神判の日 3

文字数 864文字

「な、なんとな!」
 ほとんど反射的に昌吉は叫んだ。「──死んだ……とな?」
 昌吉が隣人に顔を向けると、亀太郎も呆然としている。
「起こしに参りましたら……三度ほど声はかけたんですの、はーい……」
 トメは首をゆっくりと横に振る。「冷とうなってしまいまして……」
「信じられん。あんなに元気じゃったのに。心臓が悪いとは聞いとったが、そこまでとは思わなんだ。なあ、亀さんよ」
「ほんにのう。なんちゅうこっちゃろかい! 正月早々……」
「お二人には生前、まことにお世話になりまして、お礼の申しようもありません」
「なにを言うかね。これから大変じゃろうて」
「ほんに、ほんに。昌さんよ、ワシらもなんか手伝わにゃ……」
「おう、そうじゃった。なんでも言うてくれろや、遠慮せんでええからな、トメさん」
「ありがとうございます。これから弔ってやらねばなりません。今しばらくは、あの人と二人きりにしてくださいましな」
「ああ、そうだろうよ。とっくと最後の別れを惜しんでくだされや。茂末さんも喜ぶじゃろうて」
「そんじゃ、昌さんの言うとおりじゃい」
「トメさん。したら、ワシらは一旦帰ってまたあとで来るけんど、なんかあったらいつでも言うてくれろや。この亀さんとすっ飛んで来っから」
「お気遣い本当に痛み入ります」
 トメは深々と頭を下げた。
「茂末さんよー! ええ所に旅立ってくれろやー!」
 昌吉が名残惜しむように茂末に別れを叫ぶと、亀太郎もあとに続いた。
「ありがとさんやったなあー、茂末さーん!」
 昌吉はトメに暇乞いをして亀太郎に目配せすると、静かに茂末邸をあとにした。
「なあ昌さんよ。気丈なもんよな、トメさんは。涙ひとつこぼしゃしねえやい」
「辛えこったろうによお」
「まったくだ。ほんに、ええ女房じゃい」
「ほんに、ええオンナじゃて」
 昌吉は何度も頷いて溜息をつく。「──未亡人か……」
 ふと振り返ると、未亡人トメはまだ見送ってくれていた。昌吉は慌てて頭をペコリと下げる。そしてまた亀太郎と肩を並べてトボトボと帰途に着いた。
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