九 捜査官
文字数 1,296文字
報道関係者は記者会見室に閉じこめられたまま捜査官によって事情聴取されている。
内閣情報調査室の与田直人捜査官は一階の記者会見室から通路へ出た。
「死因は何だ?」
与田捜査官は声を潜めてスマホで検察官に訊いた。内山総理の遺体は、首相官邸から最も近い、帝都大医学部の特別解剖室へ運ばれている。
「心不全です」
スマホから聞える検察官の声は緊張している。
「だから死因は何だ?心臓が止ったのはわかってるっ」
「組織検査しないとわかりませんっ」
「早く死因を探せ。ウィルス感染か、病気か、事故か、死因がわかったら知らせろっ」
「はいっ」
通話を切ると同時にスマホが着信を知らせた。首相官邸に常駐している担当官からだ。
「捜査官!総理執務室で、後藤副総理が呼んでます」
「わかった。他に何か異変は?」
「ありません。全員を隔離したまま事情聴取してます。他に死亡者はいません」
「わかった・・・」
与田捜査官は通話を切った。ウィルス感染を気にしながら階段を五階へ駆けあがった。
与田捜査官は総理執務室に入った。後藤副総理が座る総理執務机の前に立った。
「副総理。何でしょうか?」
「捜査はどうだ?」
「検察官が気が利きません。何のために監察医に司法解剖させてるのかわかりません」
「死因は何だ?」
「心不全とだけ言ってます。ウィルス感染については何も話してません」
「そうか・・・。検死は監察医と検察官に任せ、君は内調の仕事に戻ってくれ」
「どうしたんですか?官邸で起きた事です?我々が調べなくて、どうするんですか?」
「事件ではない。心不全だ。いいな。高齢で心不全になって死亡したんだ」
「病死ですか?」
「君も、死んだ三人が、互いに政敵同士だったのを知ってるじゃないか?」
「・・・」
お前が内山総理と幹事長たちを始末させたのか!与田捜査官はそう確信した。
「おいおい、私は三人に何もしとらんぞ。心不全で死んだ。そうしておけ」
「しかし」
「君は元総理の指示で仕事をした事がある。その前の総理の指示でも仕事をした。
私はもうすぐ総理になる。内調への指示は私が出すが、過去の総理のような指示を出していない。これからも出さない・・・」
「はい・・・」
このタヌキめ!俺がしてきたこれまでの職務を公にすると脅すのか?内山総理と幹事長と元幹事長を暗殺させたのはお前だな!偉そうに『そのような指示を、私は出していない。これからも出さない』なんて言うんじゃない!
「三人は心不全で死んだ。それは事実だ。そう処理しろ」
「わかりました・・・」
与田捜査官は、思いとは裏腹に平然を装い、その場から記者会見室へスマホで連絡した。
「ただちに、内山総理たち三人は心不全で亡くなったと説明してくれ。
記者会見室の封鎖を解いて記者を解放しろ・・・」
捜査官はいったん通話を切り、再度通話した。
「解剖所見は『全員、心不全』だ。すぐ処理しろ。ウィルスは検出されなかっただろう?」
「はい。どうしてそれを?」
検察官が驚いている。
「医務官の所見だっ。ただちに処理しろっ」
与田捜査官は通話を切って後藤副総理を見た。副総理は犬を追いはらうような目つきで与田捜査官に退室するよう目配せした。
内閣情報調査室の与田直人捜査官は一階の記者会見室から通路へ出た。
「死因は何だ?」
与田捜査官は声を潜めてスマホで検察官に訊いた。内山総理の遺体は、首相官邸から最も近い、帝都大医学部の特別解剖室へ運ばれている。
「心不全です」
スマホから聞える検察官の声は緊張している。
「だから死因は何だ?心臓が止ったのはわかってるっ」
「組織検査しないとわかりませんっ」
「早く死因を探せ。ウィルス感染か、病気か、事故か、死因がわかったら知らせろっ」
「はいっ」
通話を切ると同時にスマホが着信を知らせた。首相官邸に常駐している担当官からだ。
「捜査官!総理執務室で、後藤副総理が呼んでます」
「わかった。他に何か異変は?」
「ありません。全員を隔離したまま事情聴取してます。他に死亡者はいません」
「わかった・・・」
与田捜査官は通話を切った。ウィルス感染を気にしながら階段を五階へ駆けあがった。
与田捜査官は総理執務室に入った。後藤副総理が座る総理執務机の前に立った。
「副総理。何でしょうか?」
「捜査はどうだ?」
「検察官が気が利きません。何のために監察医に司法解剖させてるのかわかりません」
「死因は何だ?」
「心不全とだけ言ってます。ウィルス感染については何も話してません」
「そうか・・・。検死は監察医と検察官に任せ、君は内調の仕事に戻ってくれ」
「どうしたんですか?官邸で起きた事です?我々が調べなくて、どうするんですか?」
「事件ではない。心不全だ。いいな。高齢で心不全になって死亡したんだ」
「病死ですか?」
「君も、死んだ三人が、互いに政敵同士だったのを知ってるじゃないか?」
「・・・」
お前が内山総理と幹事長たちを始末させたのか!与田捜査官はそう確信した。
「おいおい、私は三人に何もしとらんぞ。心不全で死んだ。そうしておけ」
「しかし」
「君は元総理の指示で仕事をした事がある。その前の総理の指示でも仕事をした。
私はもうすぐ総理になる。内調への指示は私が出すが、過去の総理のような指示を出していない。これからも出さない・・・」
「はい・・・」
このタヌキめ!俺がしてきたこれまでの職務を公にすると脅すのか?内山総理と幹事長と元幹事長を暗殺させたのはお前だな!偉そうに『そのような指示を、私は出していない。これからも出さない』なんて言うんじゃない!
「三人は心不全で死んだ。それは事実だ。そう処理しろ」
「わかりました・・・」
与田捜査官は、思いとは裏腹に平然を装い、その場から記者会見室へスマホで連絡した。
「ただちに、内山総理たち三人は心不全で亡くなったと説明してくれ。
記者会見室の封鎖を解いて記者を解放しろ・・・」
捜査官はいったん通話を切り、再度通話した。
「解剖所見は『全員、心不全』だ。すぐ処理しろ。ウィルスは検出されなかっただろう?」
「はい。どうしてそれを?」
検察官が驚いている。
「医務官の所見だっ。ただちに処理しろっ」
与田捜査官は通話を切って後藤副総理を見た。副総理は犬を追いはらうような目つきで与田捜査官に退室するよう目配せした。