第5話 骨太ってなんだろう?

文字数 2,512文字

 講談社さんが何を『骨太小説』の基準にしたのかは、コンテストの結果を見れば火を見るよりも明らかだ。
 しかし、「骨太」という言葉の印象や定義は、人によってずいぶん開きがあると思う。

 世の本好きの人々に比べて、私は圧倒的に読書数が少ない。そのうえ小説などの文学はせいぜい2〜3割くらいで、あとは、科学、技術(主に自動車)、スポーツ(主にモータースポーツ)、芸術、文化、宗教、思想、歴史、社会……と、自動車関係を除けば、松岡正剛の『千夜千冊』を大幅にスケールダウンした『三夜三冊』みたいな感じだ。(笑)
 さらに、還暦を過ぎてから「これからはインプットよりアウトプットだ」とばかりに読書量が大幅に減った。
 そんな私が、鬼籍に入られた大先生方の作品を云々するのは口幅ったいが、異論反論の嵐になることを承知の上で、自分の「骨太感」を述べてみたい。極めて感覚的なイメージなので、賛同してくれる人もいるかもしれないが、怒りを覚える人もいると思う。「全然わかってないなぁ」と腹が立っても、どうか怒りの炎を鎮めて、批判は心の中に留めて置いていただけるとありがたい。

 例えばアーサー・C・クラークはSFというジャンルを超えて当に骨太と思えるが、レイ・ブラッドベリを骨太とは感じない。これは賛同してくれる人も多いだろう。
 藤沢周平は確かに骨太だと思う一方で、私は司馬遼太郎を骨太と感じたことがあまりない。なんと説明したらいいのだろう? 藤沢周平が描く侍が持つ日本刀には、刀鍛冶が灼熱の作業場で叩き鍛えあげた「鉄の重さ」を感じるが、司馬遼太郎が描く侍の日本刀は凄くスマートでそこに重量感をあまり感じない……と言ったらファンは怒るだろうか?
 まぁその辺に留めておこう。SNSじゃないので炎上することはないと思うが。

 少なくとも、私の辞書には骨太なラノベや骨太なファンタジーというのはなかった。ドラゴンの鱗の重さや硬さ、吐く息の匂いまで感じさせる小説があったら、さすがに「骨太なファンタジーだ」と思うかも知れないが……。
 あ! 『ゲド戦記』は骨太かな?

 そんな訳で、ちょっと軽めのSFラブストーリー『Ai needs You』に【骨太小説】のタグを付けることには少し抵抗があった。
 ただ、応募規定や応募方法に、10,000文字までで審査すると書かれていたように記憶している。10,000文字で評価されるということは、長編は厳しいだろうな……と思ったし、歴史とか社会派とか、骨太という言葉で浮かびあがるイメージのジャンルに関する規定や説明はなかったから、「ここで言う『骨太』のイメージは結構広いのかもしれない。骨太のラノベやファンタジーも有り得るのかも」と思ってしまった。
 蓋を開けたら、なるほどそういうことか……となったが。

 実は、最初からコンテストの締切に全く間に合わず、完結したのがコンテストの結果発表後だった『リトル・ウィング』には、ずっと【骨太小説】のタグを付けている。
 小説としての出来はともかく、自分なりの骨太な小説というイメージで描いてみたからだ。
 モータースポーツを題材にした小説は意外と少ない。圧巻は大藪春彦の『アスファルトの虎』だろう。モータージャーナリストがF2チャンピオンを経てマクラーレンチームでF1に登り詰めると言う物語。その設定は実に骨太だが、「レーサーで殺し屋」というのがどうにも私にはついて行けなかった。せめて『汚れた英雄』(それもジゴロだが)のように、モータースポーツに留まってくれていたら……と思ったものだ。

 私の『リトル・ウィング』は、週刊『少年サンデー』に連載された村上もとかの漫画『赤いペガサス』の影響を強く受けている。
 ——他の小説で集英社の文庫を題材にしたと思ったら、今度は少年マガジンじゃなくて、小学館のサンデーか? どこまで、講談社に喧嘩売るんだ? なんて思わないで、ここは「昔の話」として大目に見てください。(笑)——
 『赤いペガサス』の主人公、日系英国人のケン・アカバは世界でも数人しかいないボンベイ・ブラッドという血液の持ち主。緊急時に輸血を受ける必要があるため、同じ血液を持つ妹ユキと常に行動を共にし、二人は単なる兄妹以上の絆で結ばれているという設定。
 この漫画には、フェラーリやマクラーレンといった実在のチームとともに、ニキ・ラウダやジョディ・シェクター、マリオ・アンドレッティといった当時のF1レーサーが実名で登場し、マシンやチーム、レースの駆け引きなどもとてもリアルに描かれていて、骨太な漫画だったと思う。
 ただ時代が早すぎたのか、あまり一般には受け入れられなかった。

 もう少し後の時代だが、『赤いペガサス』よりずっと売れたのは、これまた小学館(すみません)の『ビッグコミックスピリッツ』連載の『F』。この漫画のラストがモナコGPで終わっていることに、私は無意識のうちに影響を受けていたのかもしれない。

 ところで、『赤いペガサス』の当時、様々なカテゴリーでチャンピオンを獲得してF1まで登り詰めるドライバーは若くても20代半ば以上。24歳で若いと評判になるくらいだったから、主人公のライバルのぺぺ・ラセールというドライバーが19歳という設定だったことが少々荒唐無稽に感じられた。
 ところが、21世紀になって、運転免許も取れない17歳のドライバーがF1デビューを果たし、18歳で優勝してしまったから、事実は漫画より奇なり……ということかもしれない。

 昨今、カミュの『ペスト』や、小松左京の『復活の日』は、コロナウィルスの感染症で妙にリアルな印象を与えるようになった。当に事実は小説よりも奇なりと実感している。

 フィクションや妄想を超える現実にはあまり遭遇したくないが、家族とともに白昼堂々と空を飛ぶUFOをはっきりと目撃した自分は、いつか骨太なUFOの小説を書いてみたいと思っている。

 今回は(も?)まとまらない話になってしまった。

 次回は、NOVEL DAYSに要望したいことや、将来のことを書いてみたい。
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