第3話 一回めと二回めのデート

文字数 1,216文字

「私、ラーメン屋でデートするのって初めて」
 初回のランチは新橋のラーメン屋。知る人ぞ知る隠れた名店だ。わざわざ(かなめ)の自宅マンション前まで車で迎えに行ってやったんだ。
「美味しかった、ごちそうさまでした」
 要は喜んでいた。

「私、※マーメイドカフェって初めてなの! この人魚のキャラクター、素敵ね。※ミュシャの描く美人画にありそう」
「うん、そうだね」
 ラーメン食った後、マーメイドカフェに連れて行ってやったら要は喜んだ。店に入るためにパーキングメーター代もかかってるし、決して安上がりに済ませた訳じゃない。ミュシャがよくわからないけど、多分画家だろう。
「これ、どうやって飲むの?」
 プラスチックのフタをされた紙コップを手に店を出ると、要は困っていた。
「そのまま口つけて飲むんだよ。ほら、こうやって」
「おお凄い! アイデア商品ね。これ考えた人、頭イイ!」
 彼女は瞳を輝かせて感動していた。

 要がこのカフェを気に入ったようだから、後日仕事帰りに立ち寄って人魚のイラストのマグカップをペアで買っておいた。要が俺のマンションに来たときに使えるように。この店は世界的な有名店で、マグカップは限定品だったから一客三千円以上した。しかも二客だから七千円近くもプレゼント代がかかった。
※マーメイドカフェ……外資系カフェ
※ミュシャ……チェコ出身のアール・ヌーヴォーを代表する画家

 二回めのランチは先々週。車で迎えに行って、六丁目の※ロクデナルドに連れて行った。ちなみにロクデナルドはファストフード界では最も高品質で最も高価格。しかも俺が連れて行ったのは、ロクデナルドでも高いほうの()()ロクデナルド。だから格が違う。

「うちでコーヒー飲まない? マーメイドカフェでペアのマグカップ買って来たんだ」
「ペアのマグカップって……。それ、私のために買って来てくれたの?」
「そうだよ。君と一緒にコーヒー飲むためさ」
「嬉しい……」
 要は嬉しそうに笑った。いつもこうやって笑ってりゃ可愛いのに。
「しかもシリアルナンバー入りの限定品だぜ」
「へーえ、どんなデザイン?」
「薄手で細長いデザインのスタイリッシュなマグだよ。白地にあの人魚のイラスト入りなんだ」
「あのミュシャっぽい人魚、綺麗なのよねぇ」
「うん。それにカップの底にもイラストがあって、コーヒーを飲み干すとイラストが見えて、その日の運勢がわかるんだよ」
「そういう仕掛け、わくわくする! どんなイラスト?」
「それは見てのお楽しみ。だから俺んち来いよ」
「うん……。コーヒーだけならね?」
「うんうん。コーヒーだけ」

 マンションに連れて帰ってコーヒーを淹れたマグカップを見せると、要は嬉しそうに笑った。で、一緒にコーヒー飲んで、Fカップの胸を掴んだら怒って帰りやがった。ちぇ、なんだよ……。
※ロクデナルド……日系ハンバーガーショップ
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