愚痴を漏らしてそう、そう思うと何だかとても面白い鳥に思えた。図鑑の説明では群れをつくる、とのことだった。みんな怒っているのに仲良く暮らせるんだ、と思うとおかしかった。
ツグミ、口を
「リサちゃん、その本好きなの?じゃ、あげるわ。本当はショウタに買ってあげたんだけど、あの子、全然興味ないみたいだから。虫は好きなのにね。鳥の方が見た目も鳴き声もきれいだし、面白いと思うんだけどね」
ある日、図鑑を盗み見ているところを見つかって伯母さんに、そう言われた。本当に?お母さんはこんな高そうな本はきっと買ってくれない。この家を離れる時に、この図鑑ともお別れすることになると思っていた。だから正直、嬉しかった。でも本当に貰っていいの?
次の日、伯母さんとショウタ兄ちゃんは帰っていった。あたしのもとに図鑑を残して。
なぜ、ここにこの図鑑があるんだろう?家に持って帰ったはずなのに。あんなに好きだった図鑑。好きだったけど、いつしか読まなくなった図鑑。今はどこにあるのかも分からなくなった図鑑。あたしの記憶に残っている図鑑。
分からない。図鑑だけじゃない。伯母さんやショウタ兄ちゃんはどこにいるの?もうずっと会ってない気がする。昨日、帰った?それまで一緒にいたの?……とても大切なことを忘れている気がする。
リサは
リサ……
タカシはリサのことが心配でそっと様子を見にきていた。そこには小さな身体にたくさんの思いを抱え込んでいる少女の姿。どうにかしてあげたい。その苦しみの一端でも自分が担えるのならそうしたい、その思いがあふれて、思わず声を掛けていた。
リサの身体がビクリと波打った。その拍子に
「君は何でも自分で抱え込もうとする。自分さえ我慢すればいいと思っている。どれだけつらくても。それは小さい時から変わらないんだね。俺は君のことをすべて受け入れるつもりだ。でも、その何でも自分だけで抱え込もうとするところは治してほしいかな。何でも思っていることを言ってほしい」
そんなことを言われても、とリサは思った。彼女にとって自分の思いは自分の心の中だけのもの。外に放出して他人と共有するものではなかった。だから外に出すための言葉が思い当たらない。時にはもどかしさを感じないでもなかったが、結局は、他の人を巻き込んで物事が大きくなってしまうことを嫌って思いを自分の中にしまい込むばかり。
「俺に対して気を使う必要はないよ。俺がどう思うか、どうするかなんて考えなくていい。君が何を言おうが、何をしようが、俺はいつでも君の味方だ。だから、君の胸の中にある思いをそのまま声にすればいい。君の思いを君の声でそのまま言えばいい」タカシは柔らかく微笑んでいた。「君が本当はすごくおしゃべりだってことを知ってる。声に出さなくても心の中でいつもたくさん話してる。ただ、それを声にすればいい。それだけだよ」
あたしの思い?何を言えばいいの?そんなこと考える余裕がない。今、あたしはとても苦しい。自分がなくなってしまいそうで、恐い、苦しい、つらい……あれ、これがあたしの思い?
「こ、こわ……い」
リサはうつむいたまま口を開いた。タカシは黙って聴いていた。
「大切なものがなくなってる。覚えてない。自分が消えてしまう。怖い。どうすればいいの?」
リサは自分の中に渦巻く感情に抗いたくて声を出した。タカシはただ黙って聴いていた。
「あたしに何ができるの?あたしができることがあるの?マコはどうしたら助けられるの?」
恥ずかしい、何を言っているんだろう、あたし。タカシはまだ黙って聴いていた。
「分からない。イヤになる。何であたしはいつもこうなんだろう。どうしたらいいのか、その答えを見つけることができない。いつも、いつも悩んでばかり」
リサは独り言のようにぼそぼそとしゃべり続けた。とても不思議な感覚だった。この人の声を聞いたら自然と話したくなってきた。とても安心してしゃべれる。心を拘束していたいろんな気持ちがごく簡単に解れて消えていく。タカシはやっぱり黙って聴いていた。
「あたしは、あたしは、どうしたらいいの?自分のことなのに自分で分からない」
リサはひとしきりしゃべり終えると一息長く吐いた。自分の胸の内で溜まっていた
「君はどうしたい?君がしたいと思うことを教えてくれないか」
少しの間が空いた。リサは自分に問い掛けていた。とてもぼんやりとした思い。それを言葉にすることが難しく感じられた。でも、試してみたい。自分の思いを人に話してみたい。
「あたしは、マコを、助けにいきたい。何もできずに、ただ、時が経つのを、待つのは、いや」
ゆっくりタカシを見た。そこにはとても穏やかな微笑みがあった。微かに頷いていた。
「じゃ、行こう。マコちゃんを助けに行こう」
リサは自分の方へ差し出された手に視線を移した。どこかに連れていってくれそうな手。大きくて傷だらけの手。その差し出した右手首は白かった。ほんのり光っているようにも見える。リサはその白い部分に指先で触れた。その光が、大丈夫、その手を掴みなさい、と言っているような気がした。きっと大丈夫、そう思う。だからその手をタカシの手に重ねた。どこか懐かしいあたたかさが感じられた。
玄関の土間で恵美さんと別れた。
恵美さんは昨晩の残りのお米で手ずから握った塩むすびとお茶の入った水筒を持たせてくれた。
「マコが見つかるように、そしてあなたの捜しているものが見つかるように祈ってる」恵美さんはリサの頬に優しく触れながら声を掛けた。
「うん、ありがとう、お婆ちゃん」リサが微笑みながら答えた。
「リサ、一つだけ言葉を覚えて。これは我が家の女たちがまだ
恵美さんが屈み込んで真正面からリサと視線を重ねた。これはとても大切な話だと察してリサは全身を緊張させた。
「あ・も・り・ま・せ」恵美さんはゆっくりと一語ずつ発音した。
「あもりませ?」リサが復唱した。
「そう、あもりませ。
「あなたは賢い子。きっと大丈夫。自分を信じて」
「うん」リサは軽く頷いた。
「じゃ、
「分かりました。きっとリサさんを助け、マコさんを見つけ出してきます」
二人は連れ立って旅立った。
その背中を見つめながら恵美さんの胸裏は締めつけられるような思いで満たされていた。自分が行く、その選択肢はない。自分では役に立たない。足手まといになるだけ。そのことを痛いほど感じていた。依り代になるためには若い身体が必要だった。まだ男を知らない幼い身体が。マコとこの世界を救えるのはリサだけ。自分の中に流れる血がそう言っている。私がついて行けば、きっとリサが苦痛を味わう姿に耐えられない。きっと自分が代わりになろうとする。でも自分では役に