第315話 オラってるヤンキーほど寂しがり屋

文字数 3,024文字


 宗像先生のお説教が終わると、先ほど渡された『一ツ橋だより』に目を通すよう指示された。
 なんでも、秋学期から入学した生徒たちの自己紹介が載っているらしい。
 パラパラと読んで見ると、20人ぐらいの簡単なメッセージがあった。
 
 
『ウチ、腰振りダンス上手いんでよろ』
『俺は地元で有名なヤンキーで、ケンカ早いので、気をつけてください』
 クソみたいな自己紹介だな。
 最後に変な生徒が一人。
『僕は一ツ橋高校に愛する女性を探しに来ました』
 なんだ、この変態は……と名前を確認すると、筑前 聖書。(25歳)
 俺の絵師。トマトさんか。他人のふりをしよっと。
 
 新入生を一通り確認し終えると、宗像先生が突然叫ぶ。
 
「では、これにて一ツ橋高校、秋学期始業式を終了とする!」
 ファッ!?
 え、もう終わりなの?
 まだ始まって30分も経ってないのに。

 言葉を失う俺に対して、他の生徒たちはぞろぞろと席を立ちあがり、食堂から出ていく。
 一応、式でしょ? こんなんでいいの……。

「タクト☆ このあとチャイナタウンで遊ぼうよ☆」
 なんて嬉しそうに笑うミハイル。
「ああ……構わんが」
 こんな秒で終わる始業式なら必要ないんじゃない?

  ※

 俺とミハイルは一ツ橋高校を後にして、赤井駅付近にあるショッピングモール、チャイナタウンに向かった。
 チャイナタウンとは、中国地方を拠点に九州地方、四国地方などに展開している大型のショッピングセンターだ。
 直営のスーパーだけではなく、数々のテナントもあるため、一日遊べるアミューズメント施設と言っても良いだろう。
 
 ミハイルが遊ぶと言ったが、正直俺たちティーンエージャーが楽しむ所は少ないように感じるのだが……。
 まあ、全日制コースの三ツ橋高校の生徒たちも店内でちらほら見かけるし、何かしら暇を潰せそうだ。
 なんだか、学校帰りに友達とスーパーで遊ぶなんて、リア充みたいだな。


「さて、なにをして遊ぶ?」
「んとね……ゲーセンでパンパンマンの乗り物で遊ぼうよ☆」
「え……」
 想像しただけでも、しんどい。
 大の男同士があの幼児向けの小さな乗り物で遊ぶとか。
「あれね。オレん家の近くのダンリブにもあってさ。乗り終わるとカードが出てくんの。パンパンマンの☆ それ全部集めたくて、毎日ダンリブ行っているけど、あと2枚が出なくてさ」
 なんて苦笑いするミハイル。
 ちょっと、小さなお子さんのために自重しませんか?
 あなたの収集活動で、幼児が泣いているかもしれません。

 呆れた俺はその案を却下しようと、口を開こうとしたその時だった。
 誰かがこちらに向かって走ってくる。
「ミーシャ! ちょっと待ってよ~!」
 振り返ると、ミニスカギャルの花鶴 ここあだ。
 偉く慌ているようだ。
「ここあ? どうしたの?」
「どうしたのじゃないって~ マブダチ置いて遊ぶとかなくない? 最近付き合い悪いっしょ! リキもほのかと2ケツして帰るしさ……あーしってハブられてんの?」
 それを聞いた俺とミハイルは、顔を見合わせて笑う。
(リキのやつ。いい感じぽいね☆)
(だな)
 二人で頷いていると、花鶴が頬を膨らませる。
「ねぇ! それじゃん! あーしに隠し事ばっかしてさ!」
「あ、いや……そう言う意味じゃないんだよ、なあミハイル」
「うん……ここあのこと嫌いとかじゃなくて」
「じゃあ、説明するっしょ!」

  ※

 花鶴が俺たちに不満を持っているため、とりあえず、フードコートで話し合うことになった。
 丸いテーブルに三人で座る。
 ちょうど、昼時だったので、昼食を頼むことに。
 全員、バラバラの店で注文した為、各自呼び出しベルを持って待機。

 花鶴はかなり怒っているようで、ぶすっとして腕を組んで座っている。
「あんさ~ あーしらダチじゃん? なのに付き合い悪くない? ミーシャはタバコもやめて、なんかコソコソしてるし。リキも急にほのかと仲良くなって、あいつまでタバコやめるとかさ。マジおかしいよ!」
「「……」」
 恋の力です、とは言えなかった。
「ねぇ! 二人ともなんで何も言わないん? あーしだけぼっちじゃん! タバコも一人で吸って吐いておいしくないんだけど!」
 ドンッとテーブルを叩く。
 涙目で。
 意外だった……ヤンキーって結構寂しがり屋なんだな。

 その時、ブザーが3つ同時に鳴った。
 ミハイルがそれを見て「オレが二人の分取ってくるよ」とベルを持って去っていく。
 いや、気まずくて逃げたんだろ。

 一人残された俺は、花鶴にギロっと睨まれる。
「ねぇ、オタッキー。あーしさ。この前、思ったんだけど?」
「な、なにを?」
 彼女は深いため息を吐いてから、こう語り始めた。
「この前、別府で会ったブリブリ女さ……あれって、ミーシャだよね」
「いっ!?」
 思わずアホな声が漏れる。
「最初はさ。いとことか言うから、信じてみようと思ったけど。やっぱおかしいんだよね。あーし、ミーシャとは幼稚園の時からの仲だけど、親戚とかいないはずなんだけど」
「……」
 脇から尋常ないぐらい大量の汗が湧き出る。
「だってさ。昔ヴィッキーちゃんから聞いたけど。死んだミーシャのおじさんとおばさんって駆け落ちで結婚したから、親戚には内緒で席内に引っ越してきたってさ」
 花鶴って意外と鋭いんだな……。
 またアンナの正体を知る人が現れてしまった。
 どうする。宗像先生はアンナのことは黙ってやると理解してくれたが……。

「それにさ、ミーシャほどのカワイイ子。ハーフで見たことある? ダチだからとじゃなくて。あいつ、男だけどルックスはマジ神がかってない? 女のあーしでも嫉妬するぐらい」
「う、うん……」
 同調してしまった。
「ねぇ、オタッキーさ。マブダチのミーシャにさ、女の格好させてナニさせるつもり? ミーシャ泣かせたらマジ許せないんだけど?」
 そう言って、テーブルの上に肘をついて、顎をのせる。
 もちろん、睨みをきかせて。
 この時ばかりは、伝説のヤンキーの顔つきだ。
 物凄い圧力を感じる。

 振り返ると、ミハイルは店の前で出来上がった料理を受け取っている。
 仕方ない。打ち明けよう。

 覚悟を決めた俺は、花鶴にミハイルがアンナに変身する理由を説明した。
 女装はあくまでも小説のためだと念を押して。
 恋愛感情ではなく、友達だから……と嘘の情報も追加しておく。

 それを聞いた花鶴は目を目開いて、言葉を失う。

「……」
「すまん。花鶴、黙っていて。だが、ミハイル本人には言わないでくれ! あいつ、お前やリキに知られたら、きっと……ショックで死んじまうかもしれん。頼む、ダチとしてお願いだ!」
 俺はそう言って頭を深々と下げる。
 テーブルにごちんとぶつけるほど。
「……そっか。そういうことか」
 恐る恐る顔を上げると、花鶴は静かに頷いていた。
 なにか考えているようだ。
「花鶴。一生のお願いだ! 女の格好をしている時はアンナとして接してやってくれないか? じゃないと……あいつが傷つく!」
「いいよ」
 あら? 簡単に了解してくれた。
「本当にいいのか? お前を結果的に騙していたのに……」
「余裕っしょ! ていうか、それを知ってんのって。ダチの中ではあーしだけなんでしょ?」
 ミハイルの秘密を知ってむしろ嬉しそうに笑う花鶴。
「そうだが……」
「ならいいよ♪ ダチの頼みだもん。そっか、ミーシャもオシャレしたい年頃だもんね。それなら協力するっしょ!」
「えぇ……」
 なにもしないでくれると、ありがたいです。
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