第2話 JAZZ BAR

文字数 7,903文字

 幅の広い地下への階段。入り口に置かれた、古いワイン樽に沢山の空き瓶。壁に掲げられたプレートを見れば、ジャズバーだと知れた。
 アニメの世界から飛び出したような顔の鈴木君からは、想像もつかない場所に連れて来られたことに、少なからず驚きながら後ろをついていく。
 大きく重そうなドアに手をかけて開けると、さっきまで聴こえても来なかった音楽が耳へと届いた。
 ジャズに少しも詳しくないから流れている曲がなんなのかわからないけれど、静かな夜には合いそうなメロディだった。
「いらっしゃいませ」
 愛想のいい若いバーテンダーが笑顔で迎えると、鈴木君が口角を上げて軽く右手を上げた。
 慣れている鈴木君の雰囲気をみれば、このバーはよく来ているお店なのかも知れないし、バーテンダーの彼とは知り合いなのかもしれない。ただ、彼の笑顔はいつものことだから、判断はつかない。
 空いているテーブル席の一つに腰掛けると、奥には存在感いっぱいのグランドピアノが置かれていた。まるで主役とばかりに、堂々とライトを浴びている姿に目を奪われる。
 鍵盤なんて、学生の頃に鍵盤ハーモニカを触ったくらいじゃないだろうか。楽器にもジャズにも縁遠い自分に肩を竦めた。
 誰か演奏するのかな?
 店内をさりげなく見渡してみたけれど、ピアノを弾きそうな雰囲気の人は、申し訳ないが見当らなかった。あの愛想のいいバーテンダーが弾くのかもしれないと思ったけれど、お酒を提供しながら弾くなんていう事はないような気がした。
 テーブルに着いて直ぐに、そのバーテンダーが笑顔で現れた。手にはメニューが握られていて、ナッツの入った小皿をテーブルの真ん中に静かに置く。
「いらっしゃいませ」
「ごめん、急だったから、甘いの無しなんだ」
 鈴木君は、挨拶するバーテンダーに向かって気さくに話しかける。やっぱり知り合いのようだ。
「次に期待してるから、いいよ」
 バーテンダーの彼もフランクに返している。
 甘いのって、何だろう。
 二人の会話に入り込めず黙っていたら、メニューを差し出された。
「僕は、いつもの。望月さんは、何にする?」
 メニューを開いてみたけれど、こんな場所に来たことは初めてだったから、並ぶアルコールの数々にテンパってしまい、全く頭に入って来ない。それを察知したのか、「じゃあ僕が決めるね」と鈴木君が目を見るから素直に頷いた。
 リードされて助かったけれど、予想に反して鈴木君がこういう場に慣れていることにまた驚いた。
 申し訳ないけれど、社内での鈴木君の印象はかなり薄い。言葉を交わす機会は、仕事以外ではないし。黒縁眼鏡のせいか、オタクなのだと勝手に想像していた。オタクをディスっているわけではないけれど、もっと専門的なことで、しかも特殊な仲間内で盛り上がるのが好きで、それ以外は無口で、現実には興味のない人かと思っていた。
 そこまで考えて、充分ディスっているかと、考えながら頬が引き攣った。
「何か彼女に合うの。うーん、そうだなぁ。あんまりアルコールは、強くない方がいいかな。あと、彼女、ほとんど食べてないから、何か軽く食事になるようなもの」
「了解」
 人懐っこい笑みを残して、バーテンダーが下がっていく。
 シェイカーの音が聞こえて来た頃、正直な感想を漏らした。
「驚いた」
 鈴木君は、ナッツを一つ手にとって口に入れたところでこちらへ顔を向けた。
「似合わないかな?」
 カリッと音を立ててから、はにかむように笑う。
 自分でもこの場所にそぐわないタイプの人間だと、周囲から思われていることを自覚しているようだ。鈴木君というキャラクターを勝手に作り上げていたことを、脳内で書き換える。
「あいつ、同級生なんだ」
 鈴木君は、シェイカーを振るバーテンダーへ視線を向けた。
 バーテンダーの彼は、少しばかり垂れた目がクリっとしていて中性的だ。店内のライトのせいかもしれないけれど、やたらと髪の毛が茶色に見える。街で会ったらチャラい男子にしか見えないかもしれない。
 それにどちらも童顔だから、「同級生なんだ」と言われれば、そうなんだと頷けるけれど、私と同じ二十五歳だと言われると疑いたくなる。
 二人はどう見ても高校を卒業したばかりか、あるいは大学のキャンパスを歩いていそうな顔つきだからだ。
(しゅん)は。あ、バーテンダーのあいつね。高校を卒業してから直ぐに、調理師と栄養士の学校に通いながらバーテンダーの勉強もしてさ。尊敬するくらい頑張っていて。自分が情けなくなることや、何かに負けそうになった時は、ここに来て、俊の頑張ってる姿を見るんだ」
 それって、鼓舞するって事かな。少しわかるな。私もそうだったから。
 直ぐに何でも投げ出す私に、根気強さを笑顔で実践してみせたのは大好きな奏太だった。気ままでとても自由に振舞っていた奏太だけれど、いつも真っ直ぐな瞳で、取り組んだことには諦めず真摯に向き合っていた。
 その姿を目にするたびに、こんなんじゃいけないって、何度も励まされたっけ。
「お待たせしました」
 奏太のことを思い出していたら、いつの間にかバーテンダーの俊という彼がやって来て、綺麗な紫色をしたカクテルをスッと目の前に置いた。
「食事も直ぐだから」
 ごゆっくりというように笑みを残して、カウンターへ戻っていく。
 バーのロゴが描かれたコースターの上に置かれたお酒は、とても綺麗な赤みの少しある淡いパープル色で、グラスの底の方から上に向けてグラデーションになっていた。まるで朝焼け空みたいだ。
「綺麗だね」
 鈴木君に言うともなしに言ってから、グラスに手を添えマドラーでゆっくりかき混ぜる。綺麗な空が色を混ぜあい、柔らかな紫色に落ち着いた。
 穏やかで優しい、そんな色のカクテルを飲めば、自分もそんな人になれるような気がした。
 口にしてみたらアルコールもきつすぎなくて、とても飲みやすい。
「おいし」
 鈴木君がクシャリと表情を崩す。眼鏡の奥で、瞳が三日月のように弧を描いた。
 少しすると、小ぶりのピザとエビのカクテルサラダ。量を調節してくれたのだろう、少なめに盛り付けたトマトクリームソースのペンネが届いた。上がる湯気と香る匂いに、自然と表情が緩んでいく。
「美味しそう」
 ペンネから、ガーリックと柔らかなトマトソースの香りが立ち込めていて鼻孔をくすぐった。居酒屋では少しも食べたいと思わなかったのに、目の前に出された料理は食欲をそそり、お腹がすぐさま反応して鳴った。幸いかかっているジャズに遮られて、目の前に座る鈴木君には聞こえていないはず。それでも、自然とお腹に手がいき、押さえるように一度触れると、鈴木君がフォークを差し出してくれた。
 受け取ったフォークでペンネを一口食べると、トマトソースに溶け込んでいたモッツァレラが糸を引き、隠し味に使われているのだろうバジルが口の中で独特の香りを広げた。
「なにこれ」
 まるで、イタリアンレストランにやってきたみたいな絶品料理にとても驚いた。
「俊の作る料理は、最高なんだ」
 まるで自分のことのように自慢している鈴木君は、社内にいる時とは違って、少し饒舌で楽しげだ。
 スッと伸びた細身のグラスに注がれたビールを飲み、「旨い」と漏らしている。
 しばらくの間、鈴木君は黙ってビールを味わい、流れているジャズに耳を傾けるようにして、時々ナッツを頬張った。
 きっと、休むことなくフォークを動かす私が満腹になり、満足するのを待ってくれているのだろう。
 黒縁眼鏡の奥にある瞳は変わらず三日月で、緩やかに弧を描いている。
 食事をしながら、時折店内の様子に視線をやった。
 バーにしては、少し広いのだろうか。グランドピアノが置かれている場所は、ちょっとした舞台のようになっている。もしかしたら、雇われのバンドが決まった曜日に演奏をするのかもしれない。
 ジャズでも、バンドっていうのかな? 昔、高校の同級生がコピーバンドを組んでいたから、音楽をやっているグループはバンドと認識していたけれど、ジャズって何となく特別感があるから、言い方は違うのかもしれない。
 テーブル席は、この席を入れて六つ。それにカウンターテーブルに椅子が十脚。それらはほとんどが埋まっていて、カウンター席の奥が三席ほど空いているくらいだった。
 何がどうという説明は難しいけれど、ここは居心地がいい。席と席の間に余裕のあるスペースを確保しているせいかな。それとも、ジャズの選曲? あ、彼の笑顔だったりして。
 カウンター内で忙しそうにアルコールを次々とさばきながらも、食事の用意をしている鈴木君の同級生だという、バーテンダーの俊という彼の笑顔はとても人懐っこい。
 忙しさを感じさせないくらいの笑みは、自分の仕事をとても楽しんでいるようだ。
 目の前の鈴木君に見られていることも気にせず、店内を観察しつつも、黙々と料理を口にした。そんな私を鈴木君が楽しそうに見ている。なんだか、風景でも眺めているくらい自然で穏やかな表情だ。
 ペンネを完食し。ピザを二切れ食べ、カクテルサラダも完食したら、本当に満足でほうっと息が漏れた。
「落ち着いた?」
 少し可笑しそうに、それでいて穏やかに訊く姿勢が、さっきまで高校生や大学生に見えていた姿を大人びて見せた。その変わりように、またほんの少し驚いた。
 なんでだろう。鈴木君て、不思議な人。
 今まで沢山いる社員の一人としてしか意識したことがなかったけれど、彼は色んな表情をする。私が気にしてこなかっただけで、きっと彼は元々こういう人だったのだろう。
 奏太のことにだけ気を取られている毎日に入り込んでくるのは、幼馴染の洸太くらいだ。それだって、わざわざ自分から洸太に絡んでいくわけじゃない。私のことを心配する洸太が、何かにつけて話しかけ、気を遣ってくれているだけのこと。
 それ以外の繋がりは全て希薄で、繋がりはいつだって薄っぺらだ。けれど、それがよかった。今までは、それでよかったのだけれど……。
 鈴木君をまじまじと観察していたら、居酒屋でもあったように、不意に慌てだし、あたふたして視線を逸らされたからまたも首をかしげた。
「あ、えっと。ごめん!」
 よくわからないまま、何故か謝られてしまった。気を取り直すようにビールを口にした後、バーの話を少しだけしてくれた。
「ここはね。ジャズ好きなオーナーが始めたお店で、昔はよく生バンドを聴かせることがあったみたいだよ。あと、オーナーが注ぐビールは格別で。僕も何度か飲んだことがあるけど、本当に美味しく注いでくれるんだ。あ、これは俊には内緒で。あいつ、この話をするとメチャクチャ悔しがるから」
 鈴木君は、クスッとした笑みを零しながら、俊のも美味しいんだけどねと笑った。
 それにしても、ジャズの生バンドか。想像してみようとしたけれど、私生活からはあまりにかけ離れた世界過ぎて、ぼんやりと靄がかかったようになってうまく想像できない。昔はっていう事は、今は誰も演奏しないのだろうか。あんなに堂々としたピアノがあるのに、なんだかもったいない。
 その後すぐ、鈴木君は残っていたビールを一気に煽ると息を吐き出し、意を決したような顔をするから、思わず居住まいを正した。
 この時を待っていました、とばかりにスーッと息を吸い、顔を引き締めている。
「あの。望月さんて、芹沢さんと仲が良いよね?」
 何を言われるのかと思えば、またそんなことか。
 今まで何度も言われてきたお決まりのセリフに、飽き飽きしてしまった。溜息を吐きそうになったけれど、目の前の黒縁眼鏡の奥がやたらと真剣で、無碍にできずに吐き出そうとした息を堪えた。
 洸太と仲がいいか、と問われればそうなのだろう。奏太の四つ上に当たる洸太とは幼馴染みだし、実家は隣同士だ。今住んでいる一人暮らしの互いのマンションだって近い距離にある。
 小学校低学年の頃、親がマイホームを購入した。その引っ越した先のお隣さんが芹沢家だった。
 芹沢家には、同い年の奏太と四つ上の洸太の兄弟がいた。年齢が近いのと新しい土地に慣れないのもあって、両親は仲良くなってくれれば安心とばかりに交流もよくしていた。芹沢のおじさんとおばさんは、今も私のことを娘のように可愛がってくれている。
 中学や高校では思春期になって互いに少し距離を置くこともあったけれど、男女という垣根があるわりには、仲良くしていた方だろう。
「あの兄弟とは、幼馴染なの」
 何度口にしてきたか、数え切れない同じ台詞を言葉にする。なんなら、スマホに録音しておいて、訊ねられる度に大音量で聴かせたいくらいだ。
 一発屋の芸人の気持ちを、私ほど理解している奴もいないんじゃないだろうか。何度も何度も同じ台詞を言っているうちに、どんどん機械的になっていく。
 要するに、面倒くさい。
「え……、幼馴染? あ、……そうなんだ」
 気だるげに応える態度が、あからさまに不機嫌になったことに気が付いたのか、鈴木君は合点のいった顔をしながらも、少しばかり苦い顔をしている。
 それからわずかに考えると、「兄弟?」 と疑問を投げかけてきた。
「洸太には、私と同じ年の弟もいて」
「へえー」
 鈴木君は、洸太に弟がいることを初めて知ったようだ。当然か……。けれど、それについて特に深く思うことはなかったのか、話はまた洸太へと戻りホッとした。
 今奏太のことをあれこれ訊かれても、うまく話せる自信がない。
「芹沢さんて、その、……かっこいいよね」
 はにかむように笑みを作るから、思わず逡巡した。
 そうかもね、と軽く応えそうになりながらも、まさか鈴木君てそっち系の人? と思わず探るように見てしまう。さっき自分のことのように嬉しそうに話をしていた、バーテンダーの俊という彼にも、つい視線をやってしまった。
 彼ともそういう関係?
 自分のことでもないのに、少しばかり心音が速まる。
 生憎、周りにはそういった系の人たちはいないし、遭遇したこともなく。この場合、どんな対処をするのが正しいのかわからない。男女の恋愛と変わらないよ、というスタンスで普通にしているのがいいのかな。
 バーテンダーの彼を目で追った後、目の前の鈴木君に視線を戻した。視線を行き来させている様子に、彼はわずかに首を傾げている。どんな風に思われているのか、気がついていないようだ。
 洸太とバーテンダーの彼とではタイプが随分と違う気がするけれど、そういうのはたいした問題ではないのだろうか。インスピレーションとかそういうの?
 バーテンダーの彼は、例えるなら甘え上手な犬系っぽい。片や洸太は、スマートなチーターといったところだろうか。賢いけれど、獰猛な部分を持ち合わせている。
 洸太がもしもそっち系なら、鈴木君なんてあっという間に持っていかれるだろう。
 想像したら可笑しいのと、どう考えても洸太がそっち系ではないことに笑いがこみ上げてきた。
 くだらない妄想を繰り広げていることに気が付いているのかいないのか、鈴木君が言葉を続けた。
「芹沢さんて、いつも自信に満ちていて。仕事もできるし、憧れている人も多いよね」
 自分と照らし合わせているのか、それともやっぱりあっち系の人なのか。洸太のいい部分を、ポツリポツリと言葉にしていく。
「望月さんと仲良く話している姿を見ると、特に羨ましくなるんだ」
 もしかして、洸太との仲を取り持って欲しいとか言わないよね?
 洸太がらみの恋愛ごとに巻き込まれるのには、うんざりしていた。敵意を向けられることも少なくないし、間を取り持って欲しいという願いも多々されてきた。そういう頼まれごとをとにかく面倒に思う私と、そういう輩に全くの興味を示さない洸太のおかげで、社内ではつまらないうわさが独り歩きしている。けれど、そんなことは面倒に思うだけで、どうでもよかった。おかげで、鈴木君みたいなのにまでお願いされそうになっているけれど。ただ、流石にあっち系の人にまで頼まれるなんて、キャパオーバーですけど。
 自分でどうにかしてもらいたい。
「鈴木君くらいにいつも笑顔でお人好し全開なら、好かれることはあっても嫌われるなんて、そうはないと思うけど。洸太に一度訊いてみたら?」
 まー、洸太はあっち系じゃないから、オーケーを貰える可能性は限りなく低いと思うけれど。でも、友達くらいには、昇格できる気はするよ。
 鈴木君は、一瞬間を置いた後に面食らった顔をした。
「えっと、そういうことじゃなくて……」
 小さく「困ったなぁ」と呟くと、彼はグラスに手を伸ばした。けれど、さっきまで美味しそうな泡を浮かべていたビールは、気が付けばとうに空になっていた。
「ごめん」
 一言断ると、空のグラスを持ってカウンターへ行ってしまった。
 その背中を目で追い眺めていれば、グラスのない空いた方の手で頭をかき、バーテンダーの彼に何やら話しかけているのが窺えた。
 鈴木君はこちらへ背を向けているからどんな表情をしているのかわからないけれど、バーテンダーの彼はなんだか楽しそうだ。新たなグラスに注いだビールをカウンターに置いて鈴木君へ渡すと、タンと肩に手を置きサムズアップしている。
 なんだろう?
 よくわからないまま、残り少なくなった朝焼け空に似たカクテルを飲み干した。
 ビールを持って戻って来た鈴木君は、座ってすぐに喉を鳴らして半分ほどまで飲んだ。それから畏まったように、若干前のめりになり私を見た。
「望月さん、あの――――」
 そこまで言ったところで、椅子と背中の間に置いていたバッグが振動した。正確には、バッグのポケットに入れていたスマホが、着信で震えているのだ。
「ごめん」
 断りを入れてバッグからスマホを取り出せば、画面には洸太の名前が光っていて、呼び出し音の代わりに只管スマホを振動させている。具合が悪いと誘いを断った手前、通話に出るのは躊躇ってしまう。多分、二次会が終わり、かけて来たのだろう。だとしたら、いい感じに酔っているだろうから、少し面倒だ。洸太は、酔うと時々絡むことがある。
 奏太がいない今、絡んでくる洸太の相手を一人でするのは厄介だ。
「出ないの?」
 震え続けるスマホを見たまま動かずにいると、鈴木君が不思議そうに見ている。
「洸太だから」
 名前を出すと、少しだけ彼の頬がピクリと動いた。
 すぐさま反応を示すなんて、乙女心? 折角だから代わりに出て貰おうかな。鈴木君的には、嬉しいよね?
「出る?」
 震えては止まり、また震え出すスマホを鈴木君へ差し出すと、「えっ? なんで?」と怯えたように身を引いた。
「話したいかなと思って」
 スマホを差し出したままの私に向かって、鈴木君は全力で首を横に振った。
 やっぱり乙女心?
 再びそう思ってから、女子力あげなよと言いそうになってしまった。
 結局、鈴木君が全く出る気がないようなので、何度も鳴る洸太からの着信を無視して、もう一杯ずつアルコールを飲み、ジャズバーをあとにした。
 送っていくと言うお人好しな鈴木君へ断りを入れ、タクシーを拾い後部座席で目を閉じる。家に着くまでの間、奏太の笑顔を思い出していた。あの太陽のように眩しく、明るい笑い顔を。

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