第26話  愛情オムライス1号

エピソード文字数 4,105文字

あれ?  ……染谷君だっけ?
あっ、あれ? 君って確か、白竹さんの……
 染谷くんと魔樹が話してる。



 ってか何故染谷君がこの喫茶店に……

 まぁ、普通に来たんだろうが、内心かなり動揺していた。



 しかし今は楓蓮である。高校で仲良くやってる蓮とは違うのだ。

 他人を装う。知らぬふり。別人として対応しなければ。



あっ染谷君! どうも~~美優だよ。いらっしゃいませ~
白竹さん? うわっ。め、メイド衣装? すごっ

 高校の連中で盛り上がる三人。


 俺はその間、オーダー取りや配膳に必死になっていた。知り合いが来たんだから、これはしょうがないだろう。



 あの三人が何を話しているのか、気になるところではあるが。というか気が気でない。



 やがて染谷君がテーブルに付くと、俺と魔樹はレジ前に並んでいた。

「知り合いですか?」とわざとらしく質問すると、

僕じゃないけど。美優と同じクラスの友達だそうです

そうなんだ。どうりでフレンドリーだと思いました

美優ちゃんはあんな男の子どうなのかな?

どう? とは?
タイプなのかな~って
絶対違いますよ

 え? あ、あの……魔樹?


 クールな彼がもっとクールな受け答えをして、俺は青ざめてしまう。結構シビアな奴なんだなと思ってると、ふと思い出した。


 今のこいつは、白竹さんをナンパから救ったあの時のような感じだな。



 なんだか、白竹さんに近寄る男(染谷君が近寄ってる訳じゃないとは思う)とか、接点を持っている男には非常に厳しいヤツなのかもしれない。


 こいつって、もしかして二重人格じゃねぇのと思うほどの変貌振りを見せる魔樹。どっちが本性なのかわかりゃしねぇ。



 それは白竹さんにも言える事だが。


楓蓮さん。ちょっと彼のオーダーお願いしてもいい?
わ、分かりました。で、でも友達だったら魔樹さんのが良くない?
友達というか……僕はそう思ってないし
 ありゃま。ハッキリ言っちゃった。ぶった切ったぞこいつ。


 でも魔樹よ。彼はとても良い男だぞ。俺が保障してやる。



 という訳で、俺が染谷くんのテーブルに向かう。





ご注文はお決まりになりましたか?
 あれ? 染谷くん?


 何で俺の顔見て固まっちゃってるの?

あの……ご注文。お決まりに……なりました。か?
あっ! は、はいっ!

 何だ今の間は。


 俺が喋ってる間、俺の目をじっと見つめられたんだが。


 ようやく再起動した染谷君は、メニューの一つを指差した。

こ、これで……
はい。かしこまり……へ?

 今度は俺が固まる番だった。

 染谷くんが指差したメニューは【愛情オムライス】と言うメニューであったが、問題はそこじゃない。



 何故かメニューの横には、白竹さんや龍子さん。そして俺の名前が記載されていたのだ。

ちょ! ちょっとお待ち下さい

 いつの間に俺は……愛情オムライスを会得してたんだ?


 これは本来白竹さんだけがやってる特別メニューなはずなのに。





 俺がテンパっていると「どうしたの?」と魔樹が助けに来てくれた。


わ、私こんなの知らないですよ。ど、どうしていいか……

えっと染谷くん。誰のがいい?


龍子さんは今日休みなんで……美優か、楓蓮さんか、どちらかだね?

 こりゃ白竹さん一択だろう。間違いない。


 そう思ったのに……

あの……楓蓮さんで
は?

 お、おいっ! 染谷くん? な、何で俺を指名するんだよ!


 ぜってーおかしいって!

か~しこまり~。楓蓮さん。オーダー通して
は、はぃ……

 え? え? えぇ~~? 何で。何でだよ染谷君くん~!


 あまりのショックで逃げるように厨房へと向かっていた。

ちょっとじいじ! 私、こんなの聞いてないです!
ふぉっふぉっふぉ。よいではないか。何事も経験だぞい
突発的にハゲ頭を叩きたくなったが、ギリギリ我慢した。

あれ? 染谷くんが楓蓮さんをご指名したの?


わぁ~お~ドキドキですね! ドキドキですぅ!

ち、ちょ! し、白竹さぁん。や、やってくださいよぉ。私できないって。マジで
ただオムライスにケチャップで文字を書くだけでいいんじゃぞ。簡単簡単

 簡単じゃねぇって! マジでその頭殴るぞ!


 ってか俺は……こういうのすっげー苦手なんだ。


 皆知らないだろうが、俺はとんでもなく不器用すぎるんだよ。




 待つこと三分。白竹さん作のオムライスが出来上がると、俺は更に追い込まれた。


 マジで俺が書くのかよ……


やるんですか? なんて書いたらいいの?
好き。とかでいいんじゃないかな? ソレっぽいお言葉でいいと思われまする
えぇ~~? そ、そんな……
私も適当だもん。なんかこう、愛情が篭ってるような言葉にしましょうにゃ~ん
 にゃ~ん。俺の頭がにゃ~んって爆ぜそうだ。
じゃあ……「好き」で、行きましょう
 このバイトを始めて……超弩級の試練が来た。

 俺はそう直感した。ここはなんとか気合で乗り切れ!


 だが……

あはっ。難しいよね。とってもキュートな文字になっちゃった。あふふっ
ふぉっふぉ。文字というか何かの模様みたいじゃな

 ぬうっ。好き放題言われてやがるが反論できん。


 出来た文字は、好きの「好」とは程遠く、アラビア文字のような模様のような得体の知れない物が出来上がった。


 しかも失敗してもやり直しが出来ないし、俺の顔は縦線だらけ。


 ショックでフラフラと倒れそうである。

よいじゃないか。お客様には「初めてです。キュンキュン」って言えば許してくれるじゃろ。


男は何でも、女の子の初めてが大好きじゃからの~

 さっきからこのジジイは……


 女の初めて、とか。結構エロジジイだろ。


 まぁ自分の孫にメイド服着せるくらいだから、エロジイだとは思っていたが。

よし! こっちは何とか読めますね

 好きの「き」は成功だ。プルプル震えた感じにも見えるが、読めない事は無い。

 

 自分でエクセレントの評価をあげたいほど。上手くいったぞ。

完成~~わぁい~~~!


じゃあ楓蓮さん。愛情篭ったオムライスを早速持って行きましょう~やっひょ~

 ……これを染谷くんに持っていくのかよ。


 ってかこれ。ヤバくねぇ? 


 いや、絶対やばいってマジで!


 こんな記号みたいな文字で、金取ったらダメだろ!


がんばれ。楓蓮さん! ごーごー
文句言われたら、ワシが行くから大丈夫じゃて

 ああもう。二人並んでクネクネしないで下さい。


 今だけはそのダンス見てると腹が立ちます!

お待たせしました~愛情オムライスです。


あ、あの……凄く失敗しちゃって、す、すみ……すみません!

いえいえ。別に気にしないで下さい。


あざぁ~~~っす! 楓蓮さん!


 染谷くんのとんでもなく気合の入った声に、俺は思わず後ずさってしまう。

 

 しかも今、名前で呼ばれた事に動揺を隠せない。



 な、なんだ? なんなんだ?

 今日の染谷くんはちょっと違うぞ!



 何だかヤバイような気がする。危険な匂いがする。

 ケンカが強いオーラとは違う、別物の空気を感じ取っていた。



 あまり近寄らないでおこう。

 そう思うと俺はさっさと厨房へ逃げ帰った。染谷君に怒られはしなかったが、あれで良かったのかずっと考えてしまう。



 とにかく今の件は忘れて、他の客の対応をしていると、ちらっと染谷くんを見たのはいいのだが……



 なぜか俺の書いた愛情オムライスをガン見してやがる。

 スプーンも持ってないし、食べようとしないのだ。



 ってか早く食べてくれよ。

 それか記号みたいな文字を消してくれぇ! マジ恥ずかしいんだって!


し、白竹さぁ~~ん!

 またもや泣きが入った。助けてボス竹さん!


 あれは一体何なんですか? 染谷くんは何やってるの? 

あっ。ああいう人ね。多いんですよ。


暫くオムライスを眺めて……写メ撮ったりする人もいますし。なんだかよく分からないです

うっそでしょ? 意味がわかんないっす!

あっ。染谷くんも撮ってますね。もしかして……楓蓮さんにずっきゅんきたのかも。


はにゃ~~ん!  


 そんな馬鹿な……

 

 顔面蒼白のまま染谷君を見てみると、本当にスマホで撮ってるじゃないか? 極道の男の声ような「押忍」というシャッター音が数度鳴り響いた。



「押忍」「押忍」「押忍」って何回撮るんだよ!


 そ、染谷くん? 君って……そんな人だったのか?

いただぁきやぁ~~~す!


 店内に響き渡る染谷君の声。客も皆見てるぞ。


 嗚呼、ようやく食べてくれるみたいだ。その様子をみて盛大な溜息を吐き出していた。



 染谷くん。君も結構意外な一面を持ってるんだな。


 今日の事は、俺……見なかった事にしておくから。



 ※




白竹さん。凄く美味しかったです。また来ますね!
うん。待ってますよぉ~~~また学校でね


 染谷くんが視界が見えなくなると、心の中で胸を撫で下ろしていた。 

 自分でも何故こんなにテンパったのか意味不明だ。


 あそこは絶対白竹さんを指名するのが普通だろ? 


 それがどうしても腑に落ちなかった。




 もしかして……


 本当は白竹さんのオムライスにしようとしたが、魔樹もいたし、恥ずかしいので急遽変更したとか? 


 

 おおっ。そう考えると納得が行くぞ。

 いきなり本命を指名するよりも、どーでもいい俺を指名しておき、様子を伺っていたのかもしれんぞ。



 そうだ。きっとそうだ!

 慎重だな染谷くん。俺が君の立場だったとしても、同じアクションを起こすだろう。




 

 さて、染谷くんの話題はそれくらいにして、気を取り直そう。もう少しで閉店だからな。


 最後の客も魔樹と一緒に笑顔で送り出すと、九時を待たずに閉店した。

 

 さぁ掃除してさっさと帰ろう。そう思っていると、厨房の奥から出てきたのは……







みんなっ! あとは私に任せなさいっ! 任され~~な~さ~~い~~!
遅すぎ! 店閉まっちゃってるって!

 その人は魔樹にマジキレされてるのに、お構いなしにオペラ調で歌いまくっていた。


 クルクル回りながら後片付けをするのはいいのだが、スピードは尋常じゃない速さに驚くばかりである。



 まぁ言われなくても分かる。


 

 

 ピンクの髪の毛に芸能人顔負けのルックス。クルクルスキルにとんでもなく大きい胸。


 この人は間違いなく、白竹さんの……血縁の人だろうな。


 ただ。なぜナースの格好をしているのか、それだけが理解出来なかった。

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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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