第1話

文字数 1,064文字

──24時50分。私は、ぱっちり目が覚めている。

普段なら、もう寝ている時間だ。

お父さんお母さんも、弟も寝てる。

そんな夜中に、私だけが、起きているんだ。



私は、小さな弟が目を覚まさないように、音を出さないように、

眠っている頭の近くをそっと歩く。

そして窓に近づいて、カーテンと窓の間にさっ、と身を滑り込ませた。

ここは、さ、っとやらないと、月明かりが弟の顔に当たっちゃうから、

起きてしまうかもしれなくて、ちょっとだけヒヤッとする。


窓とカーテンの間、

ひとりでかくれんぼをしているみたい。

私はそこに座り込んで、空を見上げた。今、夜空に浮かんでいるのはまん丸の月だ。

雲が全く無くて、星がいくつか見える。月はぴかぴかに光っている。


いつまでも、しん、としていて、

月を見つめていると、私の心までしん、としてくるみたいだ。




──私はたまにこういうことをする。

普段なら寝ている時間に起きてきて、月を見てる。

これは最近始めたことで、いつの間にか繰り返していて、また今日も。

ただじっと月を見つめてる。

そうすることが今の私に、合ってるような気がして…。

どういうことかと言うと、月を見つめていると、ぼんやりと”私”のことを考えてみたりするのだ。



私は弟が生まれる前、お父さんとお母さんを独り占め出来ていた。今は少し違う。私も弟を構ったりするし、お母さんの様子を伺ったりする。

私は自分が何が得意で何が苦手なのか、好き嫌いもよく知っているし、毎日を楽しく過ごす方法もよくわかっているつもり。





でも、何だろう。

この深夜のしん、とした時間も、

私の人生の一部なんだな…。

“私”をお休みする時間。





私は太陽が出ている時間には考えないようなことを考えた。


明日って毎日来るけど、今日のような日がずっと続いていくのかな?

明日のずーっと先は、どこまで?

その時私はどこにいるんだろう。



私はこのことは明日の晩ごはんのメニューを好きなものにしてもらったり、休日にどこに遊びに行くか決めることより重要だと思いつつ、誰に聞いても分からないような気がして、こうやって、月を見つめてる。私の心の中に、小さな望遠鏡がある。



月はとても静か…

形は変わるけど、変わらなくて、ずっとそこにある。

月も私と同じことを考えたりしないのかな。







───そうしてしばらくして満足すると、カーテンからさっ、と出てまたこそこそと弟の頭の近くを通り自分の布団に戻って、枕に顔を埋めた。



今日は、もうおしまい。またこんな日が来たら、


心の中が”しん”、として、フシギなことを考える日は、


また付き合ってね、お月様。


おやすみなさい。









【終わり】
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