二十六日目―02

文字数 7,562文字

 結衣が張り切ってエプロンをかぶり、僕をダイニングテーブルに座らせて、ずっと私のお尻を見てるのよ!なんてバカなことを言いながら、後回しにした「生=食」に取りかかるために、キッチンに立った直後に僕のスマートフォンが鳴った。
 僕は必要なアプリのインストールと、不要なアプリのアンインストール以外、スマートフォンを購入したあとに、なにひとつ設定をいじっていない。だから、キャリアが決めるのかメーカーが決めるのか知らないけれど、いわゆるデフォルトの電話の着信音が鳴った。
 僕のスマートフォンに電話をかける可能性がある人間を数え上げることは、凡そなにかを数えるという作業の中ではもっとも容易なもののひとつである。姉と母、いま目の前に立つ栂野結衣、そして刀矢湊斗しかいない。結衣はちょうど今そこでキッチンから振り返ったところだ。
 姉と母はいま僕が結衣と一緒にいることを承知している(出かけるときに僕がそう言ったからだ)。そもそも姉と母はこの夏の終わりに家で結衣と顔を合わせて以来、僕のスマートフォンを鳴らさなくなった。元々電話は少なかったけれど、このところすべての連絡をメッセージで済ませる。思春期の少年に対する配慮というやつだろう。
 他方で湊斗は滅多にメッセージアプリを使わない。受信者がいつ見ても構わないような用件は、発信者にとってもわざわざ伝える必要のない用件である。従って、メッセージの送付そのものが不要である。――湊斗という人間はそういう考え方をする。それでも先日はさすがに愛莉にメッセージを送ったわけだけど。いやしかしあれはついに湊斗にも

あとの話だ。
 従って、可能性を総当たり的に潰すのは至極容易なわけであり、この日に僕のスマートフォンで電話の着信音を鳴らし得る人物と言えば、それはもう湊斗のほかには考えられなかった。同じ推論を、結衣もまた瞬時に終え、僕を振り返ったわけだ。息を呑み、エプロンの端を握り、眼に力をためたのが、まさにそれを証明している。
 僕は「応答」の表示をタップした。
『手塚、ちょっと悪いんだが、ここに栂野を寄越してくれないか?』
「わかった。すぐ行くよ」
『悪いな。夜間出入口ってのがあるから、そこに着いたら電話してくれ』
「うん、わかった」
 湊斗はもう一度「悪いな」と言ってから通話を切った。結衣はすでにエプロンを外し、青梗菜とか豚小間肉とかを冷蔵庫に戻しはじめていた。僕には手伝うことがなかったので、結衣が(そもそもまだなにも手をつけていない)片づけを終えるのを待った。結衣はバスルームや洗面所を点検し、自分のベッドを整え、テーブルの上のお茶とお菓子はそのままに、財布やポーチやスマートフォンやを休日のリュックに押し込むと、丈の長い紺色のニットコートを着た。僕もダッフルコートを着て、灯りを消し玄関の戸締りを確かめると、小走りに駅へと向かった。
「湊斗はなんて言ったの?」
 電車に乗って車両のいちばん端、車椅子用のスペースの隅に立った。
「結衣を連れてきてほしい、て言われた」
「泉美ちゃんのためかな」
「お母さんに連絡しといたほうがいいよ」
「玲央もよ」
 僕らはそれぞれに母親にメッセージを送った。僕らの母親は御堂泉美という同級生の存在と、その稀なる特性を承知している。この夏、僕らはやはり湊斗に頼まれて、泉美が二学期から学校に通えるよう、週に三日は泉美の家を訪ねていた。僕と結衣が泉美の家に行き、結衣と泉美がバスに乗って電車に乗って戻ってくるまでのあいだ、僕と湊斗は泉美の部屋で二人の帰りを待った。泉美をバスや電車に乗せられるのが、なぜか結衣であることが判明したからだ。――「なぜか」について言えば、運命論的な解釈ができないわけではない。結衣の実父の不貞行為をきっかけに栂野家が崩壊したとき、その不倫相手が湊斗と泉美の母親だった。そう、いま僕らが大急ぎで病院に向かっている理由を作った人、恐らく容体が急変したものと思われる、まさにその人だ。栂野家は崩壊したのに刀矢家が無傷であったように見えるのは、不倫が露見するきっかけとなった事故を、刀矢家では母親の「いつもの狂言自殺」として処理し得たからだった。――そのことを、この夏に結衣は知った。七年前の出来事により、結衣の中でいつまでも収まりのつかないわだかまりを残してきた経緯(いきさつ)が、そこで明らかになった。運命論的な解釈と言ったのはそういう意味である。どうにも説明のつかない出来事を取り扱わなければならないとき、僕らは運命論だとか宿命論だとかを持ち出す。そうするよりほかないからそうするのであって、已む無くそうしている。きちんと説明ができるのであれば、僕らだって本当はそうしたい。ただ、どちらのほうが真に誠意ある態度なのかは――この世界の成り立ち方に対してだ――、なんとも言えないところだけれど。
 夜間出入口に着いた。電話口で湊斗が言うままを警備員に伝え、僕らは受付を済ませて指定された病棟のエレベーターに乗った。扉が開くとホールに真奈美さんが立っていた。僕らは待合室に案内され、そこで刀矢家と御堂家の全員(彼らをここに集めた当人を除く――彼女が今どこでどうしているのか僕らは知らない)と対面した。湊斗の父親に兄と弟、泉美の(育ての)両親と兄、真奈美さんと小さな娘、それに湊斗と泉美だ。見知らぬ顔もあるけれど、僕らが承知している頭数と見た目の年齢・性別は符合する。
 このような状況下で扉が開けば、顔が一斉に振り向けられるのは当然のことだろう。僕らはその、数えて十名のうち、九名の視線を浴びた。咄嗟に僕はよく見知った顔を探した。恐らく結衣もそうしたに違いない。四つある茶色い合皮のソファーのひとつに湊斗の顔があった。しかし僕らが湊斗を見つけた瞬間に、湊斗は僕らからすっと視線を外した。それは、十名のうち僕らに視線を向けなかった一名の耳元に、僕らの到着を報せるためだった。
 はッと顔を上げた泉美は、まるで僕らとのあいだの空間を跳び越えるように駆け出すと、まっすぐ結衣に抱きついて、溢れ出すというより弾け飛ぶほどの勢いで、部屋を震わせる大きな声を上げた。泣き出したのだと、僕には一瞬わからなかったくらい、空気が割れるような声だった。呆然と立ち尽くす僕の腕を、そのとき湊斗につかまれた。僕らは結衣と泉美のそばから廊下に出た。湊斗が後ろ手で扉を閉めても、泉美の声はもはや建物をも揺らしはじめており、扉一枚ではどうにもならなかった。
 廊下をひとつ曲がってエレベーターホールに出た。湊斗はそこで大きく息を吐いた。
「三時間――そう、三時間だな。泣かないんだよ、あいつが。唇を噛み締めてさ、踏ん張ってるわけだ。理由なんて訊くなよ? 俺にもわからないんだから。……しかしあいつが泣かないのはどうにもマズい。おかしな言い方かもしれないが、泉美が泣いてくれないことには始まらない。なにしろあの人の娘だからな。実の娘だからな。産んですぐに手離した、産まれてすぐに離された、曰くつきの娘なわけだよ。……集まってくる連中がみんな俺を見るわけさ、なんで泉美は泣いてないんだ?てな顔で。困惑してるわけだよ。まさに困惑ってやつだな。だってそうだろう? 泉美が泣いてるだろうと思ってくるんだからさ。死んだ母親の顔じゃなくて、泣いている娘の顔を見にくるんだからさ。泣いていてくれないと困るわけだよ。……俺は考えた。俺が考えるしかない。なにしろ双子の兄貴だからな、俺しか考えられるやつはいないよ。中学のときに『ドゥルーズ』を読んだときみたいに考えた。中学のときに『まどマギ』を観せられたときみたいに考えた。それくらい訳がわからなかった。このフランス人はいったいなにについて話してるんだ? この小娘たちはさっきからなんのゲームをやってるんだ? そんな感じだった。……が、ハッと気がついた。ここにひとつ足りないピースがある。それが栂野結衣だ。あいつが何者であるかを知っているのは真奈美さんしかいない。真奈美さんは口が堅い。名前を聞けば親父たちは気づくだろう。だがこのまま名乗らずに済ませてもいい。たぶんそうしたほうがお互いのためだな。……しかしとにかくだ、泉美は見ての通り見事に泣いてくれた。さすがは栂野だ。あいつは凄い。手塚、大事にしろよ。あんな女は滅多にいないぞ。だがおまえも偉い。なにも聞かずに栂野を連れてきた。生涯の友情を約束するよ。……ありがとう。……助かった。……恩に着るぜ」
 湊斗は壁に寄りかかり天井を仰いだ。一八八㎝の男に天を仰がれてしまったら、一七〇㎝の男には成す術がない。脚立でも持ってくるしかない。しかし泉美の泣き声はいくらか弱まったようだ。きっと疲れたのだろう。泣いたことにではなく、泣かずに頑張ったことに。結衣がくるまで泣かずに堪えたことに。それはきっと泉美の意地なのだろう。矜持ではない。そんな高尚なやつではない。あれは意地だ。意地でも泣くまいと決めたのだ。この人たちの前では泣くまいと決めたのだ。――ああ、いや、やめておこう。たぶん僕は勝手に適当な物語をこしらえている。
 やがて湊斗が顔を下ろした。長い腕で僕の肩を抱くようにして――いや、僕にその大きな体を預けるようにして――エレベーターホールを離れ、待合室の扉を開けた。結衣と泉美はソファーの端のほうに二人で座っていた。泉美はまだ泣いており、しかし建物や部屋を揺らすほどではなくなって、周りの人間たちもホッとしているようだった。いや、それは湊斗が言ったように、泉美の泣き声が穏やかになったからではなく、その前に泉美がやっと泣いてくれたからなのかもしれない。確かにそんな空気を感じることができる。僕と結衣が扉を開けたときに集まった視線とは、今は明らかに色合いが違っていた。
 湊斗と僕は泉美と結衣の向かいに腰を下ろした。きっと僕らが戻ってきたときにそこに座れるよう空けておいてくれたのだ。それもやはり泉美のためにそう考えたのだろう。亡くなったのは泉美の母親で、産まれてすぐに離されてしまった母親だから、泉美のためにそうすべきだと。
「玲央、泣いてる女の子の顔をね、そんなふうにじろじろ見たらダメ」
「見てないよ」
「湊斗もそうよ」
「俺はいいだろう?」
「なんで

のよ?」
「だって『お兄ちゃん』なんだぜ?」
 僕らが戻ってきたことにそこで初めて気がついたように、パッと泉美が顔を上げた。これでは見るなと言われてもどうしようもない。それは確かに泣いている女の子の顔であり、それもずいぶん酷く泣いたあとなのに、まだ泣きやまずにいる女の子の顔だった。
「泉美、酷い顔だな」
「お兄ちゃんほどじゃないよ」
「そうか? 俺も酷いか?」
「ぐちゃぐちゃだよ」
「そうか。じゃあ、一緒に顔洗いに行こう」
「うん、行く」
 唖然とする間もなく、僕と結衣は取り残された。すぐに真奈美さんがやってきてくれた。小さな娘は優斗くんと遊んでいる。僕は結衣の隣りに移った。真奈美さんが向かいに座った。ああ、この人だけちょっと違うのだな、と僕は思った。
「結衣ちゃん、ありがとう」
「あ、いえ」
「湊斗はきっと『ありがとう』なんて言わないだろうから、私が代わりに言っとくね」
「……お母さん、亡くなったんですね?」
「そう。三時半くらいだったかな。急にね。ちょうどみんな集まったところで。……今日からお休みでしょう? 私も二時までランチやってお店閉めたのね。片付けは明日でいいかな…と思って。午後にはみんな集まりそうだって聞いてたし。……でも、こんなことがあるのね。あの雪乃さんが、私たちが集まるのを待ってたなんて。正直ちょっとピンとこないんだけど。……変わった人だったから。近寄り難いって言うのかな。まあ、凄い美人だし。……ああ、写真なんてあるのかなあ。もう十年以上も表に出ない生活してたから、古い写真しかないかもね」
「あの、意識は戻ったんでしょうか?」
「うゝん。三週間、四週間か、黙って目をつむったままよ」
「そうなんですか……」
「でもね、泉美はいっぱいお話ししたって言うのよ。試験が終わってから毎日ここにきて、お母さんといっぱいお話ししたって。こんなにお話ししたのは初めてだって。……昔からちょっと不思議なことを言う子だったけど、泉美がそう言うんだから、きっと泉美がくるときはできたのよね。

がね」
 湊斗はさっき僕に「ありがとう」て言ったよなあ…と、僕はずっとそんなことを考えていた。一瞬それを真奈美さんに伝えようかとも思ったけれど、やめておくことにした。結衣にも話さずにおこうと決めた。湊斗にとって不名誉なことではないはずだが、なんとなく照れ臭いというか、居心地の悪い思いをするのではないかと思った。
 真奈美さんは湊斗と泉美が戻ってくると席を譲った。僕は泉美に文句を言われて結衣の隣りを明け渡した。仕方がない。今夜の結衣は泉美のものだ。まだ眼は真っ赤だったけれど、それでも顔を洗ってきた泉美はいくぶんすっきりとした表情だった。結衣に腕を絡め、ぴったりと体を摺り寄せると、穏やかに目を閉じた。そうして僕らはふたたび元の形に座り直した。泉美と結衣の向かいに、湊斗と僕が座った。
 そのときふと、この場がなにかの(あるいはだれかの)到着を待っていることに僕は気がついた。なんらかの期待感を込めて待ち侘びているわけではなく、約束の時間をとっくに過ぎていることに焦れているわけでもなく、あるいは来るか来ないかを見極めるタイミングを計っているのでもない。ただ待つべきものだから待っている、そんな感じだった。僕と湊斗ばかりでなくこの部屋にいるすべての人間が、結衣の肩に頭をもたれて目を閉じている泉美を見ていた。そうしていれば、この待っている時間を待っている時間として意識する必要がなく、ただ、ひとりの美しい娘(彼らの親族である)の穏やかな寝顔を眺めている時間に置き換えることができるから。
 たぶん泉美は眠っていた。あるいは眠ろうとしていた。どちらにしても同じことだ。
 程なく人の動きが起きた。待合室のドアから現れたのは背の高い女性だった。微かに皮肉っぽく歪められた口元、すっきりと真っ直ぐに通った鼻筋、見る者の足を動かなくさせることのできる鋭い眼差し、そして息を詰めて堪えるほかどうしようもない額の閃き――それは湊斗や湊斗のお兄さんや、そして泉美とのあいだに、いわゆる家族的類似性を思わせるに充分な、言葉に言い表せないなにものかだった。
 片腕に脱いだコートを掛け、コツコツと靴音を立てて入ってきた女性は、迎えるように歩み寄った男性(たぶんあれが湊斗の父親だろう)と、ふたつみっつ言葉を交わしてから、ゆっくりと僕らのそばにやってきて、湊斗が腰を上げた。
「遅くなってごめんなさい。こんな日に職場にいたのよ」
「いいえ。お待ちしているあいだに問題がひとつ片づきました」
「私は知らないほうがよかったことなのかしら?」
「怖い目で睨まれたかもしれません」
「それは命拾いをしたわね。――泉美はどこ?」
「そこに見えている頭が泉美です」
 その人は結衣の肩に預けている泉美の頭を上から見下ろすと、それだけで湊斗に顔を戻した。
「雪乃とは充分に話ができたのかしら?」
「どうせいつまでも終わらない話です」
「結論にたどり着けなくても、空腹は満たされるものよ」
「それならきっと充分でしょう。元々あまり食べないやつだから」
「きちんと食べるように言いなさい。まだ十七なんだから」
「そうですね。言っておきます」
 そこでくるりと踵を返した。待っていた湊斗の父親と思われる人と一緒に、その二人が最初に待合室を出た。ドアのすぐ外にもう一人、湊斗より背の高い男が待っていた。その様子から、女性の連れであるように見えた。横顔が、後ろ姿が、湊斗にそっくりだった。
 続いて一人、二人と待合室をあとにする。真奈美さんも娘を連れて表に出た。優斗くんも、御堂家の両親も兄も。しょうがねえか…と湊斗が呟いたように聴こえた。湊斗は僕の顔を見て口の端っこで小さく笑った。やはり自分も行くしかないという笑みのように見えた。僕らにはここで待っていてほしいという笑みでもあった。――いや、そうじゃない。もっとずっと大切な役割を、湊斗は僕らに委ねようとしていたのだ。抑えた声で、しかしいつもの湊斗の調子で言った。
「おい、栂野」
「なに?」
「トイレは済ませてあるか?」
「は…?」
「寝たぞ、そいつ」
 湊斗が顎で示した先で、結衣に凭れかかったまま、泉美はやはりすっかり眠り込んでいた。寝息が聞こえてきそうなほど完璧に眠っていた。結衣が僕の顔を見て困惑気味に眉根を寄せた。湊斗に言われて本当にトイレに行きたくなったのかもしれないと思ったら、違った。
「さっき急にさ、ずしんと重たくなったのよね」
「ああ、重たくなるって言うね」
「それに()ったかいのよね、なんかね」
「ああ、()ったかいとも聞くね」
「私のコート掛けてあげてくれない?」
「あ、わかった」
「それと、私にカフェオレご馳走してくれない?」
「いいよ、もちろん」(もちろんさ)
 僕はまず結衣の脇に畳んであったニットコートを拡げ、泉美の肩から体を包み込むようにして掛けた。次にコーヒーベンダーのカフェオレをふたつ買い(砂糖入りで)、ひとつを結衣の手に渡した。そのあいだに湊斗の姿は消えていた。刀矢家と御堂家の姿は泉美ひとりを残してみんな消えた。僕も紙コップを手に結衣の向かいに座り、すっかり眠っている泉美の顔と、それを覗き込む結衣の顔を眺めた。泉美はお母さんと充分に話ができたそうだから、ここでこうして眠っていて構わないのだと思った。
「玲央」
「ん?」
「あのとき見つけてくれたのが玲央でよかった」(急になにを言い出すのだろう?)「玲央も私でよかったって思ってる?」
「思ってるよ」
「ほんとに?」
「ほんとうに」
「よかった」
 結衣がにっこりと笑う。それがあまりにも可愛らしいから、僕は反射的に赤面する。だから泉美が眠っている反対側で結衣の隣に座り、泉美がすっかり眠り込んでいるのをいいことに、そして刀矢家と御堂家と謎の女性がすべて姿を消してしまったのをいいことに、僕は結衣の首を捻じ曲げて、記憶にある中でも最大級に淫らなキスをする。そっと薄眼を開け、いま僕と舌を絡めている女の子が他ならぬ栂野結衣に間違いないことを確かめて、あのとき〈明神池〉の破れたフェンスの中で見つけてしまったのがこの少女で本当によかったと、僕は心からそう思う。結衣もまたそう思っていると言った。彼女の〈未来〉があそこで途絶えなかったことに、誰かれ構わず感謝したい気分だ。
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