舞踏会 前編  ✿ 結婚式の予習

文字数 1,320文字

結婚式を1カ月前に控えた、ある夜。


メアリーとルークは、宮殿の舞踏会へ赴いた。

国王の挨拶のあと、音楽と舞踏が始まったのだが。
ご飯はまだかしら
立食形式で好きなものを取りに行けるようだが、テーブルに料理が並べられていない。
ご飯のない社交場は、つまらないですか、メアリー

王様が、ご飯を奮発してくださると、期待していたのです。


普段、多額の税金を徴収しているのですから、こういうところで良いとこ見せないと。


貴族やお金持ちに良い顔するのも社交術ですわ。

さすが、メアリーは言うことが違う
それはどういう意味ですか、ルーク様
ルーク、と

あ、そうでした。


それにしても、ご飯が遅いわねぇ

せっかくきれいな顔してるのに、メアリーは口を開けば〝ご飯〟なんだから。


宮廷楽団の演奏を聞ける機会なんて、めったにないことだよ

そうね、素晴らしい演奏だわ。


この美しい曲に合わせて、あんなにきれいにステップを踏める皆さんもすごいわ

他の招待客は、フロアに出てパートナーと踊っている。
メアリーは踊りたいですか?

いえ、遠慮します。ダンスは眺めてこそです

その通り! 眺めるのも芸術鑑賞!


見ているだけで教養が深まりますね!!

この2人、なにを隠そうダンスが大の苦手だった。
おねーさんたち、躍らないの?

少年は、少女の手を引いてフロアに出ると踊り出した。


メアリーとルークへ、流し目をくべる。

な、なんか挑発してますよ、あの少年

あんなガキの挑発に乗っちゃだめですよ、メアリー


フロアに出たが最後、あなたのドレスを踏んで共にずっこける未来が見えます!

ええ、ずっこけますとも! 私も、同じ未来が見えました
2人はお互いの顔を見て大きくうなずくと、同時に笑い出した。

けれども、せっかく練習したのです。


今日は稽古の時と違って、ピアノだけでなく、オーケストラもいます。ですから…

ルークの腕をつかむと。

ご馳走も遅いし、いっしょに抜け出しません?


この美しい音楽が届く、静かな場所はないでしょうか。


できれば、転んでも痛くない場所がいいです

練習で踊りたいんですね

ルークも、人がいない場所の方が落ち着きませんか。


私、少し人に酔いました

ついてきて
2人は舞踏会場を出て、お城の長い廊下を歩き出した。
さあ、着いた。ここだよ

なんて美しい庭なの。音楽がこの庭まで聞こえます。

庭の美しさもさることながら、今宵の月は一段と美しいよ。
満月ですね
メアリーは両手を組み合わせ、目を閉じる。
なにか願い事が?

はい。明日、アンの目の手術と伺っていたので。


手術が成功しますようにと。


ルーク。あの方々へ心遣い、私からも改めて感謝申し上げます

あなたの願いとあらば無下にできません。


彼らは罪を犯しましたが、戦争の被害者でもあります。


俺もあなたに倣い、ともに祈りましょう

2人は月に祈りを捧げた。


宮殿から聞こえていた音楽がゆるやかに止み、静寂が訪れる。


しばらくすると、軽やかで陽気な曲の演奏が始まった。

この曲、存じていますわ。
お手をどうぞ、メアリー

お城の庭で何度もこけ、笑いながら二人は躍った。


躍っている間に振る舞われた高級肉メアリーは頂けなかったけれど。


月光の下で「結婚式の予習に」と、花嫁は少し早めの誓いのキスを頂きました。



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登場人物紹介

シスター・ガブリエラ


本名:メアリー・デイヴィス

ルーク・リンフォード


伯爵卿の息子。

シスター・テレサ


修道女。負傷兵アルバートの手当てをした。

アルバート


 元軍人。顔が怖い。

 戦後、警察官になる。

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