第9話 私的読書体験

文字数 1,007文字

 子供のころ、読書と言ったらお兄ちゃんの所有している本を読むことでした。私は強烈なお兄ちゃん子で、両親が職場のストレスを家庭に持ち込むタイプの人間だったので、二人がケンカしている時は大概、お兄ちゃんの部屋に避難していた。そのせいで、(もしかしたら今でもそうなんだけれど)ブランドの衣服や、カバンなどを身に着けるより、『攻殻機動隊』のコミックを読んでいる方が格好いいと思っていました。
 こういう事はあまり語られませんが、読みやすい漫画と、読みにくい漫画ってあると思います。昔は『マスターキートン』も読みにくくて手が出せなかった記憶があります。難しくて読みにくい漫画を読んでいるだけで、格好いいと思っていたんだけれど、そういう人あまりいないのかな? 思春期まで同じ感覚の友達には会いませんでした。
 小説はライトノベルばかり並んでましたが、私が好きだったのは「村山由佳」さんの恋愛小説でした。本当に、手あかがつくくらい何回も読んだ。初めて買った小説もたぶん村山由佳さん。でも、お兄ちゃんの趣味で、小説と言ったらライトノベルなんだって意識が強くて、高校の時の友達が『ノルウェイの森』(村上春樹)を貸してくれるまで、一部の人が芸術のために小説を書いているってことに気づきもしなかったです。

学校の先生も教えてくれなかったです。なんで教えてくれないのでしょうか。
「いいですか、皆さん。森鷗外が理解できなくても、恥ずかしくありません。なぜなら、鷗外はアカデミズムや、近代人育成のために小説を書いていますので、現代の君たちを面白がらせるために書いていないのです」
 とか。
「明治文学とは、べらぼうな国費を使い留学して官僚になるくらいの知識水準を誇るエリートたちが、日本語を作り上げる意識とともに翻訳しだした日本近代化の最強兵器です。まあ、基本的に面白くはありません」
 とか教えてくれれば良かったのに。

 村上春樹さんの小説はちょっとサブカル文学のような半面があるので、私は『ノルウェイの森』をラブロマンスとして受け取ったのですが、その後、フィッツジェラルドの『華麗なるギャッツビー』に進む段階で、高校の友達と私は大きく躓きました。今なら言える。
「ねえ、君、ちょっと待って。そこから先はハイカルチャーの領域だから、予備知識として、1920年代の戦勝国アメリカの情勢がどうだったのか、まず調べなきゃ」と。
 なんか、無駄に遠回りしましたね。
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