第31話 誰

文字数 562文字

 創造は、

こと。
 創ろうとするのではなく、創

もの。
 おのが語ろうとするのでなく、語

もの。
 この言葉はそぐわない、あの言葉もそぐわない、と、思いが器に収まることなく彷徨い歩くうちは、それは語られたがっていない。
 おのが意思とは無関係のように語られるものが、真実の言葉であり、偽りの余地の入らぬ言葉だ。
 語ろう、語ろうとするうちは、言葉を繕うとするだけで、からっぽの石膏でかためられる。
 虚構の偶像で胸を一杯にしたところで、さっさとヒビ割れ、壊れる胸像だ。

 わたしは聞いたことがある、わたし以外のものが、わたしに語るのを。
 わたしは口述筆記する者のように、それに従った── 従う意識もなく。
 翌朝、自分が書いたものを見て、誰が書いたのか分からぬほどだった。
 それはひとりで歩き、喋り、語っていた。
 わたしの求める創造物は、創造しようとしてされたものでなく、創造

もの── 何の意図もなく零れ落ちた水の足跡。

 それは時間を要さない、ただ零れ落ちる── わたしはただそれをパソコンに表記した。
 創造者が誰であったのか、わたしは知らない。
 あのような仕方で、ものが書けたら最高なのだが。
 それは不意に来る。
 何の力も要さず、何の覚悟も要らず。心も思いも必要とせず。
 そう、力── 力など、まったく要らずに。
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