第1章

文字数 1,709文字

2020年、3月27日のブログより

 「忘れられた本の墓場」シリーズの第4巻、完結編です。「風の影」から始まるこのシリーズ、私は最初の2巻は日本語、3巻目は英語、そして第4巻はスペイン語で読もうと原書を購入しましたが、最初の数ページ読んだだけで挫折、数年間そのままにしていました。それが感染症の影響でほとんど外出できない、スペイン語教室も3月は自主的に休んでいたので仕事のない日はかなり暇、思い切ってまた読み始めました。といっても1か月かけて読めたのは最初の章、1000ページある中の20ページほど、かなりスローペースです(笑)

「忘れられた本の墓場」シリーズはスペインではベストセラー、空港の本屋でもたくさん山積みになって売られていました(そこで購入したのではなくネットで注文したのだけど)前の本に比べてこの第4巻はかなり分厚く日本ではまだ翻訳本は出版されていません。出版はされてないけど著作権の問題があるので、ブログでは詳しいあらすじやネタバレになるようなことは書かないようにします。

「風の影」から続くこの物語の大きなテーマはスペインの内戦と独裁政権下で家族を失い、人生を狂わされた人の姿です。主人公ダニエルは幼い頃母を病気で失い、彼を見守るフェルミンは投獄されホームレスとなる、登場人物それぞれが深い傷を負っています。歴史の本で知識として知るだけではわからない、小説だからこそそこに住む人々の深い悲しみが手に取るように伝わってきます。スペイン人にとって内戦や独裁政権は過去の出来事ではなくその痛みに耐えながら生きて、様々な芸術や思想、小説が生まれたのだと思いました。

 原書で読むのは時間がかかり面倒です。特にフェルミンのセリフが、彼はものすごい知識人で格言をたくさん引用し、同時に女好きだから俗語もいっぱい使っている(笑)シリーズ第3巻までの日本語訳はその微妙なニュアンスをうまく訳してあって素晴らしいです。フランス語やイタリア語など同じラテン系の言葉なら、おそらく翻訳も単語を変えるだけでそんなに難しくないと思います。でも日本語に翻訳するのは、内容を理解した上で登場人物によってセリフの言い方を変えなければならない、難しいです。

 スペイン語で相手に言う時は「tú」と「usted」の2つがあります。「tú」は親しい相手「usted」は敬語ですが、日本の敬語とは使い方が少し違います。たとえばスペイン語の教室で、先生やクラスメートに対しては相手の立場や年齢に関係なくほとんど「tú」を使い、「usted」はすごくよそよそしくて冷たい関係に聞こえるそうです。逆に道を聞いたり駅でチケットを買うなど知らない相手に対しては必ず「usted」を使うのが礼儀のようです。小説の中でダニエルとフェルミンの会話は2人とも親しいのだから当然「tú」と思っていたら「usted」でした。2人の関係は親しいけど、それでもダニエルにとってフェルミンは人生の師であり危険な時助けてくれた命の恩人、そしてフェルミンから見たダニエルもホームレスから抜け出すチャンスをくれた恩人、互いに相手への敬意が強いから「usted」を使っているのかなと考えました。

 スペイン語は大げさな表現が多いです。驚いた時には眉毛が反乱を起こし、的確な表現はクレーン車でピンチョスをつまむようと書いてありました。いや、気持ちはわかるけど、そこまで言わなくても(笑)スペイン人の先生とかゼスチャーが大げさだけど、スペイン語は言葉そのものに感情がこめられていて、怒りとか怖さが半端ないです。言葉が国民性、その国の人の気質を作り出すかもしれないと思いました。

 外国語の本を読むことは、いい時間つぶしになります。日本語の本を読むより何倍も時間がかかりますから。そして時間がかかるので、今のように状況がコロコロ変わって落ち着かない時に自分の心を静める役割も果たしてくれます。ついつい夢中になりすぎて買い物に行くのが遅れ、必要なものがすっかりなくなっていて家族に怒られることも数回ありましたが、それでも世間の価値観から離れ、1人静かに本の世界に没頭するのはいいものです。


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