2-1:裸になって肌を温めあう展開も考慮しておかなければならない。(前編)
文字数 1,252文字
期待、不安、喜び、悲しみ、驚き。生きるうえで経験するありとあらゆる
ところが受け手から送り手に立場を移し、小説を書くという行為に手をつけると、とたんに楽しかったはずのものは苦しみへと変わってしまう。
いっぱしの能力が認められ、趣味から仕事に変わればなおさらその苦痛は増すだろう。
面白いとはなにか、新しいとはなにか、オリジナリティとはなにか、意外性はあるだろうか、退屈ではないだろうか、矛盾はないか、理解してもらえるのだろうか……およそ生きるうえで経験することのないありとあらゆる悩みを抱えながら、最高の物語という漠然としたものを求め、果てなき荒野を孤独にさまよい続けるのだ。
しかし眼前にきらめく光を目にして、求めていたものを探しだすことができたとしても、それが真に価値あるものとはかぎらない。
苦労のすえに見いだした宝がただの石クズだと断じられ、嘲笑の的になることすらありえるのだから。
数多の投稿作の中から選ばれ受賞にいたった作品が、読者に見向きもされず瞬く間に埋もれていく。一月ほどかけて送りだした二十本もの新シリーズの企画書が、いずれも不合格の烙印を押され処刑台にのぼっていく。
なにも自分だけにかぎった話ではなく、プロとしてデビューした新人作家の多くが味わう出版業界の洗礼である。
そもそもなんのために小説を書くのだろう?
ぼくが絶対小説にまつわる問題に直面したのは、ちょうどそんな疑念が生じかけていたころであった。
だから
しかし――。
【ナタデココ☆らぶげっちゅ】:おひさしぶりです。進捗はどうですか。
【兎谷@企画構想中】:事実だけをのべるなら、まだ一行も進んでいませんね……。
僕様ちゃん先生のところに足を運んでから一週間後。SNS上にてまことさんにたずねられたとき、ぼくは苦渋の表情でメッセージを打ちこむほかなかった。
【ナタデココ☆らぶげっちゅ】:ちなみに
【兎谷@企画構想中】:もちろん。百年前に書かれた小説だけあってところどころ読みにくい箇所はありましたが、名作といわれているだけあって濃密な読書体験を得られましたよ。
【ナタデココ☆らぶげっちゅ】:わたしもあの作品には思い入れがあるのでよかったです。それに肌にあわない作品の二次創作って難しそうですし。
【兎谷@企画構想中】:モチベーション的にも技術的にもハードル上がるかもしれませんね。そういう意味ではやりやすいほうだと思うのですが……なにせぼくのお相手は文豪ですから。化生賛歌という見本があるとはいえ、どこから手をつければいいのやら。