2。BEGINNING

文字数 934文字

 位置としては、中2階といったところか。そこにポカッとした空間ができ、上半身だけを乗り出した形で登場しちゃってる私。
 特別、怪訝そうにするわけでもなく、名を聞いてきた彼。
 彼、名を“モト”と言った。
「俺、ずっと見られてたんだ」
「大変、申し訳ありません…」
「なんか…、ハズイな」
「返すがえすも、誠に申し訳なく……」
 まるで、何らかの不適切な言動をした人が、相手に指摘され謝罪しているような図が出来てる。

 ……あ、間違ってないか。

 全くの初対面の2人が、この通常とは言い難い状況で会話を交わしている。
 2m弱離れているだろうか?この微妙な距離がありがたいような、もう少し離れていてほしいような。
 こんな現実離れした空間の持ち方、明らかに“変”だ。更に、ずっと見詰めてるって、普通に怖い。
「マユキさんにって発言じゃなくて、」
 突然の名前呼びにドキッとする。
「…え?」
「こんな、弾けもしないのにチェロ持って、で、ただ座ってるって。それを見られてたなんて……俺がハズイなって」

 え、そこ?

「いやいやいや……」
思わず思ってることが言葉になる。
「モトさんのそうしてる姿、それだけでわくわくするし、新進気鋭の画家が、描きたくてしかたない思いを、穏やかに、それでいて力強く描いた絵画のように、物語が動き出しそうだもの。それは未来がある空間だわ」
 思わず力が入った。
 そして、そのあと訪れた静寂。
「え…っと…」
 ハッとする私。
「ああ…っと、ごめんなさい」
 恥ずかしい。私はいつも思いが先行すると状況が見えなくなる。いつも周囲から言われる“自分本位”発動だ。後で考えると、ほんとにその通り。

 あれ?
 私、どうやってここに来たんだろう?

「ああっと、ごめんね。気持ち悪いよね。ごめんごめん」
 ここから立ち去ろうとするが、どうしたらいいか分からない。
 これって、モトくんがいる方向と反対へ行くのかな?
 
 あれ?今までどうやってこの穴から立ち去っていたっけ?

 私の脳みそが混乱し始めたとき、綺麗な白い穴は靄のようになり、モトの顔が見えずらくなる。
「え?マユキさん?」
 モトが椅子から立ち上がったのが見えた。
「また、僕の夢に来る?」

 え…なんて…?

 振り返った…つもりだったが、そこは何もなかった。




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