誕生日

文字数 2,947文字

「今度はこにぽんの誕生日ね」
「・・・田中さん、分かっていますね?」
「分かってますって。今度は普通にやるわ。サプライズは無し。皆を呼んでケーキ囲んでお祝いします」
「それならいいです」
「ケーキは兄貴に作らせるとして・・・あんた達」
 田中は横にいた5変態に話しかけた。
「なんだ?私達とて、こにぽん相手に悪さする気はないぞ」
「普段が普段だからね。今一信用しかねるんだけど。ま、皆を呼ぶって言った手前、あんた達を呼ばないってわけにもいかないし」
「なんだその言い草。我々だって相手は選ぶ。ロリコンではないのだぞ」
 田中の物言いに少々ムッとしながら反論するモモサワガエル。
「怒ったならごめん。別に他意があって言ってるわけじゃないし。でも何か芸くらいは準備しててよね」
「おうともよ。究極の一発芸をみせつけてやる。覚悟しとけ」

当日
 宣言通り、何もなく平穏に誕生会は始まった。ローソク吹き消し、皆がプレゼントを渡し、つつがなく進行していく。
「鬼子、酒が切れた」
「あら、いつの間に。次いでに料理も補充するわね」
 ヒワイドリの要求に対し鬼子が簡単に応じた。

 そう、簡単に・・・

「よし、いったな」
 鬼子が出て行ったのを確認するヤイカガシ。
「フフフ、今こそ好機。見さらせ田中!」
「な、何よ?」
 モモサワガエルの迫力に押されつつも反覆する田中。
「この前言っただろ、用意してやったぜ。見よ!これが!我々の!究極の!一発ゲイだ!!!」
 そういうと見つめあうヤイカガシとモモサワガエル。
「ヤイカガシ」
「モモサワ」
 ゆっくりと近づき、抱き合い、静かに唇を重ねあう。
 半魚人と蛙のいきなりの交合に、だれもが言葉を失った。
「ん・・・はぁ・・・んんっ」
「んはっ、ん、んん」
 ねっとりと舌を絡ませあう二人。
「こ、これはなんや。うちらは何を見せられとるんや・・」
 あまりの衝撃についなはふらつき、横に座っていた人に頭を預ける形になった。
「大丈夫?気分が悪くなった?」
 それは巧だった。ついなの様子を心配して声をかける。
「え?あ!田中の兄やん!ご、ごめんなさい!大丈夫です」
「そう?そうは見えないけど・・・外の空気でも吸いに行く?ついていくから」
 心配そうに顔を覗き込む巧。
(あ、あかん、顔が近い。それに、こんなに心配してくれる・・・うち・・・もう・・・)
「あ、あの!・・・うち・・うち・・・」
「はい!そこまで!」
 今まさに告白の瞬間、田中妹が割り込んできた。
「なんで邪魔するんや!せっかく覚悟決めたのに!」
「私だって邪魔なんてしたくないわよ。応援したいくらい。でもね・・・」
 田中は指を指して指摘した。
「その大切な、大事な、貴重な初恋の記念すべき初告白が、いずれ青春の一ページとして思い起こす時に、これが一緒になって思い出されるのよ!」
 田中の視線の先には、佳境に入らんとする二人の姿があった。
「や、止めろヤイカガシ、そこは・・・!」
「止めていいのか?体は正直だな」
「Oh、Yes!Yes!No・・Yes!No!No Stop!Yes!」
・・・
「・・・すまん、助かった」
「分かればいいのよ」
「しかし田中は平気なんか?」
「半魚人と蛙だと思うから不気味なのよ。あれでも人型ならイケメンなんだから。私ほどになると、人型に脳内変換できるのよ」
「いや出来たって男同士やんか」
「ついなちゃん、男は男同士、女は女同士で愛し合うのが正しいと思うの」
「なんか昔どっかで聞いたような・・・いや、そうやなくて!」
 だがついなの声は届かない。
「ぐへ、ぐへへ、ぐへへへへ」
 脳内変換の効力で、完全にトリップしている田中がいた。
「駄目やこいつ。早くなんとかせえへんと」
 だが周りを見渡しても頼りになりそうなのが存在しない。
「せめてこにぽんだけでも逃がさんと」
「そうだね、子供には見せたらいけないかなこれは」
「兄やん!こにぽん連れていってくれませんか」
「うん、その方がいいと思う。でも、君も一緒だよ」
「いえ、うちは残ります。残ってこいつら吹っ飛ばします!」
 ついなの悲壮な覚悟を見た巧は頷いた。
「分かった。でも無理はしないで」
「心配せいへんでええです。うちは世界最強の方相氏です」
 だがついなの見せ場は来なかった。
「あんた達!なにやってるの!!!!」
 怒号と共に鬼子の攻撃が二人を襲った。
「ギャアァー!!」
 不意打ちもあって、あっさりと萌え散るヤイカガシとモモサワガエル。
「お、もう終わりか。次は我々の番だな。見よ!我等3羽の共同作業、最新最高の隠しゲイ!!!」
 薙刀一閃。
「う・・・うちの出番が・・・」
 ついなの嘆きを他所に、鬼子の怒りは収まらない。
「どういう事ですか!変態達の好きにさせるなんて!」
 追及されているのは田中だ。
「私だって、あんな事するなんて予想できなかったわよ!」
 言い争い険悪な雰囲気になろうとしていたが、鬼子の和服の袖が引っ張られる。
「鬼子、怒らないで、私、いい子にするから」
 目に涙を浮かべるこにぽんの姿を見て、その場にいる全員が慌てふためいた。
「だ、大丈夫よこにぽん!私達、喧嘩なんてしてないから」
「そうよ、ほらこんなに仲良し」
 肩を組み合いアピールする田中と鬼子。
「本当?」
「本当本当。さ、パーティーの続きよ」
 席に戻りパーティーが再開された。
「あの、巧さん。良かったら今日、泊っていきませんか?・・・その、私の部屋に・・」
「ちょっと待てやこのエロ鬼。何する気やねん」
「あ、ついなちゃんは帰っていいですよ」
 鬼子とついなが言い争いを始めるが、これはいつもの光景。
「二人とも止める」
 とこにぽんが窘めるが、泣き顔どころか呆れ顔である。日常が戻ってきた証拠だ。
 さらに
「まったく、鬼子は加減を知らん」
「左様左様、もっと我々の事も考えて欲しい」
 何事もなく5変態が部屋に入ってくる。
「まったく、あんた達、本当にしぶといわね。自信無くしちゃうわ」
 鬼子は諦めの溜息を付きつつ話しかけた。
「今日は特別。あんた達も座りなさい。あんた達でも、いないとこにぽんが寂しがる」
 こうして、こにぽんの涙も消えて楽しい時間が始まった。

 数日後
「え?これは?どうして縛られてるんだ?」
 目を覚ましたわんこは拘束されている事実に驚愕していた。
「それはね」
 頭の上から聞きなれた声が答えた。
「般ニャー!お前の仕業か!放せ!」
「それは出来ない相談よ」
「何故だ!」
「だって、本当はあった出番がテンポ悪くなるって理由で削られちゃったじゃない。だから落ちでやるはずだった芸を披露するのよ」
「いや、やらなくていい!綺麗に終わっちゃいけないのか!」
 わんこの嘆願は無視された。
「私、般ニャーと特別ゲスト、田中姉さんが送る目くるめくナイトショー。綺麗なお姉さん二人が、抵抗出来ないかわいい男の子にイケナイ事を教えちゃうぞ」
「大丈夫よ、痛くしないから。天井のシミを数えてれば終わるから」
「やめろ!やめてくれぇ!」
 今日も空は青かった。

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