第10話 タクシー移動中に話をする②
文字数 1,208文字
エントランスを出ると、松本タクシーは待ってくれていた。
「8分くらいでしたかね。お待たせしました。影沼交差点から2つ先の、山道に入る横道のところで、右折して下さい」
「分かりました」
大津はほんの少し目を瞑って考え事をしていた後、スマホで地図をスクロールさせながら、ジーッと見ていた。
「ここ、曲がりますね」
声を掛けられて顔を上げ、「お願いします」と言った後、「あー、あそこの茂みに、アルグランド置いてありますね。多分何も物証は出ないでしょう、このまま行ってもらいましょう」と俺に向かって言った。
くねくねした山道を、登り始める。
「そう言えばさっき、説明の続きは後でします、と言いましたね。何から話しましょうか? 先輩から聞きたいことは、ありますか?」
「いや、お前が何話したか、もう良く覚えてない…」
「そうですね、僕も良くは覚えてないです。後で説明しようとしたことは2つ覚えていて、刑事比定というのは刑事じゃないけど、とりま刑事の身分で取り扱ってやるよと言う意味で、警視庁全体でも、まだ数人しかいない、新しい区分です」
「はあ」
「G事案というのはゲリラと言う意味で、モダンな言葉だとテロ。ただこれに指定されると、地域の警察は天地がひっくり返ったような大騒ぎになって、24時間勤務して1勤2休の警察官のほぼ総てに動員が掛けられたり、警察組織が国家の安全を守り抜くために全力で徹底的に対処しますみたいな超大掛かりな戒厳体制になりますから、今のところは指定回避を、お願いしました」
「はあ」
「あとは…特にないですけど、警視庁と神奈川県警はあんまり仲がよろしくない、ということだけ、一応ご説明しておきます」
「はあ」
何がなんだか、良く分からない。俺も緊張で相当疲れてきたが、大津も考えることがあって、俺なんかと話してられないという感じが、微妙に漂ってきていた。だがそのとき、
「ねえオニ…」
「…おいお前! 今、俺が禁句にした、お義兄さんと言いかけたろ! しかもそれを、わざとオニというところで、止めただろ!」
「すみません、そんなつもりじゃ。汗」
「なんだよその汗っての。しょもな! …だけど赤城総長って、ほんとパンチ効いてたなぁ。鬼みたいな、凄げえ顔してた」
「そうですね」
「あと俺、今気づいたんだけど…。お前、大津だろ? オーにツー、つまりオーに2。俺じゃなくて、お前がオニじゃねーか! この野郎!」
「お気づきになられましたか?」
「なんだよ、それ。なめとんのか?」
「いえそんな。…それにしても、赤城さんは顔がオニ、僕は苗字がオニ、先輩はお義兄さんでオニ、3人ともオニなんて、なかなか面白いですね」
「もうええって! もうええって!」
「でもほんと言うと、大津と言う苗字の一族は、鬼の末裔なんです」
「嘘つけえ、ボケェ!」
と言いながら(えっ、そうなの? 怖いんですけど)と俺は内心、ちょっとビックリしながら、ビビッていた。本当なんだろうか?
「8分くらいでしたかね。お待たせしました。影沼交差点から2つ先の、山道に入る横道のところで、右折して下さい」
「分かりました」
大津はほんの少し目を瞑って考え事をしていた後、スマホで地図をスクロールさせながら、ジーッと見ていた。
「ここ、曲がりますね」
声を掛けられて顔を上げ、「お願いします」と言った後、「あー、あそこの茂みに、アルグランド置いてありますね。多分何も物証は出ないでしょう、このまま行ってもらいましょう」と俺に向かって言った。
くねくねした山道を、登り始める。
「そう言えばさっき、説明の続きは後でします、と言いましたね。何から話しましょうか? 先輩から聞きたいことは、ありますか?」
「いや、お前が何話したか、もう良く覚えてない…」
「そうですね、僕も良くは覚えてないです。後で説明しようとしたことは2つ覚えていて、刑事比定というのは刑事じゃないけど、とりま刑事の身分で取り扱ってやるよと言う意味で、警視庁全体でも、まだ数人しかいない、新しい区分です」
「はあ」
「G事案というのはゲリラと言う意味で、モダンな言葉だとテロ。ただこれに指定されると、地域の警察は天地がひっくり返ったような大騒ぎになって、24時間勤務して1勤2休の警察官のほぼ総てに動員が掛けられたり、警察組織が国家の安全を守り抜くために全力で徹底的に対処しますみたいな超大掛かりな戒厳体制になりますから、今のところは指定回避を、お願いしました」
「はあ」
「あとは…特にないですけど、警視庁と神奈川県警はあんまり仲がよろしくない、ということだけ、一応ご説明しておきます」
「はあ」
何がなんだか、良く分からない。俺も緊張で相当疲れてきたが、大津も考えることがあって、俺なんかと話してられないという感じが、微妙に漂ってきていた。だがそのとき、
「ねえオニ…」
「…おいお前! 今、俺が禁句にした、お義兄さんと言いかけたろ! しかもそれを、わざとオニというところで、止めただろ!」
「すみません、そんなつもりじゃ。汗」
「なんだよその汗っての。しょもな! …だけど赤城総長って、ほんとパンチ効いてたなぁ。鬼みたいな、凄げえ顔してた」
「そうですね」
「あと俺、今気づいたんだけど…。お前、大津だろ? オーにツー、つまりオーに2。俺じゃなくて、お前がオニじゃねーか! この野郎!」
「お気づきになられましたか?」
「なんだよ、それ。なめとんのか?」
「いえそんな。…それにしても、赤城さんは顔がオニ、僕は苗字がオニ、先輩はお義兄さんでオニ、3人ともオニなんて、なかなか面白いですね」
「もうええって! もうええって!」
「でもほんと言うと、大津と言う苗字の一族は、鬼の末裔なんです」
「嘘つけえ、ボケェ!」
と言いながら(えっ、そうなの? 怖いんですけど)と俺は内心、ちょっとビックリしながら、ビビッていた。本当なんだろうか?