Flashbacked
文字数 2,126文字
それは、確かに私の躰だった。でも、何かがおかしい。本来、「女性の躰にあるべきモノ」がそこにない。
躰に違和感を覚えた私は、自分の子宮の辺りを触れた。そして、胸の高鳴りを覚えた。
――これは、子宮なんかじゃない。所謂「男性の躰にあるべきモノ」だ。
高鳴る鼓動の中で「男性の躰にあるべきモノ」を握りしめた私は、そこで意識を失った。
*
――何をしていたのだろうか? 自分で自分の股間を握りしめたところで、一時的な快楽を得ることしかできないのに。手には――「白い液体」が付いている。「白い液体」は所謂「精液」と呼ばれるモノであり、栗の花のような独特の臭いがする。
手の臭いが気になった僕は、手洗い場で精液を洗い流した。――我ながら、情けない。
それにしても、自分で自分の股間を握りしめていた時の人格は明らかに僕の人格ではなかった。なんというか――「女性的な人格」だったかもしれない。とはいえ、僕はその時の記憶を持っていない。思い出そうとしても、とっくの昔に放送が終了したアナログテレビの砂嵐しか出てこないのだ。
そういう訳で、僕は時折誰かに支配されるかのように意識を失う。意識を失っている時には――頭の中に、明らかに僕ではない「他人の記憶」が紛れ込んでいるような気がする。もしかして、僕は「何か」に寄生されているのだろうか? そう思って、少し前に病院で脳のCT検査を受けることにした。
しかし、診断結果は――「異常なし」だった。矢張り、「僕としての意識を失う現象」は脳の欠陥によるモノではないらしい。ならば、他にどんな要因が考えられるのだろうか。
脳の欠陥でないとすれば――心因的なモノだろうか? 確かに、僕は父親がいないので――子供の頃は常に孤独な思いをしていた。とはいえ、「孤独だから」という理由で自分の心の中に「ここではない別の居場所」を作るということは考えにくい。だとすれば――矢張り、生まれつきのモノなのか。そう考えると、頭が痛くなってきた。
――どくん。
目眩がする。
――どくん。どくん。
耳の中で鳴り響く鼓動の音が鬱陶しい。
――どくん。どくん。どくん。
頭が割れるように痛い。
――どくん。どくん。どくん。どくん。
助けてくれ。このままだと死んでしまう。
――どくん。どくん。どくん。どくん。どくん。
目の前が真っ暗になって、急ブレーキとフロントガラスの割れる音――と言う名の幻聴が聴こえた。
――キキーッ! ガシャン!
「――きゃああああああああああああっ!」
*
ここは、どこだ? 僕は、誰なんだ?
温かい水の中で、心臓の鼓動が鳴り響いている。――子宮の中だろうか。
「――□□□□□□□□!」
えっ?
「――□□□□□□□□!」
一体、何が言いたいんだ!
「――□□□□!」
五月蝿 い! 黙ってくれ!
その場から離れようと思っても、僕は――離れられなかった。なぜなら、胎盤を繋ぐ臍 の緒が付いていたからだ。――これは、胎児の時の夢か。よく見ると、自分に似た胎児がいる。
「――□□□□□!」
ああ、そういうことか。
全てを察した僕は、その胎児の手を繋ごうとした。しかし、次の瞬間――。
――キキーッ! ガシャン!
女性の悲鳴が聴こえる。
子宮が押し潰される。
圧迫された子宮の中に、赤いモノがどくどくと入っていく。――血か。
羊水が、視界が、血に塗れていく。――鼓動が早くなっていくのが分かる。
――そういえば、僕に似た胎児はどうなったのだろうか? 臍の緒を手繰り寄せながら、僕はもう一人の僕を探した。
「――□□□□□□□□□□□□□□□□!」
か細い声が聞こえたので、僕は声がした方へと振り向いた。
――そこには、顔が潰れた血まみれの胎児が蹲っていた。
「う、うわああああああああああああああっ!」
僕は、醜い胎児を目にして思わず悲鳴を上げた。
それでも、胎児はか細い声で喋る。
「――□□□□□□□□! □□□□□□□□!」
どういうことなんだ? 僕には分からない。
でも、僕の頭の中に――何かが入っていく感覚を覚えた。
「――□□□□□!」
頭の中で声がする。多分、それは「胎児だったモノ」なのだろう。そして、「胎児だったモノ」は、僕の頭の中にするりと入っていった。
*
――また、あの夢か。これで何度目だろうか。
僕は、メンタルが不安定な時に胎児の頃の夢を見る。そして、その度に――酷く落ち込む。
――ああ、あああああああああああああっ!
酷く落ち込むあまり、叫び声を上げて破壊衝動に駆られた僕は――テーブルの上にあったモノというモノを全て薙ぎ払った。
ガラスが割れる音がする。本が落ちる音がする。雪崩 のように物が地面へと落ちていく。
散らかった部屋を見て、僕は自分の愚行を嘲笑った。
――あはは、あはははははははははははっ!
どうせ、僕は売れない小説家。小説を出すぐらいなら、今すぐにでも死んだ方がマシだろう。
大量の精神安定剤を服用して、カッターナイフで腕に傷を付ける。――そんなモノで死ねるとは思えないのだけれど、その時は死ねるような気がした。そして、僕は血溜まりの中で横たわりながら目を閉じた。
――こんな出来損ない、どうかしている。
躰に違和感を覚えた私は、自分の子宮の辺りを触れた。そして、胸の高鳴りを覚えた。
――これは、子宮なんかじゃない。所謂「男性の躰にあるべきモノ」だ。
高鳴る鼓動の中で「男性の躰にあるべきモノ」を握りしめた私は、そこで意識を失った。
*
――何をしていたのだろうか? 自分で自分の股間を握りしめたところで、一時的な快楽を得ることしかできないのに。手には――「白い液体」が付いている。「白い液体」は所謂「精液」と呼ばれるモノであり、栗の花のような独特の臭いがする。
手の臭いが気になった僕は、手洗い場で精液を洗い流した。――我ながら、情けない。
それにしても、自分で自分の股間を握りしめていた時の人格は明らかに僕の人格ではなかった。なんというか――「女性的な人格」だったかもしれない。とはいえ、僕はその時の記憶を持っていない。思い出そうとしても、とっくの昔に放送が終了したアナログテレビの砂嵐しか出てこないのだ。
そういう訳で、僕は時折誰かに支配されるかのように意識を失う。意識を失っている時には――頭の中に、明らかに僕ではない「他人の記憶」が紛れ込んでいるような気がする。もしかして、僕は「何か」に寄生されているのだろうか? そう思って、少し前に病院で脳のCT検査を受けることにした。
しかし、診断結果は――「異常なし」だった。矢張り、「僕としての意識を失う現象」は脳の欠陥によるモノではないらしい。ならば、他にどんな要因が考えられるのだろうか。
脳の欠陥でないとすれば――心因的なモノだろうか? 確かに、僕は父親がいないので――子供の頃は常に孤独な思いをしていた。とはいえ、「孤独だから」という理由で自分の心の中に「ここではない別の居場所」を作るということは考えにくい。だとすれば――矢張り、生まれつきのモノなのか。そう考えると、頭が痛くなってきた。
――どくん。
目眩がする。
――どくん。どくん。
耳の中で鳴り響く鼓動の音が鬱陶しい。
――どくん。どくん。どくん。
頭が割れるように痛い。
――どくん。どくん。どくん。どくん。
助けてくれ。このままだと死んでしまう。
――どくん。どくん。どくん。どくん。どくん。
目の前が真っ暗になって、急ブレーキとフロントガラスの割れる音――と言う名の幻聴が聴こえた。
――キキーッ! ガシャン!
「――きゃああああああああああああっ!」
*
ここは、どこだ? 僕は、誰なんだ?
温かい水の中で、心臓の鼓動が鳴り響いている。――子宮の中だろうか。
「――□□□□□□□□!」
えっ?
「――□□□□□□□□!」
一体、何が言いたいんだ!
「――□□□□!」
その場から離れようと思っても、僕は――離れられなかった。なぜなら、胎盤を繋ぐ
「――□□□□□!」
ああ、そういうことか。
全てを察した僕は、その胎児の手を繋ごうとした。しかし、次の瞬間――。
――キキーッ! ガシャン!
女性の悲鳴が聴こえる。
子宮が押し潰される。
圧迫された子宮の中に、赤いモノがどくどくと入っていく。――血か。
羊水が、視界が、血に塗れていく。――鼓動が早くなっていくのが分かる。
――そういえば、僕に似た胎児はどうなったのだろうか? 臍の緒を手繰り寄せながら、僕はもう一人の僕を探した。
「――□□□□□□□□□□□□□□□□!」
か細い声が聞こえたので、僕は声がした方へと振り向いた。
――そこには、顔が潰れた血まみれの胎児が蹲っていた。
「う、うわああああああああああああああっ!」
僕は、醜い胎児を目にして思わず悲鳴を上げた。
それでも、胎児はか細い声で喋る。
「――□□□□□□□□! □□□□□□□□!」
どういうことなんだ? 僕には分からない。
でも、僕の頭の中に――何かが入っていく感覚を覚えた。
「――□□□□□!」
頭の中で声がする。多分、それは「胎児だったモノ」なのだろう。そして、「胎児だったモノ」は、僕の頭の中にするりと入っていった。
*
――また、あの夢か。これで何度目だろうか。
僕は、メンタルが不安定な時に胎児の頃の夢を見る。そして、その度に――酷く落ち込む。
――ああ、あああああああああああああっ!
酷く落ち込むあまり、叫び声を上げて破壊衝動に駆られた僕は――テーブルの上にあったモノというモノを全て薙ぎ払った。
ガラスが割れる音がする。本が落ちる音がする。
散らかった部屋を見て、僕は自分の愚行を嘲笑った。
――あはは、あはははははははははははっ!
どうせ、僕は売れない小説家。小説を出すぐらいなら、今すぐにでも死んだ方がマシだろう。
大量の精神安定剤を服用して、カッターナイフで腕に傷を付ける。――そんなモノで死ねるとは思えないのだけれど、その時は死ねるような気がした。そして、僕は血溜まりの中で横たわりながら目を閉じた。
――こんな出来損ない、どうかしている。