第24話   第四章 『冬の陽ざし』①  吹雪の後

文字数 1,051文字

 急に冷え込んだ元旦の明け方から降り始めた雪は、やがて強い風を伴い猛吹雪となって三が日の間続いた。
 
 その間、殆どのリフトが運休となり、一部のゲレンデ以外は閉鎖された。
 新年の休暇を過ごしに来たスキー客達はがっかりだった。
 スキー場にとっても一番のかき入れ時に大打撃だった。
 が、近くの温泉や居酒屋、レストラン等はどこも連日盛況だった。

 
「なんだよ・・〝雪乞い〟でも、しちまったのか・・」

 TVのニュースを見ながら、スキー場の関係者は嘆いた。
 その画面には、晴天の下、スキー客でごった返す他のスキー場の様子が写し出されていた。
 
 上空に停滞していた厚い雪雲が急激に活性化し、今回の猛吹雪をもたらした。
 が、その範囲は極めて局地的なもので、此処以外は隣接する二、三のマイナーなスキー場に限られていた。

 〝雪乞い〟というのもあながち的外れな冗談でもなく、何十年も前のことだが、ひどく雪不足の年に、実際に雨乞いよろしく銅鑼を打ち鳴らして雪雲を集めようとしたことがあり、今では笑い話になっている。
 それが今回、銅鑼ではないが・・厚い雪雲のたれ込める年越しの夜、新年を迎える巨大花火の轟音に驚いた人達が大勢いた。
 実際、打ち上げた当人、花火師自身も驚いていた。

「・・この地形が、関係でもしてるのかな・・」

 各地で何度か披露してきた仕掛けだが、これまでこんな爆音を伴ったことはなかった。


 三が日が過ぎた翌朝、カーテンを開けると、窓の外は信じられない程の光が溢れていた。
 上空には深く透き通るような青空が広がり、猛吹雪で辺りを埋め尽くした純白の雪と鮮やかなコントラストを作っている。
 自然のつくり上げた見事な造形・・。

 閉ざされて過ごしたこの三日間が、何か嘘のようだ。その間に思わずなされた約束は、果たしてすべて履行されるのだろうか・・。
 
 客室の清掃に取り掛かった晃子が窓を開けると、下の通りから歓声が聞こえた。
 子供達が積もった雪の中で転げ回っているのだ。待ち切れないスキー客達も、板を担いで繰り出している。光の反射に皆、眩しそうに目を細め、それがまた笑顔に見える。
 
 スキー場は再開され、雪山が息を吹き返した・・。
 
 ゲレンデでは早朝から続く圧雪作業に余念がなかった。しかしこの雪では、全て均すのにはかなり掛かる。
 おまけに、第四ゲレンデから上の山頂へと続くリフトは全て閉鎖されていた。
 大雪で機械のどこかが故障したらしく作動しないのだ。原因が分からないので、いつ頃復旧するのかそのメドも立たないようだ。

 
 
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み