第1話

文字数 1,116文字

白い窓から見えるのは青い空。
昨日は灰色の空。一昨日は夕方、紫色に染まっていた。
今日は雲ひとつ無く、青く澄んだ空が広がる。
その青い空の下、多くの生物が多くの感情を持ち、多くの出来事を経験しているのだろう。
私もその1人に数えられるのだろうか。
息はしている。つまり生きてはいるのだろう。
しかし、体は愚か、目だけしか動かせない。もちろん口も動かせない。
人とはパソコンを通して話をしている。目の動きで文字を打つような機械だ。
「あなたは生きている。」
死人と会話ができたならそう言われるだろう。
私もそれは分かっているが青い空の下で生物として生きているのだろうか。
生かされているの間違いじゃないか。
100年前だと私は確実に死んでいる。
医療が発達したせいで私は生きている。否、生かされている。
生かされているから私に死を選ぶ権利はない。死ぬことすらこの体ではできまい。
望みがあるとすればもう目を開けなくて良くなることだ。
充分生きた。もう充分。
いつも空を見ている。空とは多くの表情を見せてくれる地球からの贈り物だ。
雨の日でも、空の色は少し違う。もちろん今日のような晴天でさえ、色が違う。
心の変化によって見え方が違うのかもしれないが、よーく見ると色の明るさ、輝き、温かみが異なる。なんとも面白いものだ。
青い空の向こうにはまだまだ知られていない場所があるのだろう。
もしかしたら、本当に天国や地獄なんてものがあるかもしれない。
死を目前にすると人はどうなるのだろうか。と考えたことがあった。
今、実際に目の前にある。

私は無だ。
死を目の前にしても何も感じない。
結局は生き物なのだ。生があれば死がある。
その死によって生み出されるものなど無い。無に帰るだけだ。もう充分だろう。人は長生きしすぎだ。長生きすれば本当に幸せなのか。短い生命には違った美しさがある。違うしあわせの形がある。強欲なのは、人だ。わがままで、自分勝手で、人生に意味があると考える。バカな生き物である。もう充分じゃないか。何年生きれば気が済むのだろう。管に繋がれた私は、生かされている私は生命の輪廻からすでに降りてしまっているのではないだろうか。死を両足を踏ん張って堂々と待つことができず、腰が曲がりそれでもなお生にしがみつき、震えながら迎える。なんと醜いのだろう。

白い窓からいつも見えるのは生命を作った地球から見える空、宇宙、無限の世界である。
無限の世界へ私はもうすぐ飛び立つのだ。
新たなまだ見ぬ死という世界へと。

白い窓から私は死の世界を見ている。
白い窓から私は次の世界を見ている。
白い窓から私は夢の世界を見ている。
白い窓から私は宙を見ている。

この世との決別の時と同じ時、私は新たな世界へと飛び立つ。



ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み