プロット

文字数 3,370文字

【起】
中学二年の理花と葉也は男女の一卵性の双生児。
二人は外見がそっくりなのを利用して小学生の頃からときどき入れ替わっている。
「体育のある日も変われたらいいのに。男子ばかりずるい! 私もサッカーやりたい!」
「僕は創作ダンスの方が楽だと思うけどな」

二人が入れ替わる理由──

葉也は読書が好きで、理花は運動が好きだったこと。
男なのに外で遊ばず家で本ばかり読んでとか。
女なのに男みたい泥んこになるまで遊んでとか。
そんな風に周囲から偏見の目で見られることに辟易していたからだ。
また母親が男の葉也ばかりを構い、女の理花に対してはあまり構わないこと。
葉也は母親から過保護にされるのを嫌がり、理花はもっと構って欲しいと思っている。
それもまた男だったら、女だったらと望ませる一因だった。

半分遊びのつもりで始めた二人の入れ替わりは小学生までは成功。
中学に入ってからはクラスメイトの前で着替える体育のない日だけ入れ替わるように。
覚えのないことを言われたときには忘れたふり。
帰宅してからお互いに起きたことを何でも報告しあう。

しかしそんな二人の入れ替わりの日々も終わりが近づきつつある。
理花はトイレに行かないか個室に籠もるようにしているのを指摘されて焦った話をする。
体つきも変わるし、自分も声変わりすれば入れ替わり出来なくなるではないかと葉也が言った。
理花は毎日スカート履くのは面倒だとぼやくが、限界は確実に近づいている。
でも今はそれを考えないことにした。

【承】
春の終わり頃、二人のクラスに緑川章が転校してくる。
クラスの女子はイケメンの緑川に大騒ぎ。
席は「葉也」に入れ替わり中の理花の隣だ。
理花は学級委員として緑川を案内し校内を回ることに。
途中の階段で足を踏み外した理花を助けたとき、緑川の手が理花の体に触れた。
思わず理花が反応。
緑川は「葉也」が女だと気付いたが何も問わなかった。
理花は緑川を異性として意識するも、ドキドキの本当の理由は分からなかった。

一方「理花」に入れ替わり中の葉也は、放課後いつものように図書館に行く。
そこには今日もまた隣のクラスの女子・前田芽衣子がいた。
いつもなら会話することもない二人だが、席を立った前田が落とした本に葉也は興味を持つ。
あまり借りる人もいない古典の全集を自分以外に読む人がいるのかと。
前田に一番好きなのは『とりかへばや』だと言われてドキリとする葉也。

帰宅するといつものように二人は今日あったことを報告。
これまで以上に慎重にしようと頷きあう。

理花は緑川にバレたのではないかと冷や冷やしていたが、その後彼は何も言ってこない。
それどころかスポーツが得意でゲームやアクション映画が好きな緑川は理花とよく気があった。
夏に入る頃には二人は親友のように。
暑くなっても学ランを脱がない「葉也」に、同級生男子が学ランを脱がそうとふざける。
胸元を掴まれそうになると緑川が止めた。
理花はやはりあの時バレたのではないかと思う一方で、庇ってくれた緑川にときめく。

「理花」に入れ替わり中の葉也もあれから前田と軽い会話を交わす間柄となっていた。
おすすめの本を紹介し、一緒に本を読み、時間がきたら「またね」と言って帰る。
干渉を嫌う葉也は大人しい前田とのこの付かず離れずの距離感に心地よさを感じていた。
前田がクラスに友達がいないと言うと、葉也は自分たちはもう友達だと言って励ます。
嬉しそうに笑う前田を見て葉也は恋心を悟るが、前田は葉也を同性だと信じたままだ。

こうして二人にはそれぞれ親しくする相手が出来た。
だが性別を偽って親しくなったためにそれを明かせない。
あまり近づき過ぎると危険だと、二人はお互いに警告しあう。

体育祭。
今日は着替えがあるためそれぞれ本来の自分として行事に参加することに。

運動好きの理花には楽しいイベントだが、緑川と一緒に戦えないことが心残り。
体育祭の最中、理花は緑川に呼び止められソフトボールでのファインプレーを褒められる。
しかし「お前はこのままでいいのか。自分を見て欲しくはないのか」と言われて動揺。
緑川は自分も親に進路を押しつけられて反発、自分のありのままを認めて欲しいのだと話す。
性別を隠して生きる理花に自分を重ねて苛立ちをぶつけるように。
それは女子である理花をそのまま受け入れるという遠回しな告白でもあった。

体育祭の途中、危険を犯して「理花」の制服に着替えた葉也は前田を探す。
運動が苦手な前田がクラス対抗戦で足を引っ張り、泣きそうな顔をしていたのを見たからだ。
前田を慰め「私がいるよ」と言う葉也に、前田は「似鳥さんが男でも女でも好き」と言う。
それは少女特有の姉妹愛、擬似的な恋愛感情に似たもの。
前田はクラスの男子に虐められたことで男子に苦手意識を持っていた。
目の前の「理花」が男子だと気付かぬまま勇気を出して告白したのだった。

その夜、何でも打ち明けてきた二人は初めて隠し事をする。
緑川と前田と会ったことは言っても、何を言われたか、自分がどう感じたのかは語らなかった。
双子は既にそれぞれ別の道を歩み始めている。

【転】
文化祭。
理花は女子として緑川とフォークダンスを踊りたかったが、男子の姿では踊れない。
他の女子と踊る彼を見て胸が苦しくなると屋上へと逃げた。
追いかけてきた緑川は「葉也」となっている理花に「逃げるな」と言う。
自分ももう逃げないからお前も逃げるなと。
緑川は理花を向き合うことで自分の問題からも逃げないと誓ってみせる。
理花は緑川の真っ直ぐな言葉を聞き、女子としての自分を受け入れることを決めた。

その頃葉也は男子と踊るのが嫌で体育館の裏に逃げ出した前田と会っていた。
そして踊ろうと誘い、遠くから聞こえてくるフォークダンスの曲に合わせて二人で踊る。
その最中、「理花」のふりをして女装しているが実は自分は男の「葉也」なのだと告げる。
ただ一緒に本を読み、たまに少し話すだけの時間が楽しかったこと。
男でも女でも好きと言ってくれて嬉しかったこと。
前田は驚くものの、「葉也くんは男子なのに全然嫌じゃないよ」と笑って答えた。

【結】
文化祭の夜、二人はお互いに今日の出来事を正直に打ち明け合う。
そして仕事から帰宅した母親に学校で入れ替わっていたことを話した。

母親もまた自分の気持ちを正直に話してくれた。
葉也は亡き夫に似て大人しくて心配、だけど理花は自分に似てしっかり者で安心。
だから偏った構い方になってしまったのだと。
些細な気持ちの行き違いであったと知ると家族のわだかまりは溶ける。
母親もまた仕事に邁進することで夫を失った悲しみから逃げていたのだ。

それ以来二人は入れ替わるのをやめた。
理花は緑川と付き合うようになり髪を伸ばし始めた。
葉也は前田と相変わらず図書室でのんびり愛を育んでいる。
クラスで入れ替わりのことを打ち明けると、クラスメイト達は咎めることはなかった。
「なんか聞かれたくなさそうだったし」「男子でも女子でも楽しければいいよ」
「男なのに可愛いと思ってた」「男なら付き合いたいと思ってた」

何でも打ち明け合ってきた双子には隠し事も増えた。
お互いのことで知らないことの方が多くなっていく。

ラストシーン。
日曜日、二人で歩きながらの会話。
「なんならこれからもたまに入れ替わる?」
「断る。前田さんの男子嫌いを克服したいし、僕も女装は趣味じゃないから」
「べた惚れだね」
「どっちがベタ惚れだよ。家庭科嫌いって言ってたのにクッキーまで作って」
「だってお母さんが作り方教えてあげるから持って行ったらって言うんだもん」
待ち合わせ場所に着くと、緑川と前田がもう来ていた。
「緑川くん、理花のこと、頼むよ」
「何言ってんの! そっちこそ前田さんのこと、ちゃんと守りなさいよ」

理花は緑川とこれからアクション映画を見に行く予定。
持参の手作りクッキーをいつ渡そうかと内心ドキドキ。
「スカートの方が良かった?」と聞くと緑川は「そのままで可愛い」と答え理花は照れる。

葉也は前田と街の大きな図書館に行く予定だ。
昼食は前田がお弁当を用意してくれていると言うので楽しみ。
私服の葉也に落ち着かない前田さんに、「男でも女でも好きなんだよね?」と悪戯に笑う。

理花と葉也は別れ、それぞれの相手とデートに向かう。
とりかえばやではなく、理花は理花、葉也は葉也としてこれからは生きていくのだ。

(了)
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