第38話 猫園①
文字数 708文字
『一輝さんはただの事故死だったんだろ?』と正語がたずねた時、母親の光子は何か言いたそうにしていた——。
光子は何かを怪しんでいたのか?
スマホの件を調べてくれと言ってきたのも、そのためだったのか?
(……勘弁してくれよ)
正語はゲンナリしてきた。
(お母さん、あなたの息子は捜査二課ですよ。ドラマに出てくる刑事と一緒にしないでください……)

山道を降りるとすぐにその温室が見えた。
温室の入り口には、南京錠がかかっている。
(……体力があれば、中からガラスを蹴破って出られたかもな)
と正語は中を覗き込みながら思った。
だが熱中症が始まり、だるさや痙攣が起こっていたらそれも難しかったかもしれない。
(まさか誰かに何か飲まされて、身動きが取れなかったってことはないよな?)
当然司法解剖は行われたのだろうし、何か不審な点があれば、いくらなんでも所轄が騒ぐだろう。
疑い出したらキリがない。
一輝より
扱いやすい秀一
がこの家の全財産を継ぐという。(
扱いにくい一輝
が消えて、高太郎は明らかに父親を疎んじていた。
早死にした叔母を思ってのためか、好きな女との結婚を反対されたせいなのか。
それとも旧家の長男として生まれながら、甥っ子に全てを譲らなければならない悔しさなのか。
正語は守親が自分に向かい、拝むような仕草を見せた時のことを思い出した。
ゾッとした。
あの時の正語は呑気に、孫が世話になっている礼だと受け取った。
だがもし、
『助けてくれ』
の意味だとしたら……。