第1話
文字数 985文字
耳元で音を立てていたドライヤーをカチッと止めた。手ぐしで髪を梳かすと、ふわっとシャボンの香り。
温風が止まったせいで、タンクトップからむき出しになっていた肩が急にひんやりする。
あわててふわもこのパジャマを頭からかぶった。フードに猫耳がついているのが、私のお気に入り。
にゃーん、とキジトラの猫のトラジが鳴いて、ショートパンツから伸びている私のすねに、頭をこすりつけてきた。
トラジを抱き上げてベッドに座る。あぐらをかいて膝にトラジを乗せ、カーテンを開けた。もうすっかりまっ暗な空には、星がいっぱい見える。
トラジはチラッと片目を開けて、あくびをした。トラジの頭をナデナデすると、気持ちよさそうに目を閉じた。手を止めると、抗議するみたいにトラジがにゃんと鳴いて、私の手を肉球でぐいっと押す。
「ゴメンゴメン」トラジの耳の後ろを掻こうとして、ふと耳をそばだてた。
何か聴こえる。なんだろう? 小さな小さな音。カツッいうような、コンコン、というような音だけど、旋律がある。録音された音楽じゃない。かといってバイオリンでもないし、フルートでもない。むかし、どこかで聴いたことがあるような素朴な音だ。
「星屑の音……? なんてね」
窓辺に頬杖をついて、耳をすます。ほら、気のせいじゃない。やっぱり聴こえる。
窓から顔を出してみた。小さなメロディーは、さっきよりもほんのわずかに大きくなった。
「あ、オモチャのピアノ」
夜中に誰かが弾いているオモチャのピアノの音が、風に流されてきているんだ。
オモチャのピアノは小さくて鍵盤が足りないから、旋律はとぎれとぎれ。だけどたぶんこの曲は「星に願いを」だと思う。
夜空を見上げて顎の下で両手を組んで。
「トラジと入れ替わらせてください!」と祈ってみる。
人間になったトラジはきっと、茶髪の髪にヘーゼルの瞳のイケメンで、猫になった私の喉を指先でくすぐるの。
そんなことを考えてクスクス笑い出したら、オモチャのピアノの音が止まった。
音がなくなった夜は、なんだか急にさみしい。私は部屋の中に頭を引っ込めようとして……、だけど寝る前にもう一度、優しい音が聴きたくて「にゃーん」と言ってみた。トラジが「もっと」って、おねだりする真似をして。
そうしたらね。ほんの少し間があいて、コロンとオモチャのピアノが鳴った。
おやすみ……って、言っているみたいに。
温風が止まったせいで、タンクトップからむき出しになっていた肩が急にひんやりする。
あわててふわもこのパジャマを頭からかぶった。フードに猫耳がついているのが、私のお気に入り。
にゃーん、とキジトラの猫のトラジが鳴いて、ショートパンツから伸びている私のすねに、頭をこすりつけてきた。
トラジを抱き上げてベッドに座る。あぐらをかいて膝にトラジを乗せ、カーテンを開けた。もうすっかりまっ暗な空には、星がいっぱい見える。
トラジはチラッと片目を開けて、あくびをした。トラジの頭をナデナデすると、気持ちよさそうに目を閉じた。手を止めると、抗議するみたいにトラジがにゃんと鳴いて、私の手を肉球でぐいっと押す。
「ゴメンゴメン」トラジの耳の後ろを掻こうとして、ふと耳をそばだてた。
何か聴こえる。なんだろう? 小さな小さな音。カツッいうような、コンコン、というような音だけど、旋律がある。録音された音楽じゃない。かといってバイオリンでもないし、フルートでもない。むかし、どこかで聴いたことがあるような素朴な音だ。
「星屑の音……? なんてね」
窓辺に頬杖をついて、耳をすます。ほら、気のせいじゃない。やっぱり聴こえる。
窓から顔を出してみた。小さなメロディーは、さっきよりもほんのわずかに大きくなった。
「あ、オモチャのピアノ」
夜中に誰かが弾いているオモチャのピアノの音が、風に流されてきているんだ。
オモチャのピアノは小さくて鍵盤が足りないから、旋律はとぎれとぎれ。だけどたぶんこの曲は「星に願いを」だと思う。
夜空を見上げて顎の下で両手を組んで。
「トラジと入れ替わらせてください!」と祈ってみる。
人間になったトラジはきっと、茶髪の髪にヘーゼルの瞳のイケメンで、猫になった私の喉を指先でくすぐるの。
そんなことを考えてクスクス笑い出したら、オモチャのピアノの音が止まった。
音がなくなった夜は、なんだか急にさみしい。私は部屋の中に頭を引っ込めようとして……、だけど寝る前にもう一度、優しい音が聴きたくて「にゃーん」と言ってみた。トラジが「もっと」って、おねだりする真似をして。
そうしたらね。ほんの少し間があいて、コロンとオモチャのピアノが鳴った。
おやすみ……って、言っているみたいに。